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翌日、エレンたちは予定通り駅前で行われるフードフェスの会場にやって来ていた。
そこにはすでにたくさんの屋台が並んでおり、あちこちでいい匂いが漂っていた。
「人、多っ!」ソウの第一声。「え、このイベント、こんなに人、集まるの?」
「ですよね。私たちも、前回来た時は驚きましたし」
相槌を打ったエレンに、「そうそう」とマヤが答える。
「あと、日差しも強くてマジビビったから。エレン、ちゃんと日焼け止め塗って来た?」
「あ、はい。昨日もマヤさんに言われましたから」
「えらいやん。打ち合わせ通り」
うぇーいと挙げたマヤの手に、エレンは気後れしつつも手を合わせる。
「君ら、元気だねえ。こんな暑いってのに。うちの妹見てみなよ」
ソウの後ろには、日傘をさして、なおぐったりした様子のメイが居た。
「メイちゃん、死にそうやん」
「……き、今日、暑すぎませんか?」
「それなあ。でも、言うて毎年、こんな感じじゃね?」
「私、普段はあまり外出しないので」
「ああ、インドア派だったかあ」
「あと、人が多い所もあまり行きませんし……」
「分かります。私も、お姉ちゃんたちに誘われなかったら、こういう所は絶対に近寄りませんし」
「ウケる。陰キャの鏡みたいなこと言ってる」
人ごみの中、事故現場の近くまでやって来たエレンたちは、周囲に目を向けた。
どうやら、まだ目的の人物は現れていないようだった。
「予定の時刻まで、あとどれくらいだっけ?」
「あと、3分くらいですね」腕時計を見てエレンが答える。
「じゃあ、それまでここで待機だね」
時刻はちょうど正午を過ぎた所で、事故現場の近くに都合よく日陰になっている所は見当たらなかった。
「メイちゃん、ダイジョブそ?」
「は、はい、何とか……」
「あ、私、水筒持って来ているので、良かったら――」
メイがあまりに辛そうだったので、エレンはバッグの中から冷たい飲み物を入れた水筒を取り出そうとした。
その時だった。
「きゃあっ!?」
「ど、どしたん、エレン?」
突然、声を上げたエレンにマヤが目を丸くする。
「い、今……」
誰かにお尻を触られた?
自分の勘違いかと思ったが、咄嗟に相手の手を叩いた感触が確かに残っている。
あれ?
でも、待って。
今、私の後ろに居る人なんて……。
「……え、何? 日野森さん、どうして俺のこと睨んでるの?」
「い、諌山君。ひどいです。まさか、こんなことをする人だったなんて……」
珍しく目を吊り上げて怒るエレンを見て、マヤが眉を顰める。
「え、マジでどしたん、エレン? 諌山君に何かされたん?」
「そ、それは……」
「まさか、お尻触られたとかじゃないよね?」口籠るエレンにマヤがおどけた様子でそう尋ねる。
「…………」
「……え、マ?」マヤはそう言うと、静かに冷たい視線をソウの方に向ける。「諌山君、流石にそれは引く」
マジトーンのマヤに、「ちょっと待って!」とソウが声を上げる。
「冤罪だから! おい、メイも何か言ってやってくれよ!」
「何がですか? ごめんなさい。ぼうっとしていて、何も聞いてませんでした」
「いや、だから、俺が日野森さんのお尻を触ったとかって言われて――」
それを聞いて、「は?」と、硬質な声がメイの唇から零れる。
「……兄さん、最低です」
「信用ゼロかよ、俺!?」
「そういうことは絶対にしない人だと思っていたのに……」目に涙を浮かべてメイが言う。
「おい、やめろその目!」
「諌山君さあ。もうちょっとTPOってものを考えてくれない?」
「マヤさん、痴漢にTPOは関係ありません。すべからく死刑にするべきです」
「お、おう……」エレンの凍るような声に、マヤでさえも腰が引ける。
まさかのソウの痴漢容疑によって、空気は最悪になった。
女性陣から冷たい視線を向けられたソウは、どうにか身の潔白を証明しようと考える。
「……あ、そうだ! 斉木さんが俺の記憶を読めば、俺が無罪だって分かるはずだ!」
「あーね。でも、今、諌山君と目を合わしたら妊娠しそうでいやだな……」
「しないよ!?」
そんな言い合いをしていると、エレンのスマホが音を鳴らした。
予定時刻に合わせてセットしてあったアラームだった。
直後、突風が吹き、眼前にあった看板がぐらりと揺れる。
目の前で、ゆっくりと倒れて行く看板。
その下には、一人の女の子が立ち尽くしていた。
今回のターゲット。
SVであるはずの女の子。
だが、その女の子は、エレンと目を合わしたまま動く気配がない。
「危ない!」
声を上げたエレンは、瞬時に人込みを掻き分け倒れる看板の元へと駆けて行った。




