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 久々の活躍を適当に流され項垂れているソウを尻目に、マヤは昏倒した道場に近付いた。

 閉じた瞼を強引に指で開き、その瞳を覗き込む。

 そして、イレイザーズとしての道場を無力化するため、彼の深層心理へとダイブした。

 

 走馬灯のように流れて行く道場の歴史(きおく)は予期していたものよりずっと醜悪だった。

 マヤはこんな場所には一秒でも長く居たくないと、駆け足で記憶の奥底へと向かった。

 やがて、何も無い真っ暗な空間の中にポツンと浮かんでいる扉を見つけた。

 それはイレイザーズとしての道場の記憶だった。

 その扉をマヤは躊躇なく蹴破った。


 そうすることで道場にどのような後遺症が出るかとか、そんなことは一切考えなかった。

 イレイザーズであろうがなかろうが、この男は清算し切れないほどの罪を重ねている。

 同情の余地はなかった。


 自身の能力を遺憾なく発揮したマヤは、道場の核とも言うべきイレイザーズとしての記憶を消去した。

 道場の深層心理から帰還すると、メイの心配そうな顔が視界に飛び込んで来た。


「お姉様、大丈夫ですか?」


 イレイザーズの記憶を消す作業には、いつもかなりの負担が掛かる。

 だが、今日は一滴の鼻血も流れなかった。

 もしかしたら、この能力の行使に体が慣れて来たのかもしれない。


 そんなことを考えながら、「うん、平気」とマヤは答える。


「それよりエレンを助けに行かないと」


 マヤがそう言って立ち上がろうとすると、ぐらりと足元がふらついた。

 どうやら全然、慣れてはいなかったらしい。

 むしろ慣れたと油断している今が一番危険かもしれない。


「お姉様、無理しないで下さい」


「それ、メイちゃんが言う? 自分だって、もういっぱいいっぱいじゃん」


「そうですけど……」


「二人は、ここで待っていてくれ。俺が様子を見て来る」ソウが膝に手を突いて立ち上がる。


「諌山君も結構、きつそうだけど?」


「君ら二人に比べれば、まだマシだよ」


 そう言って、エレンの元へソウが歩き出そうとした時だった。

 コンテナの陰から、ミツキを抱きかかえたエレンが姿を現わした。

 それを見たマヤは疲れて切っているのも忘れてエレンの元へと駆け出していた。


「エレン!」


「マヤさん……」

 

 ゆっくりとした足取りでこちらにやって来たエレンは、その瞳にうっすらと涙を滲ませていた。

 

「エレン、何があったの!?」マヤはそう尋ねると、エレンに抱えられているミツキに目を向ける。「もしかして、ミツキちゃんに何か……」


「いえ、彼女は無事です。……というか、傷一つ負っていません」


「え? だったら、さっきの悲鳴は?」


「あ、あれは、ちょっと、色々ありまして……」目を泳がせながらエレンが答える。


「色々って?」


「色々は、色々です」余程、口にしづらいのか、エレンは頑なに答えようとしなかった。


「ふーん。まあ、いいや。エレンが無事なら」


 実際、エレンの顔を見た時は、腰が抜けるほど安心した。

 あの子に限ってと思ってはいても、万が一ということもある。


「マヤさんたちの方こそ、無事でよかったです」エレンはそう言いながら、地面に転がっている道場に目を向ける。「その人、イレイザーズですか?」


「そ。さっき、うちらでやっつけたところ」


「すごい! でも、皆さん、怪我とかしてないですか?」


「うん、平気。ただ、そいつをやっつけるのに、諌山君もメイちゃんもかなり無理したみたい」


 マヤがそう答えると、エレンはコンテナに背を預けてぐったりしているソウとメイを見る。


「ああ、それでさっきから二人とも黙りっぱなしなんですね。でも、マヤさんだって、そのイレイザーズを無力化したんですよね? 本当に大丈夫なんですか?」


「うちは平気だよ。シュウ君を助けるまでは、へばってなんかいられないし」そう言って、マヤは前方にある倉庫に目を向ける。


 今のところ、あの倉庫からシュウジが出て来た気配はない。捕まえるなら今がチャンスだ。だが、シュウジの能力が判明していない状況で、マヤとエレンの二人だけで立ち向かうというのは危険に思えた。


「――うにゅ? あれ、ここどこ? たしか、僕、お姉さんといっしょにあの変態と戦ってたはずなんだけど?」


「あ、目が覚めたみたいですね」目を擦るミツキを見てエレンが言った。


 よし、戦力一人追加! 

 そうだ、この子が居たんだった。

 こと戦闘においては、一点突破型のエレンに対して、ミツキの能力は汎用性が高い。

 彼女が居てくれるだけで、かなり心強かった。


「どうしたの? 僕のことそんなに見つめて?」じっと見つめるマヤにミツキが怪訝そうに尋ねる。


「ミツキちゃん。起きて早々で悪いけど、もう一働きしてもらうわよ」


「え、ヤダこの人たち。ブラック過ぎる……」


 状況を飲み込めないまま、ミツキはただ頬を引き攣らせた。

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