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3

 フェルグスの顔は、どす黒い顔料で塗りつぶされていた。


「が……ガク」


 フェルグスは、ふらり、とこちらを向く。そして、先の尖った無骨な剣(レイピア)を構える。黒い剣で、刀身は針のように鋭く細い。


「えっ……?」


 ガクは本能的に、剣を構える。視線をわずかに動かそうとする―フェルグスの姿は、どこにもない。


 次の瞬間、腕に重い感触。キィイン、と鈍(にぶ)い音がし、ガクの剣が空を舞う。


 ―斬撃の発生がまるで予想できない


 ガクが息を吸い込み、唖然(あぜん)とする。フェルグスは、もう第二撃を構えていた。


 ー本気でやるしかない……それこそ、殺してしまうほどに


 ガクは歯噛みし、そして、フェルグスは不敵に微笑む。ふたりは、同じ言葉を口にする―


《加速》


 心臓の鼓動が、ゆっくりと聞こえ始める。そして、世界がスローモーションに。


 フェルグスが、通常と変わらない速度で、ガクに迫る。現実の時間で換算すれば、異常な速度。


 ―嘘だろ。数秒にも満たない時間だぞ


 ガクは泥のなかを泳ぐように後退する。フェルグスと同じ異能を使っているのに、まるで月とすっぽん。


 フェルグスのレイピアが、加速する世界のなかで、通常の速度で、ガクに襲い来る。


 ―避けられる訳がない


 フェルグスの剣が、ガクの喉元にあたる。


 轟、と凄まじい風切り音がする。


 ―終わった……


 どっどっど、と自分の心臓が聴こえ、ガクは我に返る。まるで世界が揺れているかのような鼓動。


 フェルグスの剣は、喉元で止まっている。


 ソーニャが、装具(オルガン)を地面に当てていた。


 (戦律―帰零)


 特殊な音波で、周囲の生物から戦意を消しさるソーニャの異能。


 ガクは、よろよろと、その場に崩れ落ちる。フェルグスは、その場で固まり微動だにしない。まるで、凍り付いたかのよう。


 フェルグスの足元には、刀(カタナ)が突き刺さり、そこから氷の華が咲いていた。それが、フェルグスの身体に貼りついていた。靴の裏や、腕の一部を氷で覆っているのだ。


「間に合ったぁ!」


 建物の上から、ソプラノの声が聴こえる。


 ガクが見上げると、チユキが刀を投げたままのポーズで脱力している。その背後には、救難信号の白い煙。


「はやく、にげないと」


 ソーニャに連れられ、ガクは動き出す。


 フェルグスは、氷を払い、再度、剣を構えなおす。


 ガクは、《加速》を発動し、ソーニャを抱え、跳躍。


 ―なんで、仲間であるはずのフェルグスが……


 ガクの脳裏に、フェルグスの不器用だが、暖かい笑みが浮かぶ。

 読んで頂きありがとうございます。

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