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第十七話 きっと、いつの日か。

 

 結局最後まで入ってしまった…

 しかしエリーゼのおかげというか、あのいたたまれなさを感じることなく入ることができた。


 まぁ、当のエリーゼは未だにこめかみをさすっているのだが。


「うぅ、アルミナさんが容赦ないです…これでも王女なのに…」

「エリーゼがはしゃぎすぎなだけ。それにシャルロットだけずるいずるいって言うからそうしてあげてるんでしょ?」

「むぅ…それはそうですけどぉ」


 恨みがましそうな目で見てくるが、俺はそれを無視する。

 そもそも俺、被害者だし。


「あ、皆上がった?」


 悠が丁度向こうからやってきてそう言った。


「ご飯作っておいたから、せっかくだしみんなで食べよう」


 お前主婦かよ。

 ていうかエリーゼに至ってはついさっき来たんだぞ。

 嘘だろお前。


「あ、アルミナ…!」


 二人が歩いていくのを後ろからついていこうとすると、悠から呼び止められる。


「何、かな?」

「えっと……ごめん!」

「え」


 何をしているんだこいつは。

 俺なんか謝られるようなことされたか?


「ま、待ってよ。何で謝ってるの?」

「昨日、俺の部屋を出る時なんか辛そうにしてたから、俺がなんかしちゃったのかなって…」

「それは…!」


 それは、俺が勝手に辛くなって自棄になっただけだ。

 悠に非は一切ないし、まして謝る理由なんてこれっぽっちもない。


「それでも、ごめん」

「いやだから…」

「アルミナが辛いときに、ちゃんと向き合って話してあげられなかった。ごめん」


 そう言って、再び頭を下げる。


 …相変わらずだな、こいつも。


「ホント、悠はバカでお人好しだよねぇ」

「え、ちょっとそれ酷くない?」

「褒めてるんだからそんなことないよ」


 俺は、悠に何度も救われてきた。

 いや、救われたって表現は少々誇張かもしれないな。


 だが、外面を取り繕って生きてきた俺の『内側』に気付いてくれたのは、悠だけだった。

 クラスメイトでも、教師でも、家族でもなく、悠だけが。


「けどさ、ありがとう。心配してくれて」


 あぁ、俺にとって悠はやはり『特別』なのだろう。

 しかしいずれ、この『特別』という感情は変質してしまうかもしれない。

 例えそれが『憎悪』であれ、『執着』であれ、『恋慕』であれ…

 どれだけ異質なものであろうと未来の俺はそれを甘んじて受け入れている、そんな気がする。


「さ、シャルロット達も待ってるし、早く行こうか」

「…そうだね」



 *   *   *



 食事を済ませ、悠の家を出た。

 いつでも戻ってきていいと言われているので、ある程度用事が済んだら戻ってこよう。


 俺はフードを深く被り、大通りから外れ、裏路地の奥へと進んでいく。

 完全に人気が無くなったところで、俺はある検証を始めた。


 そう、前々からずっと気になっていた『性転換』である。

 これがパッシブなのかアクティブなのか確かめるのもそうだが、もしアクティブだった場合どうなるのか非常に気になる。


 それじゃあ…


 ───『性転換』


 その一瞬で、懐かしい男の感覚が戻ってきた。

 目線も高くなり、声も元通り。


 …元通り?


 俺は咄嗟に水鏡を作り出し、自分の顔を見てみた。


「おいおい…前世のままなんて聞いてないぞ…」


 どうやら性別を変えると言うより、体そのものを変えているようである。


 ということは、人間の体に戻ったということだろうか。


 俺は試しに自分の腕を切り落とした。

 その瞬間、懐かしい激痛が襲う。

 …激痛に懐かしいなんて表現普通使わないが。


「いっづぁっっ!?」


 今までならそうなかった痛みだが、この体になって痛みに敏感になったようだ。

 そして、吸血鬼特有の再生も起こる気配もない。

 本当に人間に戻ったようだ。


 俺は切り落とした腕を拾い、傷口にくっつけ魔法で再生する。


「フゥ…」


 今更だが、なんの躊躇いもなく自分の腕を切り落とすなんて、我ながらどうかしてるんじゃないかと思う。


 しかし、人間の体というのは確かに色々と不便だなと思ってしまう。

 食欲や睡眠欲、性欲といった三大欲求はもちろん、怪我をすれば治るのは時間がかかるし、二度と元には戻らない。

 薬や魔法を使えば治るものもあるが基本高価だ。


 その点魔族の体は魔力さえあればどうとでもなる。

 ぶっちゃけ人間の体にはもう戻らなくてもいいんじゃないかと思うくらいには魔族の体は非常に便利だ。


 そうして俺は、大通りに出た。

 弱点の日差しを防ぐ役割も果たしていたフードをそっと脱ぐ。


 久しぶりにその身に受ける日の光に、少し目を細める。

 あの時のような倦怠感はない。


 ───よし、何しよう。

 このまま戻りたくはないしな。


 せっかくここまで来たのだ。何かしたい。


 そう思いながら街をフラフラと彷徨っていると…


「───『冒険者ギルド』…」


 異世界転移、転生したなら誰もが一度は夢見る冒険者。

 それが今目の前にある。


「入らないわけないよな」


 俺は、その扉に手をかけた。


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