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目を覚まして驚いたのは、自分がまだ生きているということ。
そして、手足が縛りつけられているという現実だった。
どうやら自分は何者かに捕まり、拘束されているらしい。
(でも、このくらいの拘束なら……)
イレイザーズは、普通の人間より遥かに力が強い。
ロープで縛っているだけの拘束など簡単に引き千切ることが出来る。
ミツキは体を起こすと、両の手足に力を入れた。
しかし、拘束を破るより先に、一人の少女が目に留まった。
部屋の片隅にある椅子に座っていたその少女は、明るい茶色のロングヘア―をしており、如何にもギャルといった感じだが、文庫本を片手に静かに読書をする姿が妙に似合っていた。
少女が本のページを一枚捲ると、耳元からはらりと髪が落ちた。
その髪を掻き上げた少女が、ふと顔を上げる。
すると、ちょうどそちらを見ていたミツキと目が合った。
「――あ、起きた」
少女が手に持っていた小説をパタリ閉じる。
その顔を見て、ミツキの頭に先程の恐怖が一気に溢れ出した
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
エレンを見てミツキが絶叫を上げると、部屋の扉が勢いよく開かれる。
「何々!? 一体、なにごと!?」
部屋に駆け込んで来たのは、ギャルが一人、中学生くらいの女の子が一人、それとおまけにあまり特徴のない男の子が一人。三人は悲鳴を上げているミツキを見て、次にエレンの方に顔を向ける。
「エレン、何したん?」
「え!? 私、何もしてませんよ。その人、私の顔を見ていきなり叫び出したんです」
「エレンを見て? ……ああ、なる。それ、多分初めて会った時のメイちゃんと同じ症状だわ」
「私と同じ?」メイと呼ばれた少女は首を傾げる。
「その子……、ミツキちゃんって言うんだけどね。何か、見えない手を出す能力があるみたい」
「へえ。でも、SVの割には地味な能力だな?」
「いや、諌山君。この子の能力、割とヤバイよ。だって、その腕、出そうと思ったら五、六本生やせるらしいし、その一本一本がミツキちゃんの腕力の10倍くらいあるってなったら、なかなかに危険でしょ」
「お、おう……。たしかにヤバいな」少しビビった様子でソウが答える。
「ということは、この人も、日野森さんみたいに戦闘特化型の能力者なんですか?」
「戦闘特化型って……」中学生の女の子にそう呼ばれ、エレンと呼ばれた少女が落ち込んだ様子を見せる。
「ううん。ミツキちゃんの能力の本質は改竄。見えない手で触れた対象の身体的情報を読み解いて、改変することが出来るみたい」
「改変? それって、ゲームで言うデバフみたいなものか?」
「ん? うん、多分そんな感じ」
「なるほど。そう聞くと、たしかにとんでもない能力者だな」
「まあ、そうは言っても、ミツキちゃんの容量を超えるような改竄は出来ないみたいだけどね」
(……え、何これ? 何か、僕の能力、丸裸にされてるんだけど?)
「あの、それで、お姉様? どうしてこの人は、日野森さんを見て、こんなに怯えているんですか?」
「うん。それは、さっきいたずら心でエレンのお尻を触ったとき、生物としての格の違いを思い知らされちゃったみたい。どれだけエレンの身体的情報を改変しても敵わないって」
「ああ、そういうことですか」納得したようにメイが頷く。
「何か複雑です……。っていうか、私のお尻触ったのって、この人だったんですか!?」
「ひぃっ!」声を上げたエレンにミツキが怯えるように体を震わせる。「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! こ、殺さないでぇ……」
「殺しませんよ。まったく、私のことを何だと思ってるんですか」哀訴の声を漏らすミツキに、エレンが大きく嘆息を吐く。
「私ちょっと、気の毒に思えてきました」
「何言ってんだよ。こいつはイレイザーズなんだ……、こんなのがイレイザーズなのか?」
とても信じられんと頭を抱えるソウの隣で、メイがマヤの方を見る。
「それで、お姉様? どうしてこの人を無力化もせずにここまで連れて来たんですか?」
「あー、うん。うちも最初はそうするつもりだったんだけどね。ただ、さっきミツキちゃんの記憶を覗いた時、何だか近付きづらい雰囲気のところがあって……」
「それって、イレイザーズの記憶ではないんですか? この間の赤ん坊や、あの気持ち悪い人の時みたいな」
「うーん、何かそれともちょっと違う感じなんだよね。あえて言うならエレンの記憶の中で女神様を見ようとしたときに近いかな。だからちょっと気になってね。この子のイレイザーズとしての記憶を消す前に、もう一度何があるのか確かめようと思ったの」
「でも、それって、大丈夫なんですか? お姉様にかなりの負担がかかるんじゃ?」
「大丈夫、大丈夫。これまで何度も限界攻めて来たおかげで、本当にヤバいラインは分かるようになったから」
「そんな峠を攻める走り屋じゃなんですから……」
メイのぼやきに、エレンとソウも同時に相槌を打つ。
「でも、みんな気にならない?」
「……確かに」
全員の意見が一致し、八つの瞳がミツキの方を向く。
「え、ちょ、ちょっと待って! 僕の記憶を覗くって!? そんなことしても意味ないよ! だって、僕がイレイザーズに目覚めたのって、ついさっきのことなんだから」
「え、そうなんですか?」メイが尋ねる。
「そうそう。突然、頭の中に自分が何者なのか浮かんで来たんだ」
「……何か、それって私の時と似ていますね」
「エレンの時って、転生した時のこと?」
「はい」
エレンの返事にマヤ、ふむふむと頷く。
「ねえ、ミツキちゃん? あんたって、もしかして前世の記憶とか持ってたりする?」
「え? 普通にないけど?」
このお姉さん、何言ってるだろう?
前世なんてある訳ないのに。
何なら来世だって怪しいものだ。
自分がイレイザーズであると自覚した時、ミツキは自分の役割を知った。
この世界を維持するための機構、歯車の一つ。
まるで神のように自分の頭の中で囁き掛ける誰かに不思議と抗う気は起きず、こういうものなのだと強制的に思考が捻じ曲げられた。
不快でしかない。
不快であるはずだ。
それなのに……。
僕はそれを受け入れている。
「……どういうことだろ? イレイザーズって、本当に何なの?」
エレンたちが話し合いを始める中、その様子を窺っていたミツキはふと思い出したことを口にする。
「イレイザーズは、この世界の異物を除去する免疫機能みたいなものだよ」
「え?」
ミツキの言葉にその場に居た全員が振り返る。
「……異物っていうのは、俺たちのことか?」
「うん、そう。君たちみたいな能力者。世界のバグ。永遠を約束されたこの世界に現れた破壊者たちさ」
そんな言葉がスラスラと口から流れた。
不思議な感覚だった。
ついさっきまで、何一つ知らなかった真実。
それが今では太陽が東から登って西へ沈むのと同じくらい当たり前のことのように感じた。
「世界のバグだって……。マジ、ウケるし」マヤが表情を変えずに呟く。「どっちかっていうと、あんたらの方が異物だと思うけど?」
「そう思うのは、お姉さんたちが何も知らないからだよ」
「ふーん……」
あれ?
何か、今、このお姉さんの頭の上に『イラッ』って文字が視えた様な……。
っていうか、僕、何でさっきあんな挑発するようなことを言ったんだ?
「そんなに言うなら、あんたが何を知っているか見せてもらおうじゃない?」
そう言うと、マヤはゆっくりとミツキに近付きその瞳を覗き込んだ。




