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トプンッと、音を立てて崩れた男の体が水たまりを作る。
その水たまりが這うようにしてコンテナの隙間へと吸い込まれて行く。
姿を隠してこちらの隙を伺うつもりなのだろう。
だが、エレンの耳には、何かが這いずり回る音がはっきりと聞こえていた。
「えいっ」
突然、エレンの足首を狙う様にして水の鎌が襲い掛かって来た。
しかし、その鞭をエレンはあっさりと踏み潰す。
相手の攻撃パターンはおおよそ把握が出来た。
音と空気の流れに注意していれば、恐れる程の相手ではない。
ただ、どうしても決定打に掛ける。
今しがた踏み潰した水の鎌は、バラバラに飛び散ったあと、再び姿を消していた。
やり難い相手だと思った。エレンとはすごぶる相性が悪い。
このまま戦い続けていても、おそらく平行線のままだろう。
だからこそ、ミツキの能力が必要になる。
「ねえ?」エレンがミツキに話し掛ける。
「な、何?」
「あなたの能力って、相手を弱体化させることが出来るんですよね?」
「ま、まあ、厳密には違うけど、そんな感じ……」
「そう。だったら――」
エレンはミツキに近付くと、小声で自分の考えを伝える。
「え、それ本気? どうなっても知らないよ?」
「大丈夫、だと思います。多分……」
「多分って……。まあ、いいけど」
ミツキはそう言うと、静かに能力を発現した。
すると、エレンがミツキの背後を見つめて口を開く。
「六本ですか?」
「何で分かるの!?」
「何となく気配で?」
「もう嫌だ、この人ぉ」
ミツキが能力で生み出す手は、本来、誰の目にも映らないはずだった。
だが、エレンは研ぎ澄まされた五感を持って、あっさりとその本数を言い当てた。
今のところは停戦中のような状況だが、最早、どうあっても太刀打ち出来ないと悟り、ミツキががっくりと肩を落とす。
「あの、どうかしましたか?」
「何でもないです」不貞腐れたようにミツキが答える。「それより、本当に大丈夫なの? 流石のあんたでも、下手したら死んじゃうよ?」
「まあ、そうなったらそうなったで……」
放るような口調でエレンが呟く。
その表情を見て、ミツキが口を噤む。
気を許したマヤたちの前では見せることのない仮面の下。
日野森エレンではなく、一度、命を閉ざした少女の相貌。
異端であるはずのミツキでさえ、その顔に怖気が走った。
そのことに全く気付いた様子もなく、エレンが口を開く。
「来た」
直後だった。
足元のアスファルトに走った亀裂から凶針がミツキに向かって飛び出して来た。
それを予期していたようにエレンがミツキの腕を引っ張り自分と位置を入れ替える。
そして、当然のようにエレンの体に針が突き刺さった。
「馬鹿め! それだけの力がありながら弱者を庇うとは」
嘲笑するような声と共にアスファルトの亀裂からドロドロした液体が染み出す。
それが人の形を形成していく様を、ミツキは尻餅を着いた体勢のまま唖然とした表情で見つめていた。
「……嘘」串刺しになったエレンを見てミツキが声を漏らす。
「残念だったな」水人形の顔に浮かび上がった口から告げる。「この通り、お前のお仲間は俺が殺した。次は、お前も消してやろう。我々と同じSVでありながら世界を乱す異分子め!」
勝ち誇った口調。
だが、それを聞いたミツキが呆れたように首を振る。
「いや、僕が言いたいのは、この人、何で無傷なの? ってことで……」
「何?」ミツキの言葉に水人形が、今しがた串刺しにしたエレンに目を向ける。
するとーー、
「掴まえた」
腹部に突き刺さった水針を掴みながら、平然とした様子でエレンが顔を上げた。




