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自分を狙い撃ちして来たその針を、エレンは難なく躱した。
しかし、エレンの後ろにあったコンテナには大きな穴が穿たれていた。
とても液体で出来ているとは思えない貫通力。
凶悪極まるその能力を見て、エレンは直感的にこの相手は自分がしないといけないと思った。
「マヤさんたちは、先に行って下さい!」
「え、でも、エレン一人でなんて」
反論を口にするマヤに、「大丈夫です!」とエレンが答える。
「ミツキさんにも残ってもらうので」
「え!? 僕!? 何で、僕が!?」まさかの名指しに、ミツキが声を上げる。
「手伝ってください。あなたの力が必要なんです」
「ええ、何でえ? 僕、お姉さんたちの敵のはずなのに……」
「手伝ってくれたら、あなたを自由にして上げますから」
「え、ほんと?」
「はい」
「何だ、それを先に言ってよ! いいよ、だったらやって上げる!」
現金なものだと、エレンは嘆息を吐く。もちろんミツキをそのまま解放するつもりはない。イレイザーズとしての能力を無力化したうえで自由にするわけだが、それをいま伝える必要はないだろう。エレンはマヤほどミツキのことを信用してはいない。
(……彼女の能力の利便性を除いては、だけど)
「先程の馬鹿力といい、本当に煩わしい小娘だ。……仕方がない。それなら先に他の連中を始末することにしようか」
硬質な声音と共に男の体から再び鋭い針が飛び出す。
だが、今度は一本だけではない。
その場に居た者のすべてを串刺しにすべく、計五本の凶針が襲い掛かって来た。
だが――、
「むだむだ」
ミツキがそう言って、見えない手を繰り出し、針の軌道をずらした。
「へえ……」
エレンが驚嘆の声を漏らす。
あの針が飛んで来る速度は、通常の人の目に止まるものではない。
それをミツキは難なく弾いて見せた。
だが、当のミツキは不満そうだ。
「むう……。ねえ、あんたの序列何位なの?」
「十一」
「十一位? それはおかしいね? だって、おじさんの能力、どう考えても僕と同等かそれ以上だもの」
「…………」
「どういうこと?」
「答える義理は無いな。そもそも、お前は本来、こっち側の人間だろう? 何故、俺たちと敵対する」
「別に好きでそうしている訳じゃないよ。こっちにも事情があるんだ……」不満たらたらといった様子でミツキが答える。
そんな二人のやり取りを見ながら、エレンはマヤたちに先を急がせる。
「みんな、いまの内です!」
エレンに背中を押されて、マヤたちが倉庫の方へと走り出す。
「行かすか!」
「だから、邪魔させないってば!」
男の繰り出した針をミツキが叩き落とす。
それを見て、男が諦めたように息を吐き出す。
「……いいだろう。先にお前たちを始末してやる」
その言葉と共に男の体が一瞬にして液状化した。
◆
「――エレンたち、大丈夫かな?」
コンテナの間を走りながらマヤが言う。
だが、その視線はシュウジが居る倉庫に注がれていた。
残して来たエレンたちを案ずる思いと、早くシュウジを助けたいという思いが、マヤの言動に微かな綻びを生んでいた。
その違和感をいち早く察したメイが口を開く。
「大丈夫ですよ。あの人が負ける所なんて、私には想像が出来ません。……それがたとえイレイザーズのSVであったとしても」
「……だね」マヤは小さく頷くと、メイの頭をポンポンと叩く。「ありがと、メイちゃん」
「い、いえ……」
照れた様子で顔を背けたメイにマヤが苦笑していると、「二人とも、止まって」とソウが言った。
「ここから先は、身を隠す場所がない。下手に姿を見せたら、さっきの日野森さんみたいに狙い撃ちにされる」
「あーね。流石にうちらじゃ、銃は避けらんないし。……じゃあ、どうするの?」
「メイ、行けるか?」
そう言われるのが分かっていたのか、メイは間を置かずに、「はい」と答える。
「私が、時間を停めて倉庫の中の様子を見て来ます」
「え、でも平気? メイちゃんの能力って、あんまり多用は出来ないんでしょ?」
「今が使い時だと思います。どの道、中の状況が分からなければ手の打ちようがありませんし」
「そういうことだ」と、ソウが頷く。「けど、くれぐれも無理はするなよ?」
「分かってます」
メイは微かに笑みを浮かべてそう答えると、静かに時を停めた。
あれだけ響いていた波の音も止み、世界に本当の静寂が訪れる。
ただ一人、自分だけが行動を許されたその世界をメイは全力で駆け抜けて行く。
そして、目的の倉庫に辿り着いた時、メイは我が目を疑った。
「……何、これ?」
そこに居たのは、何十人ものシュウジと同じ姿をした少年たちだった。




