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八重咲の勇者 ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第三部 漆黒の魔女 編
19/34

20話

 森の中、一台の馬車がゆっくりと進んでいる。日光ひのひかりは温かく周囲を照らし、木の葉が風で優しげにれ、鳥が歌っている―そんな、のどかな雰囲気。


 しかし荷台に乗るガクは、その限りではない。いつでも剣を抜けるようにし、周囲に気を配っていた。


 となりにいるフェルグスは書類を読んでいる。


「そう緊張するな」


 フェルグスが言い、ガクは深呼吸する。


 緊張しない訳にはいかないですよ―ガクは、フェルグスをにらむ。今のガクの仕事は、フェルグスの護衛ごえいだからだ。期間は、隣国へ向かう数日間。


 途中で襲われる危険性もある。危険な仕事だ。


「改めて聞きますが、どうして僕が?」


「植物による探知機能スキャンもあるし、護衛としての腕も申し分ない」


 そう言って、フェルグスは、ガクの腕を触る。チユキに倒されてから一か月。稽古によって、身体は分厚ぶあつくなり、腕は太くなっていた。


「そんなことないです……」


 ガクは顔をふせる。顔が赤くなったのをかくしたかったのだ。話題を変えるべく、ガクは、


「隣国では何をするのですか? 何かの条約に関する話ですかね」


「領主同士の会談だ。内容は伏せるが……な」


 慌ててガクは口をつぐむ。


 風のうわさで聞いたことがある。異能者に関する隣国との協議がうまくいっていない、と。


 隣国と北部同盟の諸国家は、ちかいうちに同盟をむすぶ。そのうえで問題になったのが、異能者のあつかいだ。異能者を監視し、隔離かくりしようとする隣国と、共存しようとする北部同盟で意見が対立したのだ。


 戦後、アイメルト家の異能者たちは、村々で略奪や破壊を行うようになった。それにより、異能者への偏見や畏怖は強まっていた。


 元々、異能者がいた北部同盟地区では、そこまで偏見はない。だが、北部同盟諸国家を出れば、偏見や差別の嵐だ。


 数十人に一人は生まれてしまう異能者。彼らを隔離したり、間引き続けることは現実的ではない。とはいえ、簡単に融和ゆうわすることはできないのが現実だ。


「ガク、お前は植物を使った感知は、無意識に行ってしまうか?」


 フェルグスから話をふられ、ガクはうなずく。


「ええ、ほぼ無意識で使ってしまいます」


「もし、異能を使った瞬間に死刑が下されるような世界になったら、どうする?」


「死刑……ですか」


 ガクは頭をひねる―異能者が、異能力を「自らの意志に基づき、その責任を負う覚悟で」使ったならば、場合によっては裁かれるのは道理だと思う。だが、そうでない場合はどうだろうか。


 ガクの植物操作は、ほぼ無意識で行ってしまう。というか、異能者の多くは、息をするように異能を使う。


 異能者全員を、毒の仕込まれた首輪を付けて管理したい―隣国の言い分だ。そんな事をすれば、多く不満が生まれるだろう。


 現状、中間案として出ているのは、異能に等級をつけ、管理を行うというものだ。危険度が高い場合は、監視を増やす。逆もしかりだ。


『じゃあ、異能者全員が、自分の異能スキルを申告するとでも?』


 脳裏で、チユキの声が聞こえる。かつて、何時間も議論した時の言葉だ。


 悪意ある異能者が、自分の異能を隠し、悪事を行う可能性がないとは言い切れない。逆に、自分の異能を知らない者が、ふとしたはずみで異能を使ってしまった場合はどうするのか?


 ガクは、フェルグスの顔を見る。


「アイメルトの残党ども……奴らの動きが活性化すれば、議論は異能者の規制に傾く。そんなことになれば……」


 過ぎた管理は滅びをよぶ、それは歴史が証明している。フェルグスは、それを恐れているのだ。


「すまんな……愚痴言って」


「いいえ」


 少し寝るぞ、と言ってフェルグスは寝始めた。その横顔は、やつれていた。

 読んで頂きありがとうございます。はげみになりますので、感想、評価、レビュー、ブックマーク、お待ちしております。

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