第十八話 冒険者
キィ…と戸を開け中へと入る。
その瞬間、ギロッとすべての視線がこちらへと向いた。
まぁ流石にこの程度ならどうと言うこともないか。
そしてこれもまた予想通りと言うか、受け付けへと歩き出すと同時に野次が飛び出した。
「おいおい、ここはガキの来る所じゃねぇぜ?」
「ママはどうした。迷子か?ウハハハ!」
はぁ…どっちがガキなんだか。
分かってはいたが、いざ自分がやられると腹立つな。
これからコイツらと同じ職を持つ事になると思うと嫌になりそうだ。
あと少しで受付に着くところで、目の前に大男が立ち塞がった。
「ガキは帰りな。お呼びじゃねぇ」
「…だりぃな」ボソッ
「あ?」
おっと、つい本音が。
まぁいい。登録してしまえば大人しくなるだろう。
「いえ、なんでも」
「待てやテメェ」
「まだ何か?」
横を通り抜けようとした俺の肩を掴み、今にも殴りかかってきそうだ。
しつこいなぁ、放っときゃいいのに面倒な奴。
「スカした面しやがって、その顔凹ませてやろうか」
「やれるものならどうぞお好きに。しかしまぁ…あなたの無事は保証しかねますが」
「こんの…ッ!?」
怒りが頂点に達したのか、拳を大きく振りかぶった。
───が、それが振り下ろされることは無かった。
「だから言ったのに」
ドシン、と大きな音を立てて大男が倒れる。
俺はそのまま受付へと向かった。
「おい、これ生きてんのか…?」
「息はあるし、死んではねぇだろ…」
「つかよぉ、もしかするとコイツC級の『黒曜』じゃなかったか?」
「嘘だろ…!?そんなやつを一瞬でノシたってのかよ!」
後ろで野次がなにやら騒いでいる。
ていうかそんなに有名なやつだったのか。
「お騒がせして申し訳ない。冒険者登録をしたいんですが」
「…あっ、は、はい!」
慌てた受付嬢がそそくさと書類を持ってきた。
「こちらにご記入ください」
「ありがとう」
ふむ…名前と役割に年齢、犯罪歴の有無か。
特に気になる点もないし、サラサラと書いていく。
すると、受付嬢がなにやら言いにくそうに話しかけてきた。
「あの…」
「ん?」
「さっきの事なんですけど、あんまり気を悪くしないでくださいね。冒険者は仕事柄、どんな依頼にも危険が伴う事が多々あります。なので命を落とす方も少なからずいるんです」
「つまり、あれはある意味試験でもある、と?」
「はい。こちらから頼んでいる訳では無いのですが、他の冒険者様方の配慮で、冒険者に向いてなさそうな人が下手に命を落とさないように、ああやって選別してもらってるんです」
「なるほどねぇ…」
つまり俺はそれだけ弱そうに見えたってことか。
良く言えば油断してくれている、悪く言えば侮られているということか。
まぁあのC級の…なんだっけ、『黒曜』?だったか?
そいつを気絶させた事である程度は評価してくれるだろう。
「はい、どうぞ」
「承ります。…『キョーヤ』さんですね。役割は『魔術師』の18歳…へえ、私と同い年なんですね。犯罪歴も無し、と…はい、問題ありません。このまま受理致しますね」
「よろしくお願いします」
しばらくして、受付嬢はなにやらカードを持って現れた。
「こちらが身分証になります」
「これが…」
いわゆる、『冒険者カード』と呼ばれる代物だ。
カードは金属で出来ており、そこに名前や役職などが書かれ、右下に大きく『F』と記されていた。
「先程の事でキョーヤさんが実力者なのは分かっていますが、規則ですのでF級からとなります。何か質問はありますか?」
「いえ、特にありません」
「…本当に大丈夫ですか?」
「ええ、知ってますから」
冒険者としての常識も、ちゃんと頭に入っている。
早速依頼を受けようと思い、そちらへ足を向けると、さっき気絶させた『黒曜』とやらから声を掛けられた。
流石は冒険者、復帰が早い。
「待ちな坊主」
「…なんでしょう?」
「そう警戒しなさんな、悪絡みする気はさらさら無ェよ。お前の腕を見込んで提案がある」
「提案?」
「ああ。俺たちのパーティに入ってみねェか?」
パーティ、か。正直気乗りはしない。
もともとソロでやるつもりだったし、八日後には例の大会が控えている。
それに、色々と行動が制限されそうだ。
「申し出はありがたいですが、しばらくは一人でやっていくつもりです」
「だが実入りの少ねェ依頼ばっかだぞ」
「構いません。お金に困っているわけではないので」
「…そうかい。無理強いはしねェ。頑張んな」
「お気遣いどうも」
「それとお前、その敬語やめた方がいいぞ。俺を含め、ここの連中はそういうのが好きじゃねェ」
「…へぇ、じゃあそうしよう」
どうやら敬語はまずいらしい。
…なるほど、貴族然としてて気に入らないって感じか。
冒険者になるのは平民が多く、貴族に対する偏見があるためか、あまり印象がよくないんだとか。
日本じゃ初対面でタメ口の方がよっぽど失礼なんだが、これが文化の違いってやつか。
まぁとりあえず、なにか適当に見つけてやってみよう。
俺は、依頼書が貼られた大きな木板に歩き出した。




