33話
炎の民から連絡がきた―襲撃は我々のしわざではない。証拠もあるという。
手紙が直ちに潔白を証明することにはならない。それに、異能者が暴れてもどうにもできない、と言うイメージが付いてしまったのは痛い。
ガクは、フェルグスに呼び出された。
「お前に任務がある」
「何でしょう」
「ソーニャを連れ、散歩に行くんだ」
「どういうことです?」
フェルグスは目じりを揉み、
「隣国である噂が流れだした。北部同盟は、特区設立を皮切りに異能者を保護しようとしている。だが、現状では、散歩の一つを行かせられないほど監禁している、と」
「だから、散歩ですか?」
「ソーニャから提案してきた。許可するとはいえ、散歩させられる範囲は、中央地区の防壁までだ」
「街から郊外、そして、防壁に続く森という事ですね?」
フェルグスは頷き、
「森へ行くのなら、これの汁を体に塗るんだ」
フェルグスは、木の実をガクに手渡す。
「森には、番犬が放たれている。この木の実の臭いを付けていれば、こちらから攻撃しない限り、襲われることはない」
「分かりました」
「頼んだぞ。ガク」
ガクは、フェルグスの目を見て、頷く。
ガクは、ソーニャに対し、ある疑念を抱きながらも、領主の家に向かう。
部屋に入ると、ソーニャは甲冑を着て、装具を持っていた。
「がく―」
ソーニャは、大きく息を吸い込み、
「おねがいある」
「何でしょう」
「わたしをとめてみせて」
ソーニャの瞳は、真剣そのもの。
「どういう意味でしょう」
「しょうめいして……あなたとなら、わらっていいって」
そう言って、ソーニャは装具を両手で持ち、脇で抱える。パイプオルガンと杖を組み合わせたような巨大な武器。
ガクは言葉の意味を理解した。そして、それを裏付けるように、
「ソーニャ様……いや、ソーニャ。君に聞きたいことがあった。本当は、君は炎の民に襲われてなんかいない」
ソーニャは表情を崩さずに頷く。
「植物で、君の装具を解析した。ヒビが入っているのは、外見だけだ。内部構造には歪みがない。君は、アイメルトの手先か?」
ソーニャは首を振る。
そうだろう、とガクは思った。植物の知覚を理解しているソーニャが、わざわざ装具を触らせたのだ。違和感に気付け、と言っているようなものだ。
(私は、最近まで残党と一緒に居た。でも、彼らと居ても幸せな未来は思い描けなかった。それを彼らに話すと……)
ソーニャは顔を伏せ言葉をつむいでいく。
(北部同盟に行き、特別研究地域の現状を見ろと言われた。私は、それに希望を抱いた。だが、来てみれば、私を恐れる人ばかりだった。理解せず、排斥しようとする人ばかり……アイメルト残党からすれば、私がそう言った感情を抱くのも計算の内だったんでしょうね)
ソーニャはため息をつき、
(でも、ガク、あなたは違った。そして、あなたから、皆に変化が伝わり、変わり始めている。だから、一つ、わがままを言わせてほしい)
ソーニャは、ガクと目を合わせ、
(あなたは、私を恐怖しながらも、私を理解しようとしている。その強い意志は感じ取れる。でも、私は、それだけでは満足できない。あなたが私の能力を理解するのには時間が掛かる。おそらく、この力を恐れなくなるのは、ずっと先になる)
(そうかもしれない)
(それでも、私はあなたを信じたい。人は、100割、他者を理解し、恐怖を抑えられる訳じゃないのは理解している。ならば、あなたにとって、私もそうでありたい。聴覚能力は理解できなくていい。でも、私の戦闘能力に関しては、あなたにとって脅威ではないと、あなたが理解し、超えることのできる力だと分かれば、それは一つの理解の形)
(分かったよ)
(私を止めて見せて。そして、一部分でも、私を理解して、制御できると確信して)
ガクを見つめ、ソーニャが言った。そして、ベッドの上に置いてあった練習用の木刀(刀身は木を編んで作られており、動物の皮でそれを巻いている)を見る。
ソーニャの目に宿るのは敵意ではない。暴れたら、止められると証明してほしいという強い願いだ。
(できなければ―)
ソーニャの口調がわずかに冷たくなる。
(私は、ここを出ていく)
感情のこもった、強い一言。
ガクは、歯噛みする。もし、ソーニャが出ていけば、次は敵として戦うことになる。それに、ここでソーニャが出ていけば、協議は、異能規制派に傾く。
二重の意味で負けられない。
(散歩は建前だったんだね)
ソーニャはうなずき、
(戦う場所を決めて欲しい。公平な条件で戦いたい)
ガクは、自分が出来るだけ有利になるように、
「郊外の森に行こう。獣はいるが、ちょっかいをかけない限り襲ってこない」
「わかった」
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