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第十話 非常につまらない冒険

えらく長くなっちゃった…

 

 王の執務室、とてつもなく厳重な魔法が施された部屋へと俺達は案内された。


「突然呼び立てて申し訳ない。できることは今日中に済ませておきたくてな」

「いえ、大丈夫です。話ってなんですか?」


 ここからは基本聞いたことある情報だから要約しよう。


 前に聞いていた通り、俺達は魔王討伐という名目で魔王との条約を結びに行くという事、その際、一切の戦闘を避けることだ。




「…以上だ。なにか質問はあるか?」

「大丈夫です。…言われた通りにすればいいんですね?」

「ああ、ユウ殿に迷惑をかけることになってすまない」

「気にしないでください。そういう事は俺苦手ですから」


 そうして、俺達は執務室を後にした。


 だがその三日後、魔王討伐出撃当日に勇者ユウが投獄された。



 *   *   *



 side カルナ


「勇者が、投獄…?どうして?」


 街中に記事がばら撒かれ、その一番上にでかでかと書かれていたのは、勇者投獄の文字。

 罪状は、──『暴行』と『強姦』。


 何かがおかしい。

 かつて勇者パーティでもあったカルナがそう思わないわけが無い。

 彼女はすぐさま王城へと駆け出した。




 バンッ!と扉を開け放ち、カルナを王都へと呼んだあの男、アルフレト・メディオンスに詰め寄る。


「どういうこと?勇者が投獄ですって!?」

「君も、あの記事を見たのか」

「ええそうよ。一体何があったって言うの!?」

「まずは落ち着きたまえ」

「落ち着いていられるもんですか!一番大事な時に限ってこんな「カルナ」…っ」


 アルフレトに諌められ、少し呼吸を整える。

 彼の言う通り冷静にならなければ、話もできないからだ。


「…実の所、私も詳しくは聞いていない。だが聞くところによれば、『勇者が力を濫用し、パーティメンバーに暴行、強姦した』と」

「ありえない。遠目に見たけど、少なくともそんな粗暴な人間には見えなかったわ」

「だが実際に事は起こっているんだ。目撃者も居る」


 どうにも信じられなかった。一見優しそうで、そんな荒事には無関係そうなあの勇者が。

 まさかあれは全て演技だったというのか。他者に気取られないように。


「確証は持てないが、被害者は………」

「…?どうしたの?……っ!?まさか」

「…そうだ。君の弟子、アルミナだと思っている。…あっ、おい!」


 それを聞いた瞬間、カルナは部屋を飛び出した。


 魔力掌握、魔力探知、持っている全ての技術を用いてアルミナの元へと駆けた。




「アルミナッ!」


 反応があった部屋の扉を開け、中にいるはずのアルミナへと呼び掛ける。


「カルナさん…?どうして」

「アルミナ!!」


 カルナはその姿を見つけると同時に抱きついた。


「ぅわっ、どうしたん、です?」


 ハッと気が付き、向き合うように座り直した。


「ごめんなさい、気が動転しちゃってて…」

「もしかして、見たんですか…?」

「ええ……っ!」


 改めてその表情を見れば、何があったのかは容易に想像できる。

 その時彼女は、あれが嘘ではないと実感してしまった。

 だが、それと同時に違和感を抱く。


 ───どうして、彼女は抵抗しなかったのか、と。


 自分がいきなり攻撃を仕掛けた時も、アルミナにとってはほぼ不意打ちだったにも関わらず避けた。

 今まで平和な世界で暮らしていた人間にはありえない位の危機管理能力と判断力、そして運動センス。

 それに加え、まるで考えを見透かしているような読心能力。

 そして、彼女自身でさえ気付いていない得体の知れないナニカ。


『異常そのもの』のような彼女が、ただ能力を貰っただけの一般人に良いようにされる事があるのだろうか。


 そう思った途端に、今目の前にいる『彼女』が、違う『誰か』に見えた。


「…誰?」

「えっ?」

「魔力も、身体も、受け答えもアルミナそのもの。でもお前は、何か違う」

「…はぁぁ」


『誰か』は大きく息を吐くと、先程までの哀愁さが嘘のように消え去った。


「やっぱりカルナさんには敵わないや」

「何が目的なの?」

「それを言う義理はないかなぁ」


 カルナは考える。

 コイツが何者なのか。目的は?どうやって入れ替わった?

