23話
仕事を終え、ガクは、酒場で、チユキと待ち合わせをしていた。
「おいっ~す!」
爆発するような笑顔。チユキが、ビール片手に叫ぶ。
ガクが苦笑いしながら、座る。
チユキがビールをぐびぐび、と喉を鳴らして飲み、
「来るまで、待てなかったのって顔しているね?」
「まさか」ガクは、料理を頼み、チユキを眺める。
「こんなの飲んだうちに入らないし! だから、ギリ待ってた判定でしょ?」
チユキの御託を無視し、 「エッカルトは?」
「早めに帰ったよ。怖い嫁が居るんだとか言ってさぁ」
チユキが、唇を吊り上げ、言う。
ガクも、つられて微笑む。ここの生活にも慣れた。仲の良い友達も増えた。だが―まだ戦争は完全に終わっていない。
こうして、ガクが酒場で、騒げるのも、チユキが命をとして、ガクの無罪を勝ち取ってくれたからだ。多くの異能者(元アイメルト家)は「特別収容」と言う扱いを受け、監視下に置かれている。ソーニャのように。
ガクは、焼かれた鶏を食べながら、ソーニャの事を考えていた。
「どしたの?」
ジョッキ片手に、ビールの髭を付けながら、チユキが聞いてくる。
「ソーニャの事を考えていたんだ。見た感じ、ただの女の子だったよ」
「女の子には甘いんだから、ガクは」
「違うよ!」
ガクは、少し上ずった声を出し、
「彼女はまだ若い……早く解放されると良いなって」
「早めに解放されると思うけどねぇ」酒臭い息を、チユキが放ってくる。
「どうして?」ガクは、チユキの息を手で払いながら尋ねる。
チユキは、手をひらひらとさせながら、
「《角笛吹き(トランぺッター)》のソーニャ。音を使い、遠距離攻撃を行う異能者。その高い発展性と、拡張性は、次世代の異能者と言われる……なぁんて言われているけどさ」
チユキは歯を見せて、悪戯っぽく微笑み、
「所詮は、代替案だよ。外部装置で完成する異能なんてさ。それに実戦経験は皆無だって聞いたし、杖がなきゃ、なーんもできない」
チユキは、鳥の骨を指でつまみ、ぶんぶんと振る。
「そうなの?」
「ガクみたいに、身体能力がイコールで異能のタイプじゃないからね」
そう言い、チユキは、自分のジョッキを見つめる。少し悲しそうな表情が、ビールに映る。チユキも外付けの機械で、異能を発動させている。そのような外付けの機械を使わないと異能が使えない者は、異能としては低いランクに位置づけられる。
非情に精密な身体操作―筋肉の一つ一つを自分の意志で動かせるほど―を行い、かつその強靭で柔軟な肉体を持つチユキも、異能者としては日の目を見ることはない。チユキは、それを憂いているのだろうか。
ガクは、チユキのジョッキに自分のジョッキをぶつける。チユキが、ハッとし、ガクを見つめる。ガクは見つめ返し、
「チユキの精神性は、並みの異能じゃ渡り合えないくらい素晴らしい、僕はいつも思ってるよ。それに、そう自分でも言ってるじゃん」
「へへ……」 チユキが照れ笑いする。
だが、外付けの異能も悪いことばかりではない。ソーニャの耳のように、生活では過敏すぎるものもある。
戦場では英雄、日常では要介護者―異能者の現実は非情だ。だが、それすらも、生活を代償にしているという事で称賛される。はたから見れば狂った価値観の世界。
チユキが酔って寝始めたので、おぶって寮へ戻る。ずっしりと重たかったが、何も言わない。
歩きながら、女子寮に運ぶか、自室で介抱するか迷う。介抱人であるガクは女子寮に入れない。女子寮の管理人は、飲ませた奴が責任を取れというだろう。渋々、チユキを自室へと運び込む。
ガクは自室へ着いてすぐ、チユキをベッドに下ろす。すぐに、ぐぅぐぅ寝始める。
ガクはチユキの頭を撫で、静かにため息をつく。
先日のことだ。アイメルト家の残党と戦うことがあった。勧誘むなしく、彼らは死を選んだ。
『我々は……誉と共に死せり』
血を吐きながら、異能者は言った。それにとどめを刺したのは、チユキだった。
異能者は、世界の動きに生き方を左右される。これから先、どんな残酷な運命が待ち受けているか分からない。聖なる騎士と言う幻想の中、死んで行った方が幸せなのではないか。
ガクは、あまりにも多くのものを抱えた少女の頭を撫でる。
救われる覚悟がある人じゃないと、救えないんだ。チユキが言ったことがある。
異能者の為に会合を向かうフェルグス、異能者の為に命を削るチユキ―
僕も、異能者の為にできることがしたい。ガクは拳を握りしめると、大きく息を吐いた。
「まずは出来ることを考えよう」
ガクは、一人、囁き、床に寝ころび、ロウソクの明かりを消した。
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