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八重咲の勇者 ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第三部 漆黒の魔女 編
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26話

 視界の端で、黄色いフワフワとしたものが動いていた。


 ソーニャは、ぼんやりと目を開ける。


「たくさん寝たな、ソーニャ」


 黄色いフワフワは、芯のある高い声を発する。それが女性の像を形作っていく。


「安心して眠れるのは、良いことだ。たくさん寝ると良い」


 ソーニャは、女性の隣で眠っていた。フワフワの布団にくるまれている。温かい日差しの中、埃が浮いているのが見える。


 ソーニャは女性を見る―私に名前をくれた人。私に新しい人生をくれた人。


「おひさまがいっしょにいるから」


 ソーニャは女性に向け、微笑む。


「お日様? 言い間違いか、ソーニャ」


 女性は、ソーニャの頭を撫でる。優しい匂い。


 違う。王妃様は、お日様でもあるんだ。


「おひさまは、ねむれないの?」


 女性は、哀しげな顔をする。そのアイスブルーの瞳が、わずかに潤む。


「昔は眠れた」


「おひさまがいないから?」


 女性は、ハッと息を飲み、ソーニャを見る。


「おひさまにも、おひさまがいたの?」


女性は、すぐに表情を戻し、優しく微笑む。


「こいをしていたの?」


 女性は、ふふ、と小さく笑い、


「そうかもしれない」女性は、ソーニャを抱きしめる。


「こい、ソーニャもしてみたい」


「そうだな。ソーニャも恋ができるように、私は闘わないといけないな」


 女性は力強く言い、


「必ずだ」


 空気が震える音がし、ソーニャは目覚める。目の前には、質素なベッド。


 ああ、あれは夢だったのか―


 ソーニャは、自分の耳をつねる。涙が寝間着に落ち、湿っていく。


 恋なんて、出来ない―そんな自由は、異能者にはない。アイメルトにも、そして北部同盟にも。


 私は、ただの政治的な駒で、実験動物で、異形の怪物に過ぎない。冷たい檻の中で一生を終えるのだ。笑うことも、泣くこともできず。ただ、氷のような表情を浮かべ、感情を殺し、生きたまま死んで行く。


 一度でいい、心の底から笑ってみたい。みんなに心配されるくらい泣いてみたい。


 なんで、こんな所に来たのかなぁ―


 ソーニャは顔を上げ、月を見た。水色の澄んだ月が、ソーニャを見ていた。


 おひさま、みていますか? わたしは、まだ、こいをしりません

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