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咎人ニ愛ノ手ヲ  作者: 蜂矢ミツ
3/5

二、山茶花


川を離れ、丘を進む。


道らしい道はない。


裸足に草が刺さるのが痛かったので、なめらかな白磁の小道を想像しながら進む。


しばらく進むと、小道が途切れた。


少し先に、四角く、白い建物が見える。


私の他に、誰かがいるのだろう。


眠れぬ咎人が――また一人。




近づいてみれば、それは建物というより、部屋だった。


無機質な白い壁、それにそぐわぬ堅牢なドア。


何者をも、侵入を拒むかのよう。


しかし、見た目の現実感とは裏腹に、手をかざせば、たやすくすり抜けた。


おそらく、複数の人間によるものではなく。


たった一人の想いからなるものだから。




部屋の中には、ビニールで仕切られた無菌室があった。


ビニールで覆われた中に、人がいる。


年若い青年。


白衣を纏い、その胸ポケットに桃色の山茶花を挿している。


腕の中では、幼い少女が、ぐったりと彼にもたれていた。


その顔は青白く、生気を感じられない。




少女は、花を身につけていない。


つまり、彼女は人ではなく。


彼の想いが現れたものであるのだろう。


当人以外にも知覚できるほどの、深い想い。


山茶花。


彼は一体、どのような想いを抱えているのだろうか。




「どうしたのですか」




どのように声をかけるべきか迷った末に、結局行きついたのは、ありきたりな問いかけだった。


山茶花の虚ろな目がわずかに動き、こちらを見やる。




「さあ。どうしたんだろうな、俺は」




答えになっていない返答。


生気のない、落ち窪んだ目。


痩せこけた頬。


折れそうな首。


少女を抱きかかえる腕と、小さな手を包み込むその大きな手だけが、彼を此処に留めているかのよう。


あるいは、縛り付けている、ともいえるかもしれない。




「その子は一体、どうしたというのです」




少し、質問を変える。


自分のことなど、最早どうでもいい。そういう感情が見て取れた。


その腕の中の子のことならば、話してもらえるかもしれない。




「ずっと病気だったんだ。苦しみぬいて死んでしまった」




どうやら目論見どおりのよう。


山茶花はこちらとは目線を合わさず、尚も少女を見つめたまま、滔々と語り始めた。




「妹は、生まれたときから患っていた。


 奇病。


 あらゆる手を尽くしたが、原因はついぞ分からなかった。


 最期には、ほとんどの内臓が爛れ落ち、全身の骨が溶けてしまった」




凹凸のない、むくみ腫れあがった顔。


せめて、安らかに微笑んでいる表情であれば、山茶花もここまで苦しまずに済んだだろうか。


此処では、想像したままのものが写し現れる。


おそらく、彼の頭にこびりついているのだろう。


少女の壮絶な病を物語る、その死に顔が。




「どうすればよかったのだろう。


 国内、海外、病院を駆けずり回り、あらゆる医者を訪ねた。


 自らも医療を学んだ。


 治療に必要な金はどんなことでもやってかき集めた。


 あくどいことにも手を染めた。


 けれども、少しもよくならなかった。


 なす術がなかった。


 助からないのなら、せめて苦しまないように。


 ……それすら、叶わなかった」



  

「そうまでして、何故。


 未だに悔み続けているというのですか。


 そこまでやったのならば、いいではないですか。


 仕方なかったのです。


 できる限りのことをやったのです、貴方は」




こちらの言葉など、意にも介さないというように。


山茶花は、自嘲気味に哂う。




「だから何だというんだ。


 妹は助からなかった。


 何故あんなに苦しまなければならかった。


 もっと何かできなかったのか。


 どうしたって、納得なぞできやしない」




私には、分からない。理解できない。


だって、どうしようもないではないか。


仕方なかったのだと。できる限りやったのだと。


そう気持ちに整理をつける以外、どうすればいい。


過ぎてしまったことを、ひたすら悔やみ続けるなど。


そんなのは――悲しすぎるだけではないか。




「何が、貴方をそこまで悔やませるというのです。


 そこまでする価値が、その少女にありますか。


 話を聞くに、彼女が貴方に与えたものなどほとんどないのでしょう。


 あるとして、幼き頃を、共に過ごしたささやかな思い出くらいでしょうに。


 どうして」




「さあ。


 ただ、昔、笑っていた顔がとても愛らしかった。


 もう一度、苦しまずに笑った顔が見たかった。


 ……それだけだった」




山茶花は、その手で、愛おしそうに少女のむくんだ頬を撫でる。




「なあ、俺は、どうすればよかった?」




私は、それ以上何も言うことができず。


黙したまま、後ずさるようにその病室を離れ。


得も言われぬ混乱を覚えたこの頭を、掻きむしりながら。


まるで彼から逃げるように、その場を後にした。


       

Next>ガーベラ




以下、おまけ


前回同様、作品の雰囲気を大事にしたい方は見ないでください。


(さらにぶち壊しです)




かまわんよ、という方はスクロール↓



















































































































































































































台無しなおまけ2

---


「そこのおにーさん、ないてんのか。ペロペロすんぞ」


「おん」


なぜかえらそうな女の子とえらそうな犬が現れた!


「なんかおやつくれたら、あそんであげてもいいよ」


「わふ」


ひたすらえらそうである。


よくよく見れば、女の子は妹そっくりの顔をしている!


「!?!?!?!?!?!?」


山茶花は、激しく混乱している!


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