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八重咲の勇者 ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第三部 漆黒の魔女 編
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33話

 炎の民から連絡がきた―襲撃は我々のしわざではない。証拠もあるという。


 手紙が直ちに潔白を証明することにはならない。それに、異能者が暴れてもどうにもできない、と言うイメージが付いてしまったのは痛い。


 ガクは、フェルグスに呼び出された。


「お前に任務がある」


「何でしょう」


「ソーニャを連れ、散歩に行くんだ」


「どういうことです?」


 フェルグスは目じりを揉み、


「隣国である噂が流れだした。北部同盟は、特区設立を皮切りに異能者を保護しようとしている。だが、現状では、散歩の一つを行かせられないほど監禁している、と」


「だから、散歩ですか?」


「ソーニャから提案してきた。許可するとはいえ、散歩させられる範囲は、中央地区セントラルの防壁までだ」


「街から郊外、そして、防壁に続く森という事ですね?」


 フェルグスは頷き、


「森へ行くのなら、これの汁を体に塗るんだ」


 フェルグスは、木の実をガクに手渡す。


「森には、番犬が放たれている。この木の実の臭いを付けていれば、こちらから攻撃しない限り、襲われることはない」


「分かりました」


「頼んだぞ。ガク」


 ガクは、フェルグスの目を見て、頷く。


 ガクは、ソーニャに対し、ある疑念を抱きながらも、領主の家に向かう。


 部屋に入ると、ソーニャは甲冑を着て、装具を持っていた。


「がく―」


 ソーニャは、大きく息を吸い込み、


「おねがいある」


「何でしょう」


「わたしをとめてみせて」


 ソーニャの瞳は、真剣そのもの。


「どういう意味でしょう」


「しょうめいして……あなたとなら、わらっていいって」


 そう言って、ソーニャは装具オルガンを両手で持ち、脇で抱える。パイプオルガンと杖を組み合わせたような巨大な武器。


 ガクは言葉の意味を理解した。そして、それを裏付けるように、


「ソーニャ様……いや、ソーニャ。君に聞きたいことがあった。本当は、君は炎の民に襲われてなんかいない」


ソーニャは表情を崩さずに頷く。


「植物で、君の装具を解析した。ヒビが入っているのは、外見だけだ。内部構造には歪みがない。君は、アイメルトの手先か?」


 ソーニャは首を振る。


 そうだろう、とガクは思った。植物の知覚を理解しているソーニャが、わざわざ装具オルガンを触らせたのだ。違和感に気付け、と言っているようなものだ。


(私は、最近まで残党と一緒に居た。でも、彼らと居ても幸せな未来は思い描けなかった。それを彼らに話すと……)


 ソーニャは顔を伏せ言葉をつむいでいく。


(北部同盟に行き、特別研究地域の現状を見ろと言われた。私は、それに希望を抱いた。だが、来てみれば、私を恐れる人ばかりだった。理解せず、排斥しようとする人ばかり……アイメルト残党からすれば、私がそう言った感情を抱くのも計算の内だったんでしょうね)


 ソーニャはため息をつき、


(でも、ガク、あなたは違った。そして、あなたから、皆に変化が伝わり、変わり始めている。だから、一つ、わがままを言わせてほしい)


 ソーニャは、ガクと目を合わせ、


(あなたは、私を恐怖しながらも、私を理解しようとしている。その強い意志は感じ取れる。でも、私は、それだけでは満足できない。あなたが私の能力を理解するのには時間が掛かる。おそらく、この力を恐れなくなるのは、ずっと先になる)


(そうかもしれない)


(それでも、私はあなたを信じたい。人は、100割、他者を理解し、恐怖を抑えられる訳じゃないのは理解している。ならば、あなたにとって、私もそうでありたい。聴覚能力は理解できなくていい。でも、私の戦闘能力に関しては、あなたにとって脅威ではないと、あなたが理解し、超えることのできる力だと分かれば、それは一つの理解の形)


(分かったよ)


(私を止めて見せて。そして、一部分でも、私を理解して、制御できると確信して)


 ガクを見つめ、ソーニャが言った。そして、ベッドの上に置いてあった練習用の木刀(刀身は木を編んで作られており、動物の皮でそれを巻いている)を見る。


 ソーニャの目に宿るのは敵意ではない。暴れたら、止められると証明してほしいという強い願いだ。


(できなければ―)


 ソーニャの口調がわずかに冷たくなる。


(私は、ここを出ていく)


 感情のこもった、強い一言。


 ガクは、歯噛みする。もし、ソーニャが出ていけば、次は敵として戦うことになる。それに、ここでソーニャが出ていけば、協議は、異能規制派に傾く。


 二重の意味で負けられない。


(散歩は建前だったんだね)


 ソーニャはうなずき、


(戦う場所を決めて欲しい。公平な条件で戦いたい)


 ガクは、自分が出来るだけ有利になるように、


「郊外の森に行こう。獣はいるが、ちょっかいをかけない限り襲ってこない」


「わかった」

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