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フェルグスの顔は、どす黒い顔料で塗りつぶされていた。
「が……ガク」
フェルグスは、ふらり、とこちらを向く。そして、先の尖った無骨な剣を構える。黒い剣で、刀身は針のように鋭く細い。
「えっ……?」
ガクは本能的に、剣を構える。視線をわずかに動かそうとする―フェルグスの姿は、どこにもない。
次の瞬間、腕に重い感触。キィイン、と鈍い音がし、ガクの剣が空を舞う。
―斬撃の発生がまるで予想できない
ガクが息を吸い込み、唖然とする。フェルグスは、もう第二撃を構えていた。
ー本気でやるしかない……それこそ、殺してしまうほどに
ガクは歯噛みし、そして、フェルグスは不敵に微笑む。ふたりは、同じ言葉を口にする―
《加速》
心臓の鼓動が、ゆっくりと聞こえ始める。そして、世界がスローモーションに。
フェルグスが、通常と変わらない速度で、ガクに迫る。現実の時間で換算すれば、異常な速度。
―嘘だろ。数秒にも満たない時間だぞ
ガクは泥のなかを泳ぐように後退する。フェルグスと同じ異能を使っているのに、まるで月とすっぽん。
フェルグスのレイピアが、加速する世界のなかで、通常の速度で、ガクに襲い来る。
―避けられる訳がない
フェルグスの剣が、ガクの喉元にあたる。
轟、と凄まじい風切り音がする。
―終わった……
どっどっど、と自分の心臓が聴こえ、ガクは我に返る。まるで世界が揺れているかのような鼓動。
フェルグスの剣は、喉元で止まっている。
ソーニャが、装具を地面に当てていた。
(戦律―帰零)
特殊な音波で、周囲の生物から戦意を消しさるソーニャの異能。
ガクは、よろよろと、その場に崩れ落ちる。フェルグスは、その場で固まり微動だにしない。まるで、凍り付いたかのよう。
フェルグスの足元には、刀が突き刺さり、そこから氷の華が咲いていた。それが、フェルグスの身体に貼りついていた。靴の裏や、腕の一部を氷で覆っているのだ。
「間に合ったぁ!」
建物の上から、ソプラノの声が聴こえる。
ガクが見上げると、チユキが刀を投げたままのポーズで脱力している。その背後には、救難信号の白い煙。
「はやく、にげないと」
ソーニャに連れられ、ガクは動き出す。
フェルグスは、氷を払い、再度、剣を構えなおす。
ガクは、《加速》を発動し、ソーニャを抱え、跳躍。
―なんで、仲間であるはずのフェルグスが……
ガクの脳裏に、フェルグスの不器用だが、暖かい笑みが浮かぶ。
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