34話
森の中、何らかの理由で、ぽっかりと木がない開けた場所がある。そこには背の高い草が生え、風で波打っていた。
ガクは草をかき分け、進む。
ソーニャ―は、草原の中、座り込んでいた。その眼には、大きな目隠しがつけられている。
もうスキルを使っているのか?
ガクの脇を冷たい汗がつたう。
ソーニャは、立ち上がり、目隠しを額まで持ち上げる。
「これをとれたら、ガクのかち」
ソーニャは、額の布を指さす。
ガクも、自分の額を指さし、
「僕のを取ったら、ソーニャの勝ちだ」
二人はうなずき、お互いの武器を取る。
ガクは木刀を構える。距離を測りながら、ソーニャをにらみつける。
ガクは、ソーニャの攻撃を分析する―ソーニャの武器は、音だ。ガクが知る限り、装具から放たれる音波を受ければ、頭痛や吐き気、平衡感覚の喪失で動けなくなる。
だが、音波攻撃は、数秒間の隙がある。だからこそ、植物や氷を使い、疑似的に二対一の状況を作り出し、隙を作れば勝機はある。
ソーニャは、装具をガクに向けながら、ゆっくりと歩き出す。
ガクは、その動きを、植物で解析する。今は、広大な森の一部がガクの知覚となり、武器となる。ソーニャが音波を放った瞬間、勝負に出る―ガクは、木刀に込める力を込める。
ソーニャが囁くように、
(戦律―震撼)
こたえるように装具が咆哮。ガクは、咄嗟にその場から離れ、ソーニャへと接近。同時に植物のツルをソーニャに跳ばす。
ソーニャは体勢を崩し、音波はガクの頭上に―空間が抉られたような音が髪をなでる―全身から血の気が引く。
それでもガクは、ソーニャのすぐそばまで接近―木刀の間合い。身体に力を込め、木刀を構える。
ソーニャは、ガクに背を向け、走り出す。杖が重いのか、スピードは遅い。
咄嗟にガクは、ソーニャを追う。全力で走るが距離が縮まらない。何か重いものを抱えているような、奇妙な感覚。
重い、と形容したが、それは決して嫌ではない。昼食を食べた後の、身体の奥から湧き上がる心地よい眠気のような、そんな感覚だ。
ガクは、走りながら考える。ヒトには、リズムがある。心拍、脈拍、呼吸。そういった物は、身体を伝う「振動」だ。心拍が速まるのは、血液を全身に送り、身体を戦闘モードにするためだ。つまり、血液を送るという理由があり、その結果として心拍は速まる。
ここでガクの脳裏に、一つ疑問が浮かぶ―もし仮に、巧妙に偽造した「振動」が外部から発せられ、その影響を受けたら身体はどうなるのか?
身体と心は、つながっている。そして、優先度は、身体が上だ。もし、高い心拍を偽造した振動が、身体に伝わったら、逆にあまりに緩やかな振動が(リラックスするような)が身体を伝わったら―
ガクは、自分の戦意が急速に萎えていくのを感じる。足がどんどん重くなり、気力が抜けていく。
このままでは、まずい―
ガクは歩みを止め、後方に跳ぶ。そして、ステップを繰りかえし、ソーニャから距離を取る。活力がもどり、戦意が湧いてくる。
ガクは直感する―やはり、ソーニャの使う技には、範囲がある。おそらく、半径2メートルほどだろうか。その範囲内では、戦闘行為が禁じられてしまう。
「ならっ!」
ガクは、気に絡まっているツルを取り、片方を腕に巻き、もう片方を遠くの木へと投げる。そして、枝にツルを引っ掻けると同時に、それをしならせる。枝が戻ろうとし、ガクは引っぱられる。
ツル内部の水分や組織を操作し、強度を増させることにより、ガクは空高く跳び上がる。
空中でガクは思う―地面を離れれば、技は効かないだろう。
そして、ガクはソーニャに向け、落下。草をクッションにし、衝撃を吸収。
眼前に現れたガクに、ソーニャは呆然とする。ソーニャは咄嗟に装具を振る。
また、さっきの「戦律―震撼」だろうか。だとしたら直撃すればひとたまりもない。ガクは咄嗟に横へ跳び、ローリングして距離を稼ぐ。音波が横を通り過ぎるのを感じた。
ソーニャはまた距離を取ろうとする。しかし、瞬時にガクは立ち上がり、ソーニャに接近。急速に二人の距離が縮まる。
ソーニャは観念したように、歩みを緩める。身体を折り、はぁはぁ、と荒い息を吐いた。汗が草木に滴っていく。
「諦めるんだ」
ソーニャは座り込み、呼吸を整えている。真っ白な肌を汗が伝う。
これで終わりだ―そう思った瞬間だった。
地の底から聞こえるような低い唸り声。ガクが、周囲を見ると、黒い影が数匹。
真っ黒な犬が、唸り声を上げ、周囲を囲んでいる。
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