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 能力の拡張が齎(もたら)した全能感は、それまで唐沢にあった用心深さに少なからず慢心を与えていた。だが、それでも只の能力者が相手なら遅れを取ることなど考えられなかった。実際、今まで何人もの能力者が、イレイザーズの手によって抹消されていた。


 だから、考えもしなかった。

 自分たち以上に人間離れした存在が現れるとは……。


 先端から潰れてしまった右腕(水針)に唐沢が凝然としていると、エレンが口を開く。


「掴まえた」


 その声に、唐沢は反射的に逃亡を図ろうとした。しかし、何故か体が思う様に動かなかった。能力は正常に働いているのに、体の動きだけが限りなく緩慢になっている。まるで、急に何十歳も年を取ったような気分だった。これではとても逃げられない。


「おい! 一体、何をした!?」唐沢がエレンに向かって怒鳴りつける。


 その声を無視して、ミツキが口を開く。


「これでいい?」


「はい」


 触れた対象の身体的情報を改竄するというミツキの見えない手によって、唐沢の運動性能は著しく減衰されていた。もっとも、唐沢の能力が健在である以上、決定打に掛けることは、ミツキもエレンも分かっていた。


「で、これからどうするの? あんたの言う通り、こいつを弱体化させたけど?」


 ミツキがそう尋ねると、エレンは何を思ったのかバックから水筒を取り出す。

 その中には、先程、コンビニで買ったアイスティが氷と一緒にキンキンに冷えた状態で入っていた。

 それを一気に飲み干したエレンは、当然のように頭を抱えた。


「……い、痛い」


「当たり前だよ。何やってんの?」ミツキは呆れたようにそう言うと、見えない手でエレンの頭に触れる。


「……あ、すごい! 治った!」


「感謝してよ?」


「ええ、ありがとう」


「で、今の意味の分からない行動は何?」


「ああ、……えっと。この人、多分、いくら叩いても無駄だから、この水筒の中に入れちゃおうかなって思って」


「…………は? マジで言ってる?」


「はい」


 ミツキの反応に、エレンは不思議そうに首を傾げると、身動きの取れなくなっていた唐沢を強引に水筒へと詰めて行く。水人形と化した唐沢の体は純粋な液体ではなくゲル状になっており、エレンが思っていたよりも作業はし易かった。だが、体のすべてが水筒に収まる訳ではない。


「……がっつり、はみ出してるね」


「はい……」


 水筒の蓋をきっちり締めると、余った分の唐沢の体がボタッと地面に落ちた。

 すると、水筒の中から必死な声が聞こえて来た。


「おい、ふざけるな! ここから出せ!」


 水人形の頭に当たる部分、エレンはそこを水筒の中に入れていた。

 頭さえ押さえてしまえば相手を無力化出来るのではないかと考えたのだ。

 そして、どうやらその作戦は成功したようだった。


「でも、何かグロイよね、この光景……」


「ですね……」


 地面に横たわる頭部を失った水人形。

 まるで猟奇殺人の現場のような様相だった。

 しかし、それよりも遥かに衝撃的な光景がエレンを襲った

 頭から切り離された水人形が、突然、人の体に戻ったのだ。

 それだけなら良かったのだが、問題は唐橋が全裸であったこと。


 エレンは、その超人的な動態視力を持って、唐橋の下半身を網膜に焼き付けることになった。


「ヒュッ――――――」

 

 息が止まる。

 ゆっくりと目が見開かれる。

 そして、かつてない絶叫が倉庫街に鳴り響いた。

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