第十四話 心の傷
「…何か、言うことはあるか?」
今現在、俺は仁王立ちするシャルロットの前に正座し、お説教タイムである。
理由は簡単。悠に軽くトラウマを与えてしまったからである。
そりゃあ目の前で人間が爆発したらそうなるよね普通。
カルナが異常だったんだよきっと。
うん、そうに違いない。
──と、開き直りたいところではあるが、そうもいかないのが現実である。
「自分でも予想外のことで、まさか頭が爆散するとは…」
「それは言い訳か?」
「…はい」
有無を言わさない圧に負け、つい頷いてしまった。
シャルロット恐るべし。
こんな時に考えることでもないのだが、よく見る異世界モノの主人公って大抵こんな感じの事させられてるよな。
この場合、主人公なのは悠なんじゃないのか?
「…まぁ、こればかりは私に直接の関わりはないから追求しないでおく。ただし、ユウ殿にはちゃんと謝ってこい、いいな?」
「はい、お母様」
「!?…だ、誰が母親だっ!」
だってめっちゃ母親してるんだもの。
それに、ああは言うものの意外と満更でもなさそうだ。
妙にそわそわしているからな。
さて、それじゃあ悠のところに行きますか。
* * *
コンコン
「ユウ、入るよ」
部屋の扉を開け、中を覗く。
悠はベッドに腰かけ、落ち着いた様子を見せていた。
「大丈夫?」
「うん。今のところ平気だよ」
「ごめんね、あんなことになるとは思わなくてさ」
「こっちこそ、あんな提案してごめん」
お互いが謝りあい、どことなく気まずい雰囲気になる。
俺は、ふと悠の隣に座った。
「…」
「…」
ただただ静かに時間が流れ、互いに口を開かない。
自分で自分に何でわざわざ隣に座ったんだと問いながら、どうにか気持ちを落ち着けようと大きく呼吸する。
すると、悠が徐に口を開いた。
「…アルミナってさ、ああいうの平気なの?」
『ああいうの』とは、間違いなく先ほどの事故の事だろう。
「そう、だね。別に痛覚がないわけじゃないから痛いことは痛いんだけど…色々あって、そういうの鈍ってるの」
「やっぱり、吸血鬼だから?」
「うーん…どうだろう。それもあるけど、原因はまた別かな」
「そっか」
再び、沈黙。
今の悠は、何を考えているかわからない。
表情も、仕草も、目線さえ変わることなく、ただじっとそこにいるだけ。
何を思ってあの質問をしたのか、あの答えが何をもたらすのか…
俺は今、この空間にいることがどうしようもないほどに辛いと感じている。
常に誰かの心情を捉え、先を考えていた故に、何もわからないという状況は俺の精神を圧迫するのに易かった。
それは、俺が未だに前世の『俺』を引き摺っているということの証明に他ならなかった。
「ごめん…そろそろ、戻るね」
「あ、うん」
堪らなくなった俺は逃げるように…違うな。俺はあの空間から、──悠から逃げた。
* * *
俺は、余ったからと与えられた部屋に入り、ベッドに倒れこんだ。
ガチで言い忘れていたが、悠は与えられた報酬で家を買っていたらしい。
俺を含め、シャルロットとエリーゼも今日、悠に招待され遊びに来ていた。
そしてその結果が前回の惨状である。
ちょうどシャルロット達は祝いの品をと買い物に出ていたので、後で私から事の顛末を聞き、そのまま星座ルートである。
それだけなら良かったのだが…この様だ。
「はっ、何が『自分らしく』だ…何も変えられてねぇじゃねぇかクソがっ…」
もう性分なのだろう。いくら「自分を変えて見せる」と声高々に決意しても、実際に変えるのは数段難しい。
『言うは易し、行うは難し』だ。
…つまるところ、俺は変化することも、変化を受け入れることもできなかった。
前世、何度も時間が止まってしまえばいいと思ったか、両手足の指じゃ足りないだろう。
「…『普通』の人なら、もっとうまくやるんだろうか」
違う。これが『普通』だ。これ以上に不幸な人間は山ほどいるし、それに比べれば自分の悩みなんて『その程度』で片づけられてしまうようなものだ。
「はぁ…寝るか」
自分でも、どうでもいいことで悩んでいるのはわかっている。
落ち着くためにも、ブランケットに包まり、俺は一度寝ることにした。
起きれば、またいつも通りだろう。
時が過ぎれば、悩んできたすべてを“まぁいいか”で収めることができるのだから。
* * *
目が覚めた頃には、日が完全に落ちており、夜空に月が輝いている。
軽く伸びをすれば、先ほどまで自己嫌悪に陥るほど悩んでいたのが嘘のように気分がスッキリする。
──これで、いつも通りだ。
悠とシャルロットは寝ているが、エリーゼの気配がない。
大方泊まるわけにもいかず、王城に帰ったのだろう。
エリーゼの残念そうな顔が目に浮かぶ。
「さて、これからどうしたもんか」
悠は寝ているから、剣術のデータを取ることはできないし、こんな夜中に目が覚めても特にやることがない。
二度寝するにしても完全に目が覚めてしまい、どうにも寝付けないため、しばらくすれば眠くなるだろうと外へ出た。
王都と言うだけあって、ポツポツと明かりはついており、夜だろうと道を照らしている。
まぁこんなものがあったところで、女が一人で出歩けば人攫いや盗賊なんかに襲われるに違いない。
いっそ暗い方が安全なくらいだ。
とはいえ、そんな面倒なことになるのも御免だ。
街から一旦出て、森の方へ行ってみるか。




