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今日から8月になった。
前回のループの通りなら、明日、駅前で催されるフードフェスの最中に事故が起こる。
それは突風で煽られた看板が準備作業中のスタッフに衝突するというもので、命に関わるようなものではなかったが、その日のフードフェスは中止となった。
エレンの姉であるカレンは、以前からそのイベントを楽しみにしていたので、「絶対に事故を防がなきゃ!」と、かなり気合を入れていた。
そんなことを思い出しながら、エレンはマヤと一緒に、すっかりみんなの集合場所となった図書館までやって来ていた。
図書館に着くと、すでに諌山兄妹が四人掛けのテーブル席を確保していた。
四人は軽く朝の挨拶を済ませると、明日のことについて話し合った。
前回のループでは、エレンが看板を支えるだけで事故を防ぐことが出来たが、今回はそうはいかない。
十中八九、先日のプールの時のように、周囲の人がイレイザーズ化することが想定された。
それを聞いて、メイが口を開く。
「……やっぱり、人の多い所だと不利ですよね」
「だから今回も、初手で決着をつける」
ソウが提案したのは、現れたSVをエレンの力で拘束し、その隙にマヤが無力化するというものだった。
「ワンパターンじゃない?」
それは言われた本人も分かっていたのだろう。
マヤの言葉に、「まあね」とソウが苦い顔を浮かべる。
「でも、これが一番、確度が高いわけだし」
実際、これまでも、エレンたちは同じような方法でSVを無力化している。
エレンの馬鹿力に加え、マヤのイレイザーズ無力化の能力があれば、それは勝ちパターンといってもいいくらいには成立する。
ただ、この方法が通用しなかった時点で、エレンたちは撤退するしか道がない。
だから、逃走経路と手段については、十分に話し合いが持たれた。
その話し合いも、メイが事前に下調べをして来てくれたおかげで滞りなく済ませることが出来た。
「……思っていたより時間が余っちゃいましたね」話し合いが終わるとメイが言った。
「だねえ」そう答えながらスマホを取り出したマヤが、何かを思い出した様に口を開く。「あ、そういえばさ。今日、ここに来る前に駅の近くを通ったんだけど、昨日、駅付近のビルで爆発事故があったんだって。知ってた?」
「そうなの?」
「うん。ビルの壁がめっちゃ焦げてるの見えたし。ねえ、エレン?」
「ええ、そうですね」
「おかしいなあ? ニュースでは、そんな話はどこにも出ていなかったけど」
「私もマヤさんも、前回のループでそんなことがあった記憶はなくて……。もしかして、イレイザーズが関係しているんでしょうか?」
エレンの言葉に、「どうだろう」とソウが答える。
「ただの事故である可能性が高いとは思うけど。稀にだけど、いつものループにはない出来事が起こることもあるし……。ただ、仮にイレイザーズの仕業だとしたら、俺たち以外の誰かが、ループの流れを変えるような何かをしたってことになる」
「それって、うちら以外にも能力者が居るかもしれないってこと?」
「そういう可能性もあるって話だよ。これまでも俺たち以外の能力者は居たわけだし」
「そっか……」
もしかしたら、仲間が増えるかもしれない。
一瞬、そんな考えがエレンたちの頭を過った。
だが、諌山兄妹が過去に大勢の仲間を失っていることもあり、誰もそれを口にはしなかった。
代わりにメイが口を開いた。
「この後、お姉様たちは、どうしますか? ちなみに私と兄さんは、買い物して帰る予定ですが」
「うーん、どうするエレン?」
「私は、特に用事もないので、すぐに帰宅しようかと……」
「じゃあ、帰りに駅中のお店、見てこうよ」
「え……」
「エレン、すぐに帰りたいって顔してるし。ウケる」
「あ、いえ、そんなことは……」
どうやら考えていることが顔に出ていたらしい。
気を付けないと。
エレンが顔を赤くしていると、不意に後ろから声を掛けられた。
「あなたたち、図書館の中では静かにね?」
そう言って来たのは、二十代半ばくらいの女性だった。
この図書館の職員だろうか?
女性は、エレンと目が合うと、柔らかく笑みを浮かべた。
「は、はい。すみません」
エレンが謝ると、女性はうんと頷く。
「ああ、それと、駅の近くで遊ぶようなことを話していたけれど、気を付けてね。昨日、あのあたりで爆発事故があったみたいだから」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
女性は、もう一度エレンに微笑み掛けると、静かにその場を去って行った。
その後ろ姿を目で追いながら、エレンは何か違和感を覚えていた。
それがどこから来るものなのか答えが出る前にメイが言った。
「ちょっと、五月蠅くし過ぎたでしょうか?」
「かもな。……まあ、今日の目的は済んだことだし、これで解散ってことでいいかな?」
「りょ」
「分かりました」
「はい」
エレンたちは、それぞれ返事をすると、図書館を後にした。