 そうしている内に、ある結論にたどり着いた。


「まさか…魔族?」

「そんなの初めて会った時に知ってるでしょぉ?」

「やめなさい。あの娘の話はしないで」

「私ったらすごい気に入ってもらえてるんだね」

「やめろって言ってるの!」


 我慢の限界に達したカルナは魔法を放とうとし、──消失した。


「なっ…『解魔(ディフェルド)』!?」

「こんなとこで魔法なんて、危ないなぁ」

「…まさか、今回の事件の首謀者はお前なの?」

「へぇ?どうしてそう思ったのかな?」


 その問いに、ニヤニヤとした笑みを一層深める『誰か』。


「あの娘をどうにかできる存在なんて、相当限られている。ただの一般人がちょっと能力を得たからって、どうにかできる存在じゃないわ」

「か、買い被りすぎじゃないかなぁ」

「…なんでお前が照れるのよ」

「…んん゛っ、じ、じゃあなんだって言うのかな?」


 露骨に話を戻した『誰か』をさらに不審に思いながら答える。

 ────『魔王』だ、と。


「ま、魔王?」

「違うかしら?当日に勇者を操り問題を起こさせ、一番戦力の大きい者を潰す。理にかなっていると思うけど」

「ふぅん…確かにそうとも考えられるね。けど、ここに居るはずの『私』が居ないのなら、何処にいるって言うの?」

「それは…」


 咄嗟に答えられなかった。確かに、精神的にダメージを負わせるだけなら、わざわざ入れ替わる必要は無い。


「答えられない?なら、答えは別にあるということだよ」

「チッ…一々癇に障る奴ね」

「褒めても何も出ないよ?」

「褒めてないわよ!!」

「でもそうだなぁ、このままじゃ大事になりそうだし…」


 彼女は身構え、いつ攻撃が来ても対応できるように魔法を展開し始める。

 しかし、その時が来ることは無かった。


「答え合わせしようか♪」

「…は?」



 突如空気を変えられ、言われるがまま座らされたカルナ。


「じゃあまず、私が魔王だという答えに関してだけど…残念!不正解です!」

「は、はぁ…」

「さっきから言ってるけど、私はアルミナ本人だよ。まぁ体は違うんだけど」

「えっ?」



 *   *   *



 side アルミナ


 さて、まず状況を説明しよう。


 Q1,本物のアルミナは今何処に居る?

 A,勇者と共に、既に王都を出立し、森の中で姿を隠しながら移動しています。


 ちなみに、エリーゼもシャルロットもちゃんと居る。


 王様から話を受けている所まで遡ると、実はこの時、また別の話も受けていた。


 勇者出立に伴い、それを魔族側に気取られないようにするため勇者を投獄する、という物。つまり、今回の事件だ。

 ちなみに、この作戦を知っているのは国王と俺達パーティだけ。

 万が一勘づかれる可能性のあるカルナは、特例で気づかれた場合のみ話していいことになった。


 この作戦が立案された理由は、魔族との戦闘を確実に避けるため、魔王城の守りを手薄にする必要があるからだ。

 魔族は力こそ全てという種族であるがゆえに、勇者殺害という手柄を得ようと、ひっきりなしに襲ってくるだろう。

 また、確実に来るであろう魔王城近辺で待ち伏せていることもある。


 王都には攻めてこないのかって?

 王都には賢者カルナも居るし、精鋭の騎士団も居る。

 たった四人のパーティを潰すよりよほど手間だ。

 攻めてきたところで撃退、討伐されるのがオチだ。




 Q2,今カルナと話しているのは?

