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唐沢ハルキの能力は体を液状にするといういたってシンプルなものだった。SVとしての役割に目覚めた時に獲得したその能力は、他のSVと比べると些か見劣りするものだったが、唐沢は気にしなかった。むしろ、自身の本業である人攫いには大いに利用できると内心では喜んでいた。
わずかな隙間さえあれば体を液状にして自由に通り抜けることが出来たし、仕事をしたとき指紋も残らない。何より、腕っぷしに自信の無かった唐沢にとって、どれだけ殴られても痛くない体を得られたことは非常に幸運だった。
単純ゆえに応用が利く。唐沢は自身の能力をそう評価していた。
だから、今日の仕事に対しても、まったく不安を感じてはいなかった。今日の仕事は、同僚である道場カゲロウと共に若くて健康な男の子を誘拐するというものだった。それ以外にターゲットの指定はなく、楽な仕事だと、道場と共に笑いながら都合の良さそうな人物を探して街を回った。
すると、不用心にも人気のない倉庫街へと一人で入って行く少年が目に止まった。その少年は何かスポーツでもしているのか、まだ幼い顔立ちに比べて、体つきはしっかりしていた。あっさりとターゲットが決まり、唐沢たちはその少年の後を付けた。
それが運の尽きだった。
「おっさんたち、俺に何か用?」
少年が入っていた倉庫に侵入すると、どこからかそんな声が聞こえた。だが、少年の姿はどこにも見当たらなかった。代わりに、かつてない衝撃が唐沢たちを襲った。
突然、頭を誰かに捕まれたかと思うと、抵抗する間もなくコンクリートの土間に叩きつけられていた。幸い、唐沢は打撃系の攻撃では一切ダメージを追うことはないのでよかったが、同僚の道場はあっさりと昏倒していた。
「おい、今やったのは誰だ!? 出てこい!」
怒声を上げる唐沢に対し、倉庫の中で聞えよがしな溜息が響く。
「ああ、ダメだなこれじゃ。全然、話にならない。SVと言っても下位の連中じゃこの程度か……」
「何!? 何でてめえがSVのことを知ってやがる!?」
「そんなの、俺も同類だからに決まってるだろ?」
「同類、だと?」
「そうだよ」
「だったら、どうしてこんな真似する!?」
「試したんだよ。あんたらにこの世界の異分子を排除する力があるのか。……まあ、結果は不合格だったわけだけど」
あからさまに落胆した声。
それを聞いて唐沢が歯をガリっと噛み締める。
「何様だ、てめえ。こそこそ姿を隠していながら偉そうに!」
「まあ、そんなに怒んないでよ。代わりに、いいものを上げるからさ」
「いいもの?」
「そっ。理由は知らないけど、あんたら下位のSVをアップグレードするようにって指令があってね」
「何だ、その指令ってのは? どこのどいつだ、そんなものを発しているのは?」
「あんたも知ってるだろ? 俺たちSVに語り掛けて来る声なき声を」
それを聞いて唐沢は息を飲む。一度だけ、SVに覚醒した時にそんな声を聞いたような覚えがあった。だが、それは明確な言語ではなかった。自身の役割を強制的に脳に刷り込まれるような感覚。まさしく神の啓示に近いそれが少年の言う声なき声だというのなら、逆らうことは無意味だ。反論も抵抗も逃亡も許されない。ただ従うしかないのだと、唐沢は本能で悟った。
「……さっさとやれ」
「理解が早くて助かるよ」
そう言われた直後、唐沢の背中に熱い何かが押し付けられた。
すると、全身に走った焼けるような痛みと共に自身の能力が拡張していくのを感じた。
これまでただ体を液状に変えるだけだった能力に指向性が与えられる。
ズトンッ!
唐沢が手を前に伸ばすと、その指の一本が凶悪な水の針となって倉庫にあったコンテナを貫いた。
「ははっ……。すげえな、こりゃあ!」
この能力があれば、誰にも負ける気がしない。
それから少年は結局姿を現わさなかったが、代わりに一つの指令を与えられた。
「この後、ここに能力者たちがやって来る。……そいつらを殺せ」




