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第二十一話 噂

 

 姿を変えた俺は、準備を整えて、日を改めて再び魔王国へと戻った。

 転移って便利だよなぁ、と改めて思う。


 まぁそれは置いといて、今の魔王国は少し…いや、かなり空気が重い。


 魔力濃度のせいだけじゃない。城下へ近付くほど、妙に張り詰めた気配が肌に刺さる。

 たった二日でここまで深刻になるほどなのか。


 すれ違う魔族たちの声は小さい。視線が合えばすぐ逸らされるが、だからといって怯えているわけでもない。ただ、互いに探っているような、妙な間があった。


「……嫌な空気」


 思わず呟く。


 この前来た時に、「裏切り者がいるかもしれない」という噂自体は聞いていた。

 犯人が誰かもわからないまま、互いに探り合うような状態が続いたからだろうか、皆が疑心暗鬼になっているようだった。


 …とはいえ、適当にぶらぶら歩いていたところで、欲しい情報が簡単に拾えるほど甘くはない。

 人間の町なら、酒場か飯屋にでも入れば多少は噂が拾えるんだろうが、魔族社会にそういう文化はほとんど無い。少なくとも、この国では「食べるために集まる場所」より、「必要があって集まる場所」の方がずっと多い。


 訓練場、武具の整備所、門の周辺。あるいは、城下でも特に人の出入りが多い場所。


 誰もが警戒しているとはいえ、用があって集まる以上、会話そのものまでは無くならない。むしろ、張り詰めている時ほど、ふとした一言に本音は混じる。


 問題は、俺がどこへ行っても不自然じゃない場所を選ぶことだが。

 あまり露骨に探っているように見えれば、それこそ余計な疑いを呼ぶ。


 さて、どこから当たるか――。


 少し考えて、俺は闘技場の方角へ視線を向けた。


 こういう時、一番口が軽くなるのは、頭より先に身体を動かす連中だ。



 *   *   *



 闘技場、そこは魔王国において代表的な建築物の一つだ。

 実力主義な魔族社会では、闘技場は命を奪わず、かつ効率的に実力が測れる重要施設である。

 魔王選定戦もここで行われることになっているらしい。


「…選定戦の話聞けるかと思ったんだけど」


 人がいそうだと思ったんだが、不自然なほど人が少ない。

 無人というわけではない。一人静かに訓練している者や、壁にもたれかかってぼんやり眺めている魔族もいる。


 だが、本来あるはずの喧騒がない。

 歓声も、野次も、腕試しを誘う声すら聞こえなかった。


 外出や集まることを避けているのか、随分閑散としている。


 下手に誰かとつるめば勘繰られる。

 下手に大声で噂でもしようものなら、誰に聞かれるか分からない。


 そんな空気がここにまで及んでいるのだとしたら、相当だ。


 そのせいで、きょろきょろと周囲を窺っている俺の方がよほど目立っていたらしい。


「おい、そこのチビ」


 低い声が飛んできた。


 ――同時に、空気がわずかに歪む。


 その瞬間、俺は「障壁(イルマ)」で大槌の攻撃を防ぐ。


「ほお?やるじゃねぇか」


 襲い掛かってきたのは、鉄塊とも言える大槌を担ぎ、巨大な筋肉と毛深な毛皮に覆われた大男。

 肌は浅黒く、こげ茶色の体毛が波打つように逆立っている。

 頭の耳は三角に尖り、見開かれた剣呑な目はしっかりとこちらを捉える。

 口元が前方に大きく長く、隙間から覗く鋭い歯が、唸りとともに光を反射する。


 まるで狼の獣人のような魔族だった。


「直前に声をかけたから、ギリギリ不意打ちじゃないってことにしてあげるよ」

「ぬかせ!」


 こんな往来でいきなり攻撃とは、魔族とはこうも横暴だったろうか。


 …いや、おそらく選定戦前に参加者をつぶしておこうという魂胆なんだろう。あるいは、知らない顔の実力を見るためか。


 参加者が多くなれば、当然門も狭くなる。参加者としては情報が多く欲しいはずだ。


 どちらにしろ、俺にとっても好都合だ。


「そぉらッ!」


 見た感じ、魔力保有による身体能力補正で直接殴りに来る物理アタッカーって感じか。ただ魔族である以上魔法を使ってくる可能性も否めない。


「ほらほらどうしたァ!防戦一方かァ!?」


 大槌を振り回している割に素早い。余裕がないわけではないが、俺は攻めあぐねていた。


 ―――()()()()()()()()()()()


 ここで手札を知られると面倒だというのは、なくはない。だが、それ以上に、なんというか…どうにも面白くない。

 特に、近接で殴りかかってくる相手に、射程外から魔法だけで処理するのは。


 悪い癖なのは承知している。だが、カンストキャラに縛りを設けるように、制限下で攻略するのも、ゲーマーの嗜みなのである。


 せっかく向こうから殴りかかってきたんだ。少しくらい遊んでも罰は当たらないだろう。


 俺は身体能力、特に腕力、脚力に魔法でバフをかける。

 脈拍、血流が早くなり、体温が上がる。

 腕や足に、新たな繊維が外付けされるように魔力がまとわりつく。


「あん?テメェ魔術師じゃねぇのか?」

「さぁね?見た目で判断しない方がいいかもよ」

「ハッ!面白れぇ、付き合ってやろうじゃねぇか!」


 お互いに一歩踏み込む。相手が大槌のリーチ分、一手早い。

 試すためにも、その大槌に拳を叩き込んだ。


 ―――結果。


 もちろん吹っ飛んだ。俺が。

 そりゃそうだ。相手のパワーに耐える硬度があるのだからたやすく砕けるわけがない。


「おいおい、口だけかぁ?調子に乗るからそうなるんだぜ?」

「ふざけたのは認める。次は受けないようにしないとね」


 再度踏み込む。今度は相手が動いてない分、確実に合わせ始めた。

 それを跳躍で回避、切り返してくる大槌を蹴り、距離を取る。


 遠くから近付くと合わせられる。なら、反応が間に合わない距離から近付くしかないか。


 俺達は互いに距離を保ったまま、じりじりと横へ回った。

 奴は大槌を振り抜ける位置を探り、俺はその内側へ潜る道を探す。

 馬鹿正直に正面から突っ込むほど、脳筋じゃないらしい。


 その中で、俺はゆっくりと距離を縮めていく。

 それに感づいたのか、向こうが先に動いた。


 横の振り抜きをバックステップで躱す。

 足に力を溜めて突っ込むフェイント。

 切り返すか迷ったところに飛び込み、ボディブローを叩き込む。


「ぐっ…!?」


 たたらを踏む足を内から払い、体勢を崩す。

 そして、大きく開いた股間めがけて蹴り上げる。


「ふんッ!」

「くぉあ!?」


 ―――あ、魔族って金的意味あるのか?


 後から思ったが、どうやら聞くまでもなかったようだ。

 大槌を取り落とし、股間を抑えてその場に(うずく)まっている。


「卑怯とは言うまいな…」

「いやッ、卑怯だろォ!?」


 …ごめーんね?


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