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その日、イベントスタッフのアルバイトをしていた北條ミツキは、唐突に自身の役割を思い出した。
イレイザーズを管理するSVとしての役割に。
だが、その役割を思い出したからといって、彼女のパーソナリティが揺らぐことはなかった。
お人形のような愛らしい顔立ちとセミロングの黒髪、まるでお人形のようなその少女はしかし、圧倒的に見た目を裏切るひどい性的嗜好の持ち主だった。
ミツキは、きれいな女性に目がなかった。特に長身でスレンダーな体系の女性が大好物だった。好みの女性を見つけると、いつも内から湧き出す衝動を必死に抑えていた。しかし、今日ばかりは駄目だった。彼女を見た瞬間、理性のタガが一瞬で外れた。
人ごみの中、日野森エレンを見掛けたミツキは、SVとしての能力を遺憾なく発揮した。彼女の能力は見えない手を何本も生み出すというものだった。その手の一本一本には、常人の何倍もの力が宿っており、野生の熊の頭蓋骨でもあっさりと握りつぶすことが出来た。
だが、ミツキの見えざる手の本当に特筆すべき点は、高度な解析能力にあった。それは触れた対象の身体的特徴を詳らかにするというものだった。その能力によって、ミツキは自分の気に入った多くの女性の体を余すことなく堪能して来た。だから、今日取った行動も、ミツキにとっては、ちょっとつまみ食いをする程度の軽い気持ちだった。
それがいけなかった。
日野森エレンのお尻に触れた瞬間、ミツキは生物としての格の違いをまざまざと見せつけられた。
(――これ、見つかったら殺される奴じゃん)
あの女には、逆立ちしたって勝てはしない。
ミツキは反射的に能力を解除した。
(というか、あんな生き物が存在していいの?)
SVである自分を棚に上げてミツキがそんなことを考えていると、突然、エレンの顔がこちらを向いた。目と目が合った瞬間、ミツキは蛇に睨まれたカエルのように、その場に縫い付けられた。
見つかった!?
ミツキが愕然しながらその場に立ち尽くしていると、エレンが声を上げた。
「危ない!」
顔上げると、大きな看板がこちらに向かって倒れて来ていた。
だが、極度の緊張に陥っていたミツキは、能力を上手く発動することができなかった。
このままでは、看板の下敷きになる。
そう思った時だった。
不意に、宙に浮く様な感覚を覚え、気が付けば元居た場所からゆうに数十メートルは離れた場所に移動していた。
一瞬の出来ごとに、何が起こったのか分からなかった。
いや、本当は分かっていたが、それを理解することを脳が拒否していた。
エレンにお姫様抱っこをされたミツキは、まるで母親のお腹の中に居る幼児のように小さく丸まっていた。
「……大丈夫?」
自分を覗き込むようにして話し掛けて来たエレンに、ミツキはあまりの恐怖に耐え切れず意識を手放した。