 A,俺が作った人形(ゴーレム)です。


 本来ゴーレムは土から作られるものが主流だが、様々な属性を組み合わせると、人間そっくりな人形(ゴーレム)の出来上がり。


 俺以外にも、勇者パーティ全員の身代わりが王都に残っている。

 思考や行動パターンは、当人らの記憶や知識に基づいて動いているため、カルナのような大ベテランじゃない限り怪しまれる心配はない。

 …正直カルナにも気付かれないだろうという自信はあったんだけどな…


 あ、事件自体も人形(ゴーレム)に起こさせた。

 だから今捕まっているのも人形(ゴーレム)だ。


 見かけだけじゃなくてちゃんとやっているし、人形(ゴーレム)から情報を引き出せば、その瞬間を追体験することも可能だ。絶ッッッッ対にしないけど。


「ねぇ、アルミナ。ホントに大丈夫かな…?」

「うーん、たった今うちの師匠にバレたね」

「え゛っ」

「まぁそれ以外にバレることはないと思うよ?正直自信なくなってきたけど」

「本当にそれ大丈夫なのか…?」


 俺の発言にみんな不安そうだ。なんなら俺も不安だ。

 こんなに早くバレるなんて思ってなかったからな。


 深刻になる前に、早く終わらせなければ。


「魔王城まで転移出来れば楽なんだけどなぁ…」

『できるわよ』

「ぅえあ!?」

「どうした!敵か!?」

「いや、師匠から『念話(スェルク)』が来ただけだよ…『それホントですか?』」


 まさかいきなり来るとは思わなかった。


『ええ。それと、ついさっき貴女から説明受けたから、確認の為に視たのよ』

「『その時にちょうど話を聞いたと…』」

『そういうこと。まったく、変に緊張させないでくれる?本当に魔族が仕掛けてきたのかと思ったじゃない』

「『その演技は私の意思なんだけどそうじゃないというか…』」


 あくまで俺の記憶とか諸々を引き継いでるだけで、俺であっても俺自身ではない。ただ、その状況に置かれたら本物の俺でも全く同じ行動を取るということだ。


『分かってるわよ。とりあえず、魔王城付近まで転移させればいいかしら』

「『あ、お願いしますー。』皆、師匠が魔王城付近まで転移させてくれるって」

「えっ?」

「それはありがたいのだが…迷惑ではないか?」

「別にいいと思うよ?あの人結構親切だし」

「そ、そうか」


 悠よ。そんな露骨に嫌そうな顔をするな。

 これから冒険だと言う時に水を差して申し訳ないが楽しんでいる暇はないんだ。


 すると、足下に大きな魔法陣が浮かび上がり、光が俺達を包み込む。

 そして、視界がグラリと歪み、気づけば見知らぬ土地に立っていた。



 *   *   *



 目の前には大きな城、先程までいた場所は日が高く昇っていたにもかかわらず、ここでは月が昇っており、微かな光だけが辺りを照らす。


「ここからは気を引き締めていこう。私から離れないで」

「「「了解」」」


 俺は魔力隠蔽、偽装、同化と自分とメンバーの魔力を三重に偽装し、転移時の魔力も同様に処理する。


「『光学迷彩』、『飛行(リオラ)』、『大気掌握』、『気配遮断』、『存在希薄』、『自我保持』」


 現状掛けられる最高の魔法を用いて潜入に特化した魔法を使う。

 使う魔法のほとんどがオリジナルだが、四の五の言ってられない。


 俺達は音もなく飛び立ち、魔王城へと侵入した。




「うーん…やりすぎだったかな…?」


 状況を説明すると、魔王の目の前に全員で立っているにも関わらず、全く気づく様子がない。

 なんならこのまま暗殺出来そうだ。


 けど目的はそうじゃない。

 あくまで条約の締結に来ただけだ。


 にしても魔王のくせしてイケメンだなコイツ。腹立つわー。


 俺は全員に合図し、魔法を解いた。


「ふぉおっ!?」


 その瞬間魔王が腑抜けた声を出すのは無理もないだろう。


「き、貴様らっ、いつの間に!?どうやって入った!?」

「ついさっき。そこの窓から」

「何だとぉ!?」


 そりゃそうだ。気付かないように開けたんだもの。


「…まさか貴様ら、勇者か?」

「そうだと言ったら?」

「余を殺しに来たのだな」

「いいや、今回は違うんだ」


 ちょっと遊びに入りそうになった俺を遮って、悠が話し始める。


「戦争を、終わらせて欲しい」

「…なるほどな。つまり、魔族の王である余に停戦を持ちかけに来た、と」

「そうだ」

「断る」

「どうして!?」


