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八重咲の勇者 ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第三部 漆黒の魔女 編
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23話

 仕事を終え、ガクは、酒場で、チユキと待ち合わせをしていた。


「おいっ~す!」


 爆発するような笑顔。チユキが、ビール片手に叫ぶ。


 ガクが苦笑いしながら、座る。


 チユキがビールをぐびぐび、と喉を鳴らして飲み、


「来るまで、待てなかったのって顔しているね?」


「まさか」ガクは、料理を頼み、チユキを眺める。


「こんなの飲んだうちに入らないし! だから、ギリ待ってた判定でしょ?」


 チユキの御託ごたくを無視し、 「エッカルトは?」


「早めに帰ったよ。怖い嫁が居るんだとか言ってさぁ」


 チユキが、唇を吊り上げ、言う。


 ガクも、つられて微笑む。ここの生活にも慣れた。仲の良い友達も増えた。だが―まだ戦争は完全に終わっていない。


 こうして、ガクが酒場で、騒げるのも、チユキが命をとして、ガクの無罪を勝ち取ってくれたからだ。多くの異能者(元アイメルト家)は「特別収容」と言う扱いを受け、監視下に置かれている。ソーニャのように。


 ガクは、焼かれた鶏を食べながら、ソーニャの事を考えていた。


「どしたの?」


 ジョッキ片手に、ビールの髭を付けながら、チユキが聞いてくる。


「ソーニャの事を考えていたんだ。見た感じ、ただの女の子だったよ」


「女の子には甘いんだから、ガクは」


「違うよ!」


 ガクは、少し上ずった声を出し、


「彼女はまだ若い……早く解放されると良いなって」


「早めに解放されると思うけどねぇ」酒臭い息を、チユキが放ってくる。


「どうして?」ガクは、チユキの息を手で払いながら尋ねる。


 チユキは、手をひらひらとさせながら、


「《角笛吹き(トランぺッター)》のソーニャ。音を使い、遠距離攻撃を行う異能者。その高い発展性と、拡張性は、次世代の異能者と言われる……なぁんて言われているけどさ」


 チユキは歯を見せて、悪戯っぽく微笑み、


所詮しょせんは、代替案セカンドプランだよ。外部装置で完成する異能なんてさ。それに実戦経験は皆無だって聞いたし、杖がなきゃ、なーんもできない」


 チユキは、鳥の骨を指でつまみ、ぶんぶんと振る。


「そうなの?」


「ガクみたいに、身体能力がイコールで異能のタイプじゃないからね」


 そう言い、チユキは、自分のジョッキを見つめる。少し悲しそうな表情が、ビールに映る。チユキも外付けの機械で、異能を発動させている。そのような外付けの機械を使わないと異能が使えない者は、異能としては低いランクに位置づけられる。


 非情に精密な身体操作―筋肉の一つ一つを自分の意志で動かせるほど―を行い、かつその強靭で柔軟な肉体を持つチユキも、異能者としては日の目を見ることはない。チユキは、それを憂いているのだろうか。


 ガクは、チユキのジョッキに自分のジョッキをぶつける。チユキが、ハッとし、ガクを見つめる。ガクは見つめ返し、


「チユキの精神性は、並みの異能じゃ渡り合えないくらい素晴らしい、僕はいつも思ってるよ。それに、そう自分でも言ってるじゃん」


「へへ……」 チユキが照れ笑いする。


 だが、外付けの異能も悪いことばかりではない。ソーニャの耳のように、生活では過敏すぎるものもある。


 戦場では英雄、日常では要介護者―異能者の現実は非情だ。だが、それすらも、生活を代償にしているという事で称賛される。はたから見れば狂った価値観の世界。


 チユキが酔って寝始めたので、おぶって寮へ戻る。ずっしりと重たかったが、何も言わない。


 歩きながら、女子寮に運ぶか、自室で介抱するか迷う。介抱人であるガクは女子寮に入れない。女子寮の管理人は、飲ませた奴が責任を取れというだろう。渋々、チユキを自室へと運び込む。


 ガクは自室へ着いてすぐ、チユキをベッドに下ろす。すぐに、ぐぅぐぅ寝始める。


 ガクはチユキの頭を撫で、静かにため息をつく。


 先日のことだ。アイメルト家の残党と戦うことがあった。勧誘むなしく、彼らは死を選んだ。


『我々は……誉と共に死せり』


 血を吐きながら、異能者は言った。それにとどめを刺したのは、チユキだった。


 異能者は、世界の動きに生き方を左右される。これから先、どんな残酷な運命が待ち受けているか分からない。聖なる騎士と言う幻想の中、死んで行った方が幸せなのではないか。


 ガクは、あまりにも多くのものを抱えた少女の頭を撫でる。


 救われる覚悟がある人じゃないと、救えないんだ。チユキが言ったことがある。


 異能者の為に会合を向かうフェルグス、異能者の為に命を削るチユキ―


 僕も、異能者の為にできることがしたい。ガクは拳を握りしめると、大きく息を吐いた。


「まずは出来ることを考えよう」


 ガクは、一人、囁き、床に寝ころび、ロウソクの明かりを消した。

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