3話
数日後―
ガクは目覚め、布団から顔を出す。すぐそばには大柄な男が寝ている。中年の男で四角い顔をしていた。その身体には蔓が巻き付き、葉が重ねられている。
ガクが〈植物操作〉を発動すると、男の体温、心拍、筋肉の動き、内臓の調子、それらが手に取るようにわかる。植物の持つ驚異的な知覚を共有しているのだ。とはいえ、自分の体でしか分からないこともある。
ガクは掌で、男の身体に触れ、傷の調子を確かめる。
「大丈夫そうだな……」
ガクが安堵の息を吐き、軟膏(塗り薬)の準備を始める。
「すまんな……」
男が野太い声で言った。
起きていたとは気づかず、ガクは跳び上がりそうになる。
「いいえ……仕事ですから」
「にしても大した腕だな」
ガクは、テキパキと傷口の状態を見て、場合によっては洗い、薬を塗り、圧迫しながら布で傷口を包んでいく。
男の名は、フェルグス。高名な騎士で数々の戦争を生き延びてきたという。それを表すように刀傷が全身にあった。
「医学の力と〈植物操作〉を併用できる者はなかなかいない……女なら……いや、もう男でも良いから、嫁にもらいたいところだ」
フェルグスは歯を見せ、笑って見せる。傷口から血が流れていても、こんな調子なのでガクは驚かされる。
「こんなこと……誰でもできますよ」
ガクは暗い眼をして、言う。
「どうして、そんな事を言う」
生殺与奪の権利を握っているから、このように褒めてくれるのだろう。フェルグスの言葉を受け取れず、ガクの脳裏に騎士団で言われた事を思い出す。
―そんな異能力では、どうしようもない。20年前なら、持てはやされたかもしれない。今では、戦力にならない
鬱屈はたまり、ガクの性格を歪めていった。そして、ガク自身もそれに気づいていた。
「ぼくは、こんな状況でも自分の事ばかり考えている。あなたの事を心配するべきなのに……最低だ」
「そんなことはないぞ」
ガクは、フェルグスの言葉を無視し、小屋から出ようとする。
「少なくとも、その医学知識は本物だろう」
ガクも自己流で研究し、植物を操作し、人工血液などを作り出そうとしたこともあった。人体の構造を解析し、薬を調合し、それは成し遂げられるかと思われた。
しかし、完成度の高い物は作れず「ヒトが体内で生成する物とよく似た化学物質を、植物で作り出せる」と言うことしか分からなかった。
「こんなの誰にだってできますよ」
「そうか……だが、俺の騎士団にとっては貴重だ。俺の騎士団に来ないか?」
ガクは息を飲む。心臓の鼓動が激しくなる。もう一度、騎士として働きたい。もう一度、誰かに必要とされたい。
「無理ですよ……僕には」
ガクはそう言い、薬草を摘みに行く。
人体の構造を解析、模倣し、その動きの一部を再現する。それが血肉を作り出し、骨や内臓を作り出せたなら、神の御業と言えた。だが、ガクにできるのは、出力される物が人体と同じ、と言うだけで、人体そのものは作り出せないのだ。それに脳や一部の内臓は再現不可であった。
「こんな外れ異能力じゃなかったら……」
唇を噛み、ガクはうめく。スキルのせいにしてしまう自分も嫌だった。もっと、他の選択肢もあったかもしれない。
いつも通り自己嫌悪に陥っていると、血の匂いがした。ガクは、立ち上がる。
森の奥から血の匂いがする。獣の発するのとは異質な臭い―戦場の臭い。ヒトのにおい。
ー傭兵か、それとも騎士か……どちらにせよ、まずい
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