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 大勢の人間に取り囲まれるというのは、それだけでかなりの恐怖を覚える。

 ましてや、そのすべてが同じ顔をしているとなれば、常人であれば平静を保つのは困難だろう。

 諌山メイは、自身を比較的常人寄り(まともな)の人間だと考えている。

 だからこの状況で多少、狼狽を見せても仕方がないことだった。


「に、兄さん!」


「待て。まだ能力は使うな」メイが何をしようとしていたのか即座に察してソウが告げる。


 メイたちを取り囲むシュウジたちは、今のところ襲って来る気配はない。

 ただ、何かを探るようにこちらに目を向けている。

 その様子を注意深く観察しているソウに、兄もまたどこかがズレているのだと実感する。


 ……私も、同じ修羅場をくぐって来たはずなのに。


 この状況でも冷静さを失わない兄の横顔を見上げながら、メイはふと、もう一人の人物に目を向ける。

 弟が敵に回り、誰よりも取り乱してもおかしくないはずの人物。

 斉木シュウジの姉であるマヤはしかし、その場に居る誰よりも静かな表情を浮かべていた。


 流石、お姉様。

 さっきまではちょっとおかしかったけど、やっぱりすごい。

 ただの女子高生とは思えない肝の据わり方ね。


 そんな風にメイが関心していると、「違う」とマヤがぽつりと呟いた。


「え?」


「……全然、違う」


 そう言ったマヤの表情は、冷静というより、ただ「すんっ」となってる感じだ。


「あ、あの……、お姉様?」


「……だめ。クオリティが低過ぎる。こんなの全然、シュウ君じゃない」


 ぼそりと低い声でマヤが言う。

 その声に、メイはどこか怒りのようなものを感じた。


 あれ?

 まさか、お姉様、がっかりしてる?


「なあ……。斉木さん、これガチで怒っているやつでは?」隣でソウがメイに言う。


「うん。私もそう思う」


 日野森エレンも大概だが、斉木マヤもやっぱりどこかおかしい。

 諌山兄妹は胸中で同じ感想を抱いた。

 すると、大勢のシュウジたちの後ろから、先程、倉庫の中で見た中年の男性が姿を現わした。


「すげえな、嬢ちゃん。まさか、一発で看破されるとは思わなかったぜ」


「あっそ。でも、こんな出来の悪い人形、うちじゃなくても見れば分かるわよ」


「いや、分かんねえよ普通は」男が、クックッと笑い声を零す。「どうやら、あんた、とんでもない怪物のようだな」


 怪物。

 まさにその通りだと、その場の全員が思った。

 ブラコンも極まれば、超常の能力さえねじ伏せる。


 だが、それでこの状況が覆る訳ではない。

 圧倒的な無勢。先程から、少しずつシュウジたちが近づいて来ていた。

 すでに逃げ場は失われている。

 何より、目の前に居る男の左手には、鈍く光る拳銃が握られていた。


『……メイ、俺が合図をしたら使え』


 小声でそう言ったソウにメイが小さく頷く。

 その時だった。

 男が、ごく自然な様子で銃の引き金を引いた。

 パンッ、と乾いた音がして、メイの意識が途切れた。


『え……?』


 ソウの隣で、ぐしゃりとメイが倒れる。

 その様子を茫然と見送ったソウは、取り返しのつかない事態に激高した。


『てんめええええええ‼」


『ちょっ、待って、諌山君!』


 マヤの制止を振り切り、ソウが男に殴り掛かる。


 理性を失い突っ込んで来る少年は、男にとって格好のカモだった。

 男は、自身の技術を確かめるように、まず少年の右脚を撃ち抜いた。

 無様に倒れた少年は、それでも怒りの目を男に向けて来ていた。

 その目が余計に男を高ぶらせた。


 何があっても殺してやる。

 そんな強い意思を感じさせるように、少年は足を引き摺りながら男に迫る。


 パンッ。


 少年の左足を撃った。


 パンッ、パンッ!


 腕の力だけで、なおも向かって来る少年の両手を手首から弾き飛ばした。


 そして、妹を守れなかった怒りと悔しさで顔を歪ませる少年の額に、最後の一発を見舞った。


『いや……』


 あっさりと仲間二人を失って、蒼白した少女が怯えながら声を漏らした。

 先程までの威勢は見る影もない。

 こちらの能力を見破られた時は驚いたが、所詮は子供。

 必死で虚勢を張っていたのだろう。

 涙ぐましいものである。


 男は、二人のシュウジに少女を拘束させると、ゆっくりと彼女に近付き、その頭に銃口を突き付けた。

 死を前にして、少女が震えあがる。

 その表情を見て、男は最高に満ち足りた気分になった。

 彼にとって最も幸福を覚える瞬間。

 典型的なシリアルキラー。

 それが、道場カゲロウという男だった。


 道場は少女に銃口を突き付けたまま、懐からスマホを取り出すと、「来いよ」とだけ相手に告げた。

 すると、大勢いたシュウジの中から、全く同じ顔をした少年が現れた。

 それを見て、少女の目が大きく見開かれる。


『シュ、シュウちゃん!?』


 少女は、それが本物の弟だとすぐに見抜くと、彼に何度も助けを求めた。

 シュウちゃん、シュウちゃんと叫ぶ泣き声に、道場が若干の苛立ちを感じ始めた頃、シュウジが口を開いた。


『やっちゃって』


 それは、実の姉に向けたものとは思えない事務的な口調だった。


 少女の顔が絶望に染まる。

 聞きなれた乾いた音が倉庫街に響き渡り、少女が血の海に倒れた。

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