壊れた絆
きっぱりとした否定に、皆色めき立つ。リクなど、頭に血が上ったのか、また抜刀していた。
「サレイを渡さないつもりか!自分だけのものにするつもりか」
「リク陛下、僕はそんな人間ではありませんよ。断ると言ったのは、僕がサイカ王宮でサレイと過ごすこと。僕は、一人でここに残ります。元々、一人でした。サレイ、元気でね」
「嫌、嫌、いやああああ!!!」
リクに抱き上げられて暴れるサレイ。
「どうして!一緒にいてくれるって約束した!守ってくれるって!どうして!捨てるの!?私を、捨てるの!?父や母のように―――」
それ以上聞いていられなくて、リクは、念のため連れてきた医師に、サレイに無理やり鎮痛剤を打たせた。
「いやあああ!帰りたくない、いやあああ、レンと、レンといたいのに!どうして!!」
泣き叫び、暴れるその身体を、リクは何も言わず抱きしめ続け、涙を零した。
リンドウも、あたしも、泣き続けた。
一度、壊れてしまった絆を修復するには、どうすればいいのだろうか。
「レン…愛してるの」
「僕も愛していたよ。短かかったけど、思い出をありがとう」
サレイは、鎮痛剤の効果で、眠りに入っていく。
大分軽くなったその身体。元々華奢だったのに、さらに肉を落とした。
サレイ――。
何をすれば、我々は許されるのだろうか。
何をすれば、あの明るく笑い転げて、薔薇を背負って、美しいと自分を自慢する、ちょっとおばかなサレイは戻ってきてくれるのだろうか。
「どうすんねん、リク」
「仕方ないだろう。魔法士の誰かに頼んで、記憶を消去させる」
「でも、そんな非人道的なこと」
「このまま、サレイが壊れていくのを黙って見ていられるのか、お前は!?」
「無理や」
沈黙。
忌まわしい記憶が消せるなら、消してあげたほうがいいと、あたしは思った。
「消してあげて。あたしが、サレイの面倒見るから。一ヶ月間の記憶を、全部。でも、レンのことは残してあげて。本当に愛していたの、サレイは」
騎士団が去っていくのを、レンは館の自室から、見つめて涙を零した。
「サレイ――」
できることなら、自分だけを見て、そしてずっと自分だけに笑って欲しかった。
でも、彼は魔法士で、リク陛下を支える大切な友人だと聞く。
サレイにはサレイの人生があるのだ。
「さよなら、サレイ」
妻の身代わりになど、できるものか。