 まぁ、ある程度予想はしていた。

 全体的に長寿な魔族だからこそ、今代の魔王は前回の魔王討伐の時代から生存した魔族である可能性が高い。

 つまり、勇者に恨みを持つ者であるということだ。


 だが、それによってこちらも他の人間も殺されている。

 それだけは防がねばならない。


「魔王よ。我らは国の、人類の代表としてここに来ている。どうか受け入れてはくれまいか」

「断ると言っている。今まで散々同胞を殺しておいて、今更和平を結ぼうなどと、そんな都合の良いことがあってたまるか!」


 こいつら長生きしてる割に情緒ガキかよ…


「テメェらがそんな風に意固地になって戦争続けてるから犠牲者が後を立たねぇんでしょうが」

「…なんだと?」

「復讐だのなんだのくだらねぇ理由で戦争続けてるから戦争も終わらねぇ、死ぬやつも減らねぇじゃねぇかって言ってんの」

「あ、アルミナ?」


 なんか引き気味に誰かが俺の名前を呼んでいるがお構い無しだ。


「そもそもさぁ、クソちっせぇことをお互いに過大評価して殴りあって自滅しあってるだけじゃん。ていうか今この時にでも戦争終わらせた方が今後の魔族の為になるってなんで分かんないかな?脳みそ筋肉でできてんの?戦わないと死ぬの?遺恨と存続のどっちが重要かぐらい王様ならまともな判断くらいしろよ」


 そうして俺は最後に息を大きく吸い、一言。


「物事をよく考えもせずに自分の気持ちだけで動くやつが王を名乗ってんじゃねぇよド阿呆」


 あースッキリした。

 とりあえず今溜まってた鬱憤は全部発散できた気がする。

 まさしく、最高に『ハイ!』ってやつだ!


「…貴様とて魔族だろう?何故敵を庇うような真似をするのだ?」

「…庇ってる訳じゃないし、魔族だから思うところもあるってことだよ」

「「「!?」」」


 もうこの際バレてもいいか。なんか都合よく解釈してくれそうだ。


「私の家族を奪った勇者は憎いよ。けど、そんな事になったのは魔族が侵略しようとしたからだった」

「だがそうしなければ、いずれ人間が勇者を使ってこちらに侵略してくるかもしれなかったのだぞ」

「それを早めたのは魔族の侵略が原因なのに変わりないでしょ?」

「…勇者を殺したいとは思わないのか」

「思ったよ。思わないわけがない。成長したら相打ち覚悟で殺しに行った。けど…既にアイツは寿命で死んでいた。

 自分で言うのもなんだけど、仇を失った私はその怒りのやり場をずっと探してた。それで結局行き着いたのはこの戦争の発端、魔族の侵略だったんだよ」


 急造にしては最もらしい理由なんじゃないだろうか。

 付け加えるなら、この怒りを収めるためにこの戦争を終わらせることを選んだという事だろう。


「文献をよく読めば、勇者も被害者だ。勇者達が暮らしていた世界は戦争とは程遠い生活をしていた者ばかり。そんな人達をいきなり呼び出して、挙句人を殺してください?まともでいられるわけが無い」

「貴様は、それに同情したというのか?」

「いいや?『共感』したんだよ。勇者だって、ある意味家族を奪われてるんだ。そういう決断をしたのは人間かもしれないけど、そういう決断をさせる原因になったのは魔族じゃないかって」

「だから、この戦争を終わらせると?」

「そうだよ」

「ふ…そうか」


 納得したか?これで丸く収まれば、こちらとしては万々歳なんだが。


「いいだろう。だが条件がある」

「…条件?」


 また面倒な…一体何を要求する気だ?


「貴様らの手で余を倒し、魔王になれ」

「どういうこと?」

「言葉の通りだ。貴様が魔王になれば、他の魔族も従うだろう。我ら魔族はそういう種族だ」

「つまり、お前自身は拒否すると?」

「そういう事だ」


 結局戦うことになるのか…

 だが、俺が魔族だと隠してたことを知ったコイツらが協力してくれる望みは薄い…


 そう思っていたが、予想は俺を裏切ってくれた。


「行くぞ、アルミナ」

「シャルロット…?」

「アルミナさんなら本当に終わらせてくれそうですからね」

「エリーゼ…」


 その奥から悠が、気まずそうに歩み寄ってくる。


「俺は勇者だから嫌いかもしれないけど、それでも、今回だけは手伝わせてくれないかな?」

「…相変わらずお人好しだなぁ」

「え?」

「なんでもない。ありがとう」


 まさかこうなるとは思ってなかったが、好都合だ。

 というかこの状況まるで俺が主人公じゃん。普通主人公って勇者だよね?


