後宮にて
「―――くる!」
「何がですか?」
「だめ、くるわ!」
「リク、城下町の人も城の人も、全ての人に魔法士たちを通して屋外から出るように命令して!大きな地震がくるわ!死者がたくさんでる!結界を魔法士たちにはらせて!何重にも慎重に!」
その時、皆言葉を失った。
あたしの身体は金色に輝き、翼はなかったが、瞳も髪の色も金色に変わっていたらしい。
「魔法士を集めて、風の精霊を飛ばして城下町の人々に情報を伝えろ!」
迅速に動くリク。
あたしの言葉を、全て理解してくれたみたい。
だって、その時のあたしは確かに金色の天使そのものに見えたから。
「風の精霊よ飛べ!人々に伝えろ!」
サレイが、たくさんの風の精霊を、魔法士たちに、そして城にいる者に、城下町にいるたくさんの人々に情報をもって飛ばしていく。
その数や圧倒的なもの。
風の上位精霊ジルフェを従えて、サレイは身を宙高く飛ばす。
「アーラ・セイ・ルーグエ。大地の加護よきたりまし。このシャナを救うために我が声聞き届け、大地の精霊神より力、欲するはサレイ・リア・ユーベルクの名において!神よ息吹吹き飛ばし守りの盾となれ!
アースレイン・ゴッドブレスシールド!(大地母神息吹結界)」
きいいいいいいん。
凄い耳鳴りの音が、サイカ王国中に響いた。
サレイが放ったのは、禁呪である、神の力をもたらす魔法の一つ。サレイだからこそ、使いこなせたのだろう。
たくさんの魔法士が、名もなき風の精霊を飛ばして人々を誘導し、サレイと同じように、いやもっと下位の呪文であるが、守りの魔法を大地に唱える。
それは、突然やってきた。
グラリ。
地面が傾ぐ。
凄まじい揺れだった。次々に、城下町の古い家屋などが倒壊していく音が地鳴りのように響く。城は一番結界を何十にもしてはったが、それでもその作りのわりに壁に大きな皹が入ったり、落盤したり。
1分ほどだっただろうか。
あたしはリンドウに抱きしめられて、震えていた。金の光なんてとっくの昔に消えてしまっていて。
マグニチュード8.0の大地震が、その日サイカ王国だけでなく近隣諸国を飲み込んだ。
魔法士たちは、次にくる津波にそなえて、海の方角に結界をはる。そのお陰で津波、地震を合わせての死者は5千人以下。
それでも多い。
隣国では数万人が死去したという。
サイカ大震災。
そう名づけられた大地震から、半年。
あたしはこのシャナにきて、一年が過ぎようとしていた。
地震の直下国であったシャナの被害が最小で済んだのは全部あたしのお陰だってリクがいってた。
でも、あたしはただ、耳に届いた声を鸚鵡返しで呟いたようなもの。
(大きな、大きな地震がくるよ。魔法士に結界をはらせないと死者が何十万人にもなるよ。さぁ、早く伝えなさい。愛しいあなたの国の民たちに)
そう、耳にはっきりと言葉が聞こえた。
そうだ――。
あの時。
サレイを汚した男達を殺そうと思ったとき、耳に届いたのと同じ声だった。
あのときは、人を殺そうと思ってはいけないとあたしに囁いた。
なんなんだろうか。
確実に、あたしを中心にシャナの世界は色濃く、その歴史を刻みそして変わっていく。
あたしが存在する限り。
あたしが金色の天使だ―― 一時はそんな噂が飛び交ったけど、本当に金色の天使なら、あたし自身がこの国の震災を止めただろうし、ずっと金色の色を纏っているはずで。
結局、あたしは金の天使の羽化の前兆ではないかと、そんな結論に到達した。




