31話
北部同盟、中央区、騎士団稽古場―
深夜と言うのに、騎士たちが集められ、会合が行われることになった。ガクはチユキとエッカルトと共に、話を聞いていた。
「もし、炎の民が攻撃を仕掛けてきたんだとしたら……我々はアイメルト残党以上に強大な敵に相対することになる」
フェルグスが言う。
「ですが、まだ炎の民の仕業と決まっていません。炎を使う能力者は他に数名います」
騎士の一人が言う。
「火を使える異能者は、片手で数えられるほどだ……」 フェルグスは目を揉む。
嫌な沈黙が辺りを包む。その時、皆が何を連想したか、ガクには分かった。
黙示録の角笛吹き(アポカリプス・トランぺッター)―アイメルト家にいたとされる伝説の異能。数十年前に北部同盟の騎士、およそ百人を一瞬で消し炭にしたと言われている。
黙示録に現れる炎を操る天使になぞらえ、憎悪と畏怖を込めて、彼は《黙示録の角笛吹き》と呼ばれている。北部同盟で異能者に対し、差別や偏見、嫌悪や畏怖があるのは、彼による大量虐殺が原因なのだ。
業火が再び現れたら―誰もが、それを恐れているのが分かる。むしろ、ソーニャを意識的に《角笛吹き》と呼ぶことで、大火を忘れようとしていたのかもしれない。
「それに、現場に残っていた火薬の調合は、炎の民が使用するものだったと聞いている」
フェルグスは、うめくように言う。
「炎の民と敵対すれば、我々は全滅です。慎重な判断を」 騎士は汗を拭いながら言う。
「炎の民に使いを出す。その返答による」
重々しい空気の中、ガクやエッカルトは、締め出される。情報共有は終わったので、上層部で話し合いが始まるという事だ。
エッカルトが歯噛みし、
「ソーニャのチーム、異能者はソーニャしかいなかったそうじゃないか」
「そう聞いてる」チユキが何食わぬ顔で言う。だが、その拳は強く握り締められている。
ガクは、
「敵は、チームを分裂させたんだ。ソーニャを引き付け、チームと離れさせた。その上で、両方に攻撃を行った。ソーニャは腹部に打撃を受け、気絶していた。だからといっ―」
エッカルトが立ち止まり、
「異能者が暴れた際、異能者が居なければ何もできない、その証明になった、そうだろ!」
ガクも立ち止まり、エッカルトと向かい合う。
「やめ!」威嚇しあう二人を、チユキが抑える。
「私たちが争ってどうするの!」
ガクとエッカルトは、ぽかんとし、お互いの顔を気まずそうに見る。
ガクもエッカルトも、異能者が自由で公平に暮らせる世が来ればと思っていた。異能者であるガクは当然だし、配偶者が異能者のエッカルトもそうだ。その社会に繋がる道が途絶えようとしている。二人のやるせなさは、お互いが一番分かっていた。
「はい、はい。もう寝る! ガクは、ソーニャのとこ行くんでしょ?」チユキが手を叩き、解散させる。
ガクは、護衛として、ソーニャの所へ行かなければならない。
ガクは気まずさを感じながら、領主の家に向かった。
領主の家に着くと、ソーニャはベッドで眠っていた。そのまま夢を見ていてくれ、とガクはため息をついた。
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