「覚悟はいいな?行くぞ!」



 *   *   *



「フハハハハハ!!!」


 さすが魔王と言うべきか、想像より強い。

 シャルロットも悠も息が上がり、エリーゼは魔力切れ寸前だ。

 俺も魔法を放つが、『解魔』で消されてしまう。


 そうして次第に追い詰められ、前衛が吹っ飛ばされる。


 即座にエリーゼが回復魔法を掛けるが…


「ま、魔力が…!」

「くっ、!『回復(エレスト)』!!」

「かはっ!…はぁ、はぁ」


 ついにエリーゼの魔力が切れ、俺に回復役が回ってきてしまった。

 だが、シャルロットに意識が向いていた間に、悠が一撃を貰ってしまった。


 ガンッッ!!と壁に激突し、崩れ落ちる。


「『回復(エレスト)』!…?『回復(エレスト)』!…なんで…!?」

「無駄よ!そいつには呪いも付けておいた。回復魔法は効かん」


 俺は即座に攻撃魔法を連射し、距離を保ちつつ悠に駆け寄る。


「ユウッ!!」

「アルミナ…俺は、大丈夫…だから」


 そう言っている間にも、ドクドクと血が流れ、脈が小さくなっていく。

 似ている。あの時に。自分の死んだ瞬間が悠に重なると同時に、自分も知らない景色、記憶がフラッシュバックし




 気がつけば俺は、無惨な姿になった魔王を前に立ち尽くしていた。


 手に違和感を覚え見てみれば、手の甲は真っ赤に染まり、その液体がポタリ、ポタリと地面に雫となって落ちる。


 自分がやったのだろうか。それすら疑問だった。


 ピクリともしていなかった魔王の体の一部、顔の辺りが少しだけ動く。


「ようやく…戻って、きたか…」


 まるで先程まで俺じゃない誰かと戦っていたような言い草だ。


「ちょうど良かった…伝えられぬまま死ぬのかと…ヒヤヒヤ、していたところだ…」


 そんな瀕死の状態で、魔王は俺にある事を伝えた。


「…覚えたな…?…なら、もう、余は役目を、終えた…とどめを刺すがよい…」


 俺は無言のまま、近くに転がっていた悠の聖剣を手に取った。


「は、はは…やはり貴様は…魔族に恨みなど…持っていない…そもそも、被害者ですら、ないだろう…」

「…ああ、そうだ。俺は元々魔族でも、この世界の人間ですらない。勇者と同じ、異世界から来た人間だ」

「ふ…まぁ良い。魔族は力こそ、全て。…貴様に任せてみるのも、悪くは無い……」

「悪いな、悪口言って」

「構わんさ…余とて、分かっていた、事だ」

「…じゃあな」


 そう言って俺は、心臓に剣を突き立てた。



 *   *   *



 遺体となった悠を背負い、王都へと足を進める。


「…ねぇ、二人とも」

「なんだ」「なんでしょう?」

「どうして、私が魔族だと分かって、協力しようって思ったの」

「少なくとも、目的は一緒だったからな」

「私も同意見です」

「もし…あれが嘘だと言ったら?」

「「関係ない(です)」」

「…そっか」


 後々聞いた話、あの記憶がない時間に俺は、魔王を単独で圧倒していたらしい。

 被弾上等の特攻、魔法すらろくに発動せず、強化した拳のみで戦っていた、と。

 その時発していたらしい俺の絶叫は、聞くに堪えなかったそうだ。


 だが、無言で王都へと向かっていた際、それは起こった。


「…ヒュッ」

「「「!?」」」


 遺体となったはずの悠から一瞬、呼吸音がした。

 そして、トク…トク…と微かに鼓動が回復し始める。


 まさか、全員がそう思った。


 しばらく経てば、呼吸も安定し、脈も正常、ただ気を失っているという状態にまで快復した。

 こんな奇跡があって良いのだろうか。


 俺達は、お互いに抱き合って泣き崩れた。


 悠が復活し、気分が回復した俺達は、先程とは打って変わって楽しげに、お喋りでもしながら歩いていた。

 王宮へと帰り着く頃には、全身ボロボロで条約を結ぶのもほぼ失敗したはずなのに、まるで大成功を収めたかのように笑顔だった。


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