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サレイとの生活が始まる。


あたしを認識して、なんとか名前を呼んでくれるようになった。中庭で散歩していたら、いつものアヴェ・マリアの歌を歌ってから、サレイは泣きだした。


あたしの腕の中で、震えて、泣いていた。

無垢すぎる涙。何かに怯えているかのように、碧眼は伏せられて、そして時折きょろきょろとあたりを見回していた。


「あーーー!!!」


サレイが奇声を発した。それから、長い自分の金髪をかきむしり、次に整えられた長い爪を齧りだす。


「やめな、サレイ、サレイ!医者呼んでくれ、早く!」


一緒に散歩していたリンドウが、サレイの肩を揺さぶった。


リンドウが一番信頼を置いている部下に、医者を呼びにいかせた。


本当は魔法士を呼んで眠りの魔法をかけて欲しかったが、しかしサレイのこんな姿を見せるわけにはいかなかった。


「いやああぁぁぁぁ!!!いやだ、いやだ、レン、レン!!」


サレイは、金髪をかきむしりながら、もう傍にいないレンの名前を呼び続けた。


「助けて、助けて、なんでもするから、助けて……いやだ、助け……」


ひくっと、サレイの呼吸が止まった。


「ちょお、やばいっって!サレイ、もうすぐで医者くるからしっかりし!呼吸せいや!」


やがて、過呼吸をおこして、手足が痙攣しだして、呼吸困難に陥った。


「サレイ!」


騒ぎに駆けつけた、リクの目にも涙が浮かんでいる。


「こっちです!」


医師がやっとやってきて、サレイの状況を見て息を呑み、それからすぐにサレイの腕に鎮静剤を打った。


サレイは呼吸をなんとか元に戻して、それからリンドウにしがみ付いて離れない。


「レンは、レンは?」


「レンはな、出かけとるん。今度帰ってくるからな」


レンとサレイの間にあった愛は、友人とそして家族の愛だ。

普通の恋愛感情ではない。


サレイの恐怖を拭い取って、優しさで包み込んでくれたレンに、自分を捨てた父や母を何処かで重ねたのだろうか、サレイは。


あたしは悲しすぎて、逃げだそうとしたけど、リンドウに止められた。


「逃げたあかん!これは、俺らが受け止めないかん現実なんや!」


「でも、あたし……」


「逃げてどないすんのや!サレイが変わるわけでもあらへん!」


「そうだね――」


涙をふき取って、あたしは前を向いて歩く。

サレイとの絆を、みんなで取り戻すために。


「リンドウ、私が運ぶ」


「そうか。そうしてやってくれ」


軽すぎるサレイの身を受け取って、リクは歩き出す。


「陛下、もうやだよ、私、もうやだよ。陛下、陛下……」


舌ったらずの口調で、甘えるようにリクにしがみついて、サレイは完全に意識を失った。


サレイは、その日、高熱をだしてしまった。


リクとリンドウは、かわりがわりにサレイの看病をする。

リクが、家臣をここまで甲斐甲斐しく面倒を見るのは珍しいと、他の家臣たちは言うけれど、三人は友人なのだ。


友人の身を案じて何が悪いのか。


王宮筆頭の医師が何人もサレイにつけられた。


煎じた薬を、リンドウは口移しで与え、水分も同じように与えた。


あたしも、途中で交代する。


点滴の管が、細すぎる腕に刺される。


あたしも、ずっとサレイの側にいて、その細すぎる手首を撫でて、それから手を握った。


なんて白い肌。シルクのような手触りの肌なのだろうか。


なんて悲しいんだろう、サレイ。

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