20話
森の中、一台の馬車がゆっくりと進んでいる。日光は温かく周囲を照らし、木の葉が風で優しげに揺れ、鳥が歌っている―そんな、のどかな雰囲気。
しかし荷台に乗るガクは、その限りではない。いつでも剣を抜けるようにし、周囲に気を配っていた。
となりにいるフェルグスは書類を読んでいる。
「そう緊張するな」
フェルグスが言い、ガクは深呼吸する。
緊張しない訳にはいかないですよ―ガクは、フェルグスをにらむ。今のガクの仕事は、フェルグスの護衛だからだ。期間は、隣国へ向かう数日間。
途中で襲われる危険性もある。危険な仕事だ。
「改めて聞きますが、どうして僕が?」
「植物による探知機能もあるし、護衛としての腕も申し分ない」
そう言って、フェルグスは、ガクの腕を触る。チユキに倒されてから一か月。稽古によって、身体は分厚くなり、腕は太くなっていた。
「そんなことないです……」
ガクは顔をふせる。顔が赤くなったのをかくしたかったのだ。話題を変えるべく、ガクは、
「隣国では何をするのですか? 何かの条約に関する話ですかね」
「領主同士の会談だ。内容は伏せるが……な」
慌ててガクは口をつぐむ。
風のうわさで聞いたことがある。異能者に関する隣国との協議がうまくいっていない、と。
隣国と北部同盟の諸国家は、ちかいうちに同盟をむすぶ。そのうえで問題になったのが、異能者のあつかいだ。異能者を監視し、隔離しようとする隣国と、共存しようとする北部同盟で意見が対立したのだ。
戦後、アイメルト家の異能者たちは、村々で略奪や破壊を行うようになった。それにより、異能者への偏見や畏怖は強まっていた。
元々、異能者がいた北部同盟地区では、そこまで偏見はない。だが、北部同盟諸国家を出れば、偏見や差別の嵐だ。
数十人に一人は生まれてしまう異能者。彼らを隔離したり、間引き続けることは現実的ではない。とはいえ、簡単に融和することはできないのが現実だ。
「ガク、お前は植物を使った感知は、無意識に行ってしまうか?」
フェルグスから話をふられ、ガクはうなずく。
「ええ、ほぼ無意識で使ってしまいます」
「もし、異能を使った瞬間に死刑が下されるような世界になったら、どうする?」
「死刑……ですか」
ガクは頭をひねる―異能者が、異能力を「自らの意志に基づき、その責任を負う覚悟で」使ったならば、場合によっては裁かれるのは道理だと思う。だが、そうでない場合はどうだろうか。
ガクの植物操作は、ほぼ無意識で行ってしまう。というか、異能者の多くは、息をするように異能を使う。
異能者全員を、毒の仕込まれた首輪を付けて管理したい―隣国の言い分だ。そんな事をすれば、多く不満が生まれるだろう。
現状、中間案として出ているのは、異能に等級をつけ、管理を行うというものだ。危険度が高い場合は、監視を増やす。逆もしかりだ。
『じゃあ、異能者全員が、自分の異能を申告するとでも?』
脳裏で、チユキの声が聞こえる。かつて、何時間も議論した時の言葉だ。
悪意ある異能者が、自分の異能を隠し、悪事を行う可能性がないとは言い切れない。逆に、自分の異能を知らない者が、ふとしたはずみで異能を使ってしまった場合はどうするのか?
ガクは、フェルグスの顔を見る。
「アイメルトの残党ども……奴らの動きが活性化すれば、議論は異能者の規制に傾く。そんなことになれば……」
過ぎた管理は滅びをよぶ、それは歴史が証明している。フェルグスは、それを恐れているのだ。
「すまんな……愚痴言って」
「いいえ」
少し寝るぞ、と言ってフェルグスは寝始めた。その横顔は、やつれていた。
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