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 ミツキは言った。

 

 ――だって、僕がイレイザーズに目覚めたのって、ついさっきのことなんだから。


 その言葉に偽りはなかった。 

 ただ、それを当たり前のことのように受け入れているミツキの在り方を、マヤはひどく気味の悪いものに感じた。

 

(イレイザーズって、みんなあんな感じなの?)


 飛び込んだミツキの精神の中で、そう毒づきながらマヤは更に奥へ奥へと潜って行く。途中、散りばめられたミツキの記憶がいくつも目に留まった。どこにでもいる女の子の記憶だ。友だちが居て、家族が居て、退屈な日々に不満を感じながらも、それなりに楽しく過ごしているようだった。そんな記憶のかけらたちには一瞥(いちべつ)もくれず、マヤは目的のブラックボックスへと真っ直ぐ向かった。


(見つけた!)


 ミツキの記憶のもっとも深い場所。

 明らかに異質な気配の漂う扉があった。

 マヤがその扉に触れると、こちらを押し返すような抵抗を感じた。

 そうした感覚を覚えたことはこれまでも何度かあった。

 ただ、今回は目一杯力を込めれば、どうにかなりそうな予感があった。


(よし! ちょっと気合入れてやりますか!)


 マヤが全力で扉を押すと、少しずつだが隙間が空いて行く。

 そして、三割ほど扉が開いたところで、ふっと手に掛かる力がなくなり、マヤは前のめりになりながら扉の中へと吸い込まれた。


 そこは何もない黒い空間だった。

 方向はおろか、自身がここにいるということさえも曖昧になっていくような、そんな恐怖を感じた。


(……何か、ここにずっといるのマズくない?)


 嫌な予感を覚えたマヤはすぐに引き返そうとした。

 そのとき、唐突に声が聞こえて来た。


『あなたは死んでしまいました』


『……は? いや、死んでないから』


『…………、残念ですが、あなたは死んでしまいました』


『え? マジで? うち、死んじゃったの?』


『はい。でなければ、ここには来られないはず……。ん? え、あれ!? あれえー!?』やたらとテンパった声が聞こえた。


『何、めっちゃ焦ってんだけど? ウケる!』


『全然、ウケません!』


『ごめんて。それより、どしたん? 何かまずいことがあったの?』


『ええ、そうですね。今まさにあなたがここに居ることが……』声の主はそう言うと、疲れた声音でマヤに尋ねる。『どうして生きているはずの人がここにいるんですか?』


『いや、知らんし。イレイザーズの意識に深く潜って行ったら、ここに出ただけだから』


『イレイザーズ? ああ、なるほど。つまり、この異常事態は彼らの失策というわけですね』


『え、なに? あいつらのこと知ってるの? っていうかあんた一体誰なん?』


『それらの質問にお答えすることはできません』


『あっそ。まあ、いいや。何となく、分かったから』


 マヤは以前に一度だけ、どことなくポンコツな雰囲気を漂わせるこの声を聞いたことがあった。

 聞き間違いでないのなら、この人物は……。


『分かったって、何を言っているんですか? 人間に私の正体が分かるわけ――』


『女神様でしょ』


『ゴフゥッ! ななな、何でぇ!』泣きそうな声で女神が言う。『どうして私のことを!?』


『いや、前にエレンの記憶で女神様の声を聞いたんよ』


『エレン? エレン……。あっ! この前、転生させてあげた女の子ですね』


『そうそう。女神様のポカの所為で、前世の記憶を思い出しちゃった日野森エレン』


『あ、うぅ……。や、やっぱり、彼女、前世の記憶を? ……彼女、怒ってました?』


『ううん。割と普通にしてたよ』


『そ、そうですか。良かった』


『というより、いきなり超能力に目覚めたり、ループ世界に巻き込まれたり、おまけにイレイザーズに襲われたりして、それどころじゃないって感じだったし』


『なるほど……』


『ねえ、女神様? 女神様なら、どうしたらこのループ世界から抜け出せるのか分かるんじゃない?』


『はあ。まあ、それは分かりますけど』


『教えて』


『だめでーす』


『ケチ』


『ケチで結構。……大体、私に聞かなくたって、あなたは一度、このループから抜け出し掛けたことがあるじゃないですか』


『……え、何それ? 初耳なんですけど?』


『へ?』間の抜けた声を女神が漏らす。『……さ、さて、私はこの後もまだ仕事が残っていますので、部外者には、お引き取り願いましょうか』


『ちょっと、何、露骨に話を逸らそうとしてんの?』


『全然、そんなことしていませんが?』


『女神の癖に嘘つくんだ』


『う、嘘なんてついてません!』女神が慌てふためきながら声を上げる。


 すると、不意に遠くで何かが弾けるような光が目に映った。

 その光は徐々に大きくなって行き、やがてマヤの意識ごとすべてを呑み込んで行った。 

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