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咎人ニ愛ノ手ヲ  作者: 蜂矢ミツ
2/5

一、彼岸花とシロツメクサ

どれだけ歩いたことだろう。


どこまで行っても、ずっと景色は変わらない。




けれども、人がいた。


私と同じ、眠れぬ咎人。


よくよく見れば、まだ幼い子どもじゃないか。


その小さな胸に、一体、どんな想いを抱いているのだろうか。




興味をそそられ、近づく。


白い着物を着て、燃えるように赤い彼岸花をその帯に挿し、背負っている女の子。


傍らには、青い首輪にクローバーを巻き付けた、白い犬が寄り添っている。





少女は、静かに小石を積み上げている。


大分できあがったところで、傍らにいた犬が、その前足を突き出して、塔を壊した。




賽の河原、というものか。


彼女は、父母より先に死んだことを、悔いているのだろうか。





尋ねてみたい。


彼女の想いを。





そう考え、彼女の元へ歩みを進める。


驚かせないよう、震える声を整えながら、声をかけた。




「こんにちは。何をしているの?」


「石をつんでるの。おかあさんがむかえにくるまで、


 つみつづけないといけない、ってへんなおじさんがいってたよ」




少女にそれを告げた男は、見当たらない。


それは、現世でまことしやかに囁かれるだけの妄想だ。


此処に、そんな規則はあるはずもなく。





彼女はいつから、そうしているのだろう。


告げたものは悪意などなく。


ただ、昔聞きかじったことを伝えただけなのかもしれないが。


何と無責任で、惨いことか。




「でも、もうやめる。あきちゃった


 かんがえごとするのに、ちょうどよかっただけ


 むかえになんか、こないよ


 だって、わたしをころしたの、おかあさんだもん」




まるで、何でもないことのように言うものだ。


彼女は無邪気に笑いながら、積み上げた石を蹴り飛ばし。


そのまま、傍らに座る犬にじゃれついた。




「おねえさんは、どこかいくの?


 おひまなら、おはなししようよ」



「ええ、ぜひ。ヒガンバナちゃん」



「それ、いや。かわいくない


 リコってよんで。こっちはシロだよ」




花の別の名。


リコリスに、シロツメクサか。


たしかに、彼らにはその方が似合いだ。


まるで新たな名であるかのよう。


これらの花の趣旨の忘れていやしないか。





子どもゆえ、ゆるされるような無垢。


微笑ましく、少しばかり羨ましく思えるものだ。




リコの隣に腰を下ろし、視線を合わせる。


そうして、この場にそぐわないような、他愛のない話をした。


リコはそれはもう一生懸命、身振り手振りをつけながら、シロのことばかり話す。


シロは彼女の背に寄り添いながら、時々その背中を鼻先でくすぐり、相槌のように鳴く。


その声は、どこか誇らしげに聞こえた。




彼らのそのしぐさに、微笑みに。


この身を焼くような、懐かしさを覚えた。




そう、私にもかつて、こんな幼少期があったのだ。


大事な、どこまでもあたたかな記憶。


故郷の思い出。


今はもう、霞がかったように、遠い。











気づけば、随分長いことそうしていた。


リコの話題は変わらない。


よくも話が尽きぬものだと、感心する。


だが、私が本当に聞きたい話は、それではない。





私が知りたいのは、彼女の幼いその胸を、


咎め苛む、彼女の想い。




「リコちゃんのお母さんは、どんな人だったの?」




それまで明るかった表情が、曇る。


というより、ふてくされた顔になった。




「かってな人。いうことコロコロかわってた


 シロのこと、ちゃんとめんどうみるなら、かっていいっていったのに


 わたし、ちゃんとしていたよ?


 おせわとおさんぽ、しゅくだい、お皿あらい、夕ごはんのおてつだい


 でも、もっとはやくかえれ、ここまちがえてる、もっとてつだえ


 いつもいつも、そういってぷりぷりしてた」




「そうしてしばらくしたら、シロすててこい、っていいだした


 わたしはもちろんいやだといって、シロといっしょににげだした


 でも、どこにも、行くところなんてなくて


 おなかがすいて、けっきょくおうちにかえったの


 そしたらおかあさんが、フライパンを、あつあつにしてまっていて


 それでシロを、なぐろうとした」




「もちろんそんなのだめだから


 わたしはとっさにとびだして


 あたまがわれて、しんじゃった


 そのあとシロも、とびかかって


 ぼこぼこにされて、しんじゃった


 それでおしまい」




一息に話し終えると、リコはシロの背中に顔をうずめて、小さく呟いた。




「まもれなかったの」




小さな胸の、大きな後悔。


シロも同じ想いなのだろう。


神妙な面持ちで、リコの肩に顔を乗せ、じっと動かずにいる。




しばらくそうしていたが、リコはやがてゆっくりと顔を上げ、


小さく笑って、言った。




「だからね、こんど生まれたら


 大きくなるの。どんなものでもまもれるように。


 どんなものにもまけないように」




シロもそれに応えるように、声高く吠えた。




「シロといっしょなら、だいじょうぶ。


 どこへだって、いけるんだから」




リコはそう言って、立ち上がり、着物についた砂を払った。


私に向けてにっこり微笑むと、あっさりと別れを告げて、シロと共に駆け出した。


あっという間の出来事だった。




気づけばもう、遠く。


一度だけ、立ち止まって手を振り。


そのまま見えないところまで、一目散に行ってしまった。






私は、ぼんやりと立ち尽くしたまま。


彼女と私の違いは、分かれ目は何だったのか。


そんなことを、いつまでも考えていた。

Next>山茶花


以下、おまけ

作品の雰囲気を大事にしたい方は見ないでください。

(わりとぶち壊しです)


かまわんよ、という方はスクロール↓









































































































台無しなおまけ1


---

「シロ、ごくそつやくねー。小石つみあがったら、くずすんだよ?」


「おん」


「あまい、あまいよシロ。もっとこう、ぐわっとくずすんだよ」


「おん?」


「そんなおそるおそるじゃダメ。がんばってつみ上げてるところに


 ようしゃなく手をつきだすの! どぎもをぬくの!」


「お、おん!」


「いまのはなかなかよい。でもまだまだだ」


「……きゅーん」


---

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