第十六話 ラッキースケベ…?
──残り、一メートル。
もうお互いに得物が届く距離。
シャルロットの凶刃が迫る。
地に足が着くかどうかのタイミングで、俺は思いきり体をひねり剣の横腹を捉え弾いた。
常人の比ではない膂力で弾けば、剣聖とはいえ一瞬は隙が生まれる。
その一瞬で、十分だ。
「『神…」
俺はあの一撃を、勝ちを確信し振り抜く。
「鳴』ィッ!!」
轟音を振り撒き、最速の一撃を解き放った。
だが、俺は『剣聖』を見誤っていた。
シャルロットは今、咄嗟に動ける状態ではなかった。だがしかし、たった一瞬、シャルロットの気迫が変わった。
『同じ手は二度と食わない』と、そう言うように。
その直後、後方へ倒れ行くシャルロットの体が動きを止めた。
飛んでいこうとする剣を無理矢理に押さえつけ、大上段から先ほどと比べ物にならない圧力を放ちながら剣を振り下ろす。
俺の『神鳴』と同等、いや、それ以上か。
予想外の出来事に驚きを隠せなかった。
そして、剣と棒がぶつかり合う。
攻撃を受け止められ、ならばと押し込む力を込めた瞬間、嫌な感触がした。
力が流される、そんな感触。
絡めとられる…!
そう思った瞬間、俺の得物は宙を舞った。
──ゴッ!
重い音が鳴った。
その場に立っていたのは、シャルロットではなく俺だった。
* * *
「いやはや、まさか負けるとはな」
「正直、勝負に勝って試合に負けた気分なんだけど」
「そんなことはない。ルールで制限していなかったし、何より私は魔法を使ったんだ」
シャルロットが途中で態勢を整えられた理由、それは『障壁』を使ったからだ。
「まさか『障壁』を足場に使うとはねぇ」
「やはりどこでも足場が作れるのは便利でな。自分でも好きな魔法だ」
そう、剣聖とはいえシャルロットは『魔法剣』の発案者。
シャルロットの本気は魔法も含めてである。
だがしかし、これほどの実力がある人間が四人も集まってようやく倒せる(最後は俺一人だったようだが)魔王はやはり相当強かったのだろう。
ん?なんで俺が勝ったのかって?
俺の棒が弾き飛ばされた時、俺は即座にそれを手放した。
直後追撃しようとするシャルロットの目前に手をかざしたのだ。
誰でもいきなり視界が塞がれれば動きは止まる。
それにこちらの動きは見えなくなり対応も遅れる。
お構いなしで攻撃しようとしてきたときは焦ったが、ギリギリ俺の方が速かった。
シャルロットの胸部に掌底を叩き込んで勝負が決した。
いや別にいかがわしい目的のために胸を狙ったんじゃないぞ。
腹部であれば下手すると内臓に傷がつく可能性があるため避けたのだ。
確かにあの豊満な胸に興味がないわけではないが、あんな一瞬だけでいったい何が楽しめるというのか。
どうせなら心ゆくまで揺らして掴んでつぶしてこねくり回してなんぼ…
ゴホン、失礼。
とにかく、胸部を狙ったことに他意はない。そういうことだ。
というか俺はそもそも脚フェチであって別に胸の大小など…──
* * *
さっきの事は忘れろ、いいな!?
俺は性癖の話なんぞしていない。そうだ、模擬戦の事を話していたのだ。
さて、それはそれとして、うん。
「やはり運動した後の風呂は体に染みる…」
「…ソウダネー」
なーんであの直後で風呂イベントとなんて起きるのかなぁ?
あっ、うわっ、すげーマジで浮いてる…っていやそうじゃなくて。
何がそうじゃないのかって話だがそうじゃなくて。
まって、わけわかんなくなってきた。いったん落ち着こう。
………いや落ち着いていられるか!?
よくよく考えてみろ!元男が巨乳と風呂場で二人きりだぞ!?
性癖関係なく意識するわ!
確かに自分の体は見慣れてるさ…裸なんて嫌でも目に入るし、何より自分の体だしな。
だがこれは違うッ!
他人の、それも純粋な女性の体だッ!
それを騙すような形で見るなんて…なんか申し訳ねぇよ…!
何だかいたたまれなくなり、お湯から出て上がろうとする。
「ん?もう上がるのか?」
「なんだか落ち着かなくてね」
出来るだけ冷静に答えて、戸に手を掛けようとした瞬間スパァン!と勢いよく開いた。
「お二人だけずるいですぅぅぅぅ!!!」
「オ゛ッッッ!?!?」
飛び出すように突っ込んできたエリーゼが、それはもう見事にお腹にクリーンヒットする。
「どうして呼んでくれないのですか!?私も一緒にお風呂に入りたいです!」
「お、おいエリー…いくら何でもあぶな「エリーゼぇ…?」」
エリーゼの突進から復活した俺は、音もなくエリーゼの後ろに立ちその名を呼ぶ。
──ドスッ
「ひぅっ…!?」
「お風呂場でそんなことしたら…」
エリーゼの左右のこめかみに突き立てた親指に力を籠め…
「危ないでしょうがぁぁぁぁぁああ!!!!」
グリグリグリグリィッ!
「きゃああぁぁぁぃぃいたたたたたたたたた!?」




