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八重咲の勇者 ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第三部 漆黒の魔女 編
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28話

 一度目の討伐任務を終え、ソーニャたちが中央区セントラルにもどってくる。


 任務は、上手く行ったようだ。戻ってきた騎士たちは、セレモニーの中を、ソーニャと歩いている。その後ろには、投降してきたアイメルトの異能たち。


 ソーニャも馬に揺られ、きぜんと前を向いていた。


「露骨なアピールだが……仕方ないな」 エッカルトがぼやく。


 アイメルト残党に投降をうながす、次世代の異能の姫―作り出された虚構。


 ガクは、ソーニャが領主の家に戻るのを見て、自分も向かう。部屋に向かい、侍女メイドに挨拶する。


 ガクが部屋に入ると、ソーニャは、ぐったりと布団に倒れ込み、手で目を隠している。おさげが解かれ、絹のように滑らかな髪が、布団の上に流れていた。


(お疲れ様です。ソーニャ様)


 ガクがささやき声で言うと、ソーニャは、ちらり、とガクを横目で見る。


(思ってたより、マシ。稽古したおかげ)


(よかったです)


 寝た姿勢のまま、ソーニャの口角が上がり、


(何か、侍女の人に聴こえる声で話さないと)


 まるで、ひそひそ話が大人に気づかれないようにする子供のようだ。


 ガクは、植物から意識を少しずつ戻る。ソーニャが横に置いてあった本を指で触る。本をめくる音が、轟、となるのが、少しずつ小さくなっていく。


「「「ばら」」」


「「ぱら」」


「ぱら」


 ぱら、ぱら、ぱら、


 ふと、ガクは、ソーニャが意識して、それを行っているのに気づく。ガクが、感覚を取り戻すのを、把握できるようにしてくれているのだ。


 ガクは礼をし、


「残党の様子はどうでしたか。協議の件もありますから、過激化していると聞きますが」


「きょうぎ、どうおもう」ソーニャは先ほどの会話などなかったかのように、蚊の鳴くような声で言う。


 あくまでも、異能の姫と、それを守る騎士に戻るという合図だ。ガクは、ソーニャを見つめる。ソーニャも、ガクを見つめていた。


「異能者に対する保護特区の協議の事ですか?」


 ソーニャは頷く。


「そうですね……特区の設立には資金難、法的な問題、地元住民の反対……様々な問題があります」


 スラスラと言葉が出たのは、ガク自身も関係のある話だからだ。


 協議における北部同盟の主張はこうだ―異能への差別・偏見を減らすために、異能を制御する機構を作り出す。これだけだと小さな一歩だ。だが、異能者と無能力者の違いを無くすために必要な根本でもある。


 現実的な計画として、異能者が暮らす特区を作り、まずはゆるやかな監視状態を作りつつ、異能者を研究する。ある種の拘束具を開発し、異能を制御するのが現状の目標だ。異能者の子作りには、一定の規制を設けるが、禁止や去勢などは行わないというのだ。


「しっぱいしてる。むかし」


 ソーニャの言葉に、ガクは胸の内を射抜いぬかれたような感情を覚える。


 異能者が暮らす特区の設立。それは、十数年前にアイメルト家領で行われ、構想のみで終わっている。


「今回も失敗すると?」


 ソーニャはこちら側に寝返りを打ち、


「だいいちに、おかね……ない」


 あなたが広告塔になるんですよ―ガクは言えなかった。


「資金のことは、両国が協力し、解決すると思います。信じて待ちましょう」


 ソーニャは、ふと、自分の耳を引っぱり始めた。ストレスによる行動なのか、耳の一部が赤くなっている。


「痛めてしまいます」


 ガクとしては、とっさの無意識の行動だった。ソーニャの細い指をつかみ、耳から手を離させる。子供にするようなそんな気持ちだった。


 ソーニャは一瞬、ぽかん、とガクを見た。そして、指から手を離し、顔を隠した。


 ガクもハッと息を飲む。


 アイメルト家領内では、異能者は高位の聖職者として扱われていた。高位の聖職者ということは、異性との関わりは最低限に制限される。禁欲こそ、神への奉仕だからだ。


 ソーニャ程の異能者ならば、伴侶ですら気安く触ることは許されない。それを、ガクが触れてしまったのだ。


「失礼しました……」 ガクは冷や汗を流しながら、頭を下げる。一瞬で心拍数が上がる。


「とれちゃえばいい……こんなの」


 ソーニャは耳を内側に折り、顔を隠すようにした。怒ってはいないようだが、不快な思いをさせたかもしれなかった。


ガクは頭を垂れながら、咄嗟に囁き声で、


(それがあるから、こうしてお話しできるのですよ)


ソーニャは、息を飲み、おずおずと自分の耳を撫でた。


「軟膏をお持ちしましょうか?」


「いい……じぶんでする」


 ガクは、戸棚から軟膏を取り出し、ソーニャに渡す。ソーニャは撫でるように耳に軟膏を塗った。


 会話はその一瞬だけで、ガクは、草木に水をやり、定時になると家に戻った。

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