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八重咲の勇者 ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第三部 漆黒の魔女 編
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21話

 フェルグスを隣国の領主の元に送り届け、ガクはひまになった。会談が終わるまで2時間、街を歩くことにする。


 隣国りんこくの様子は、ガクの住む街―北部同盟中央区セントラル―と大きく違った。


 人々の髪色は黒く、少し背が低い。街に並ぶ屋台からは、嗅いだことのない匂いがした。客引きの声は、方言ばかりで、ガクには理解できない。


 ガクは、ぼんやりと目的もなく歩いていく。すると、突然、大声がした。男の怒鳴るような、わずかに上ずった声。


 声のする方に、人だかりができている。ガクは、剣の鞘に手をかけ、人だかりに近づいてくる。すると、子供を抱えた一人の男が囲まれている。


「近づくな!」


 男は子供を片手で羽交はがめにし、片手を群衆に向けている。子供は、脱力し、脚が宙で揺れている。


 男の手からは血がしたたり、それを皆に見せつけている。


「俺は、異能者だ! 血に触れるな!」


 男が叫ぶ。皆がのけぞり、男を中心に人が離れていく。


 人をかき分けながら、ガクは持っている植物と感覚を同期する。


 血の匂いを分析―毒は感じられない。ただの血だ。問題は、首を絞められ、意識を失っている子供だ。


「異能者が! 死ね!」


「良くも、俺達を騙してたな!」


「こんなに近くに居たなんて」


 だが、周りは、男の嘘に気づかず、ヒートアップしていく。


 早く子供を助けないと―ガクは、飛び掛かるタイミングを見計らう。


(毒はない。ただの人間です。だから、素手で拘束こうそくしても大丈夫です)


 ガクの耳元で、落ち着いた声がささやく。滑らかで柔和にゅうわな女性の声。ガクは、ハッと振り返る。しかし、誰もいない。


「毒はない。ただの人間。だから、飛び掛かっても大丈夫だ!」


 誰かが、全く同じことを叫ぶ。すると、人だかりは、それに呼応し、


「あいつはただの人間だ!」


 数人の男たちが一気に、男に飛び掛かる。血を流していた男はあっという間に押し倒され、拘束された。


(彼は、ただの人です。あなた方と同じ。異能者じゃない。だから丁重ていちょうに扱って。ただ、お腹が空いていただけ。みんなも分かるでしょ。ひもじい辛さ)


 また、ガクの耳元で誰かが囁く。周囲を見渡すが、声の主らしき人物はいない。


「腹が減っていただけなんだろ?」


 囁きの声を繰り返すように、誰かの叫び声が聞こえる。それは人だかりの中で、繰り返される。


 あっという間に、血を流していた男は、「空腹で仕方なく、盗みを働いた弱者として扱われる」


 なんだ、これは―ヒートアップしていた群衆が一気にクールダウンし、男に同情を寄せ始めた。何らかの群集心理なのは確かだが。あのささやきは何なのだろう。


 ガクは、ゆっくりと周囲を見る。しかし、人だかりの中に、それらしき人物はいない。


「異能者じゃなくて良かった」


 誰かが言うのを聞き、ガクはため息をつき、その場を離れる。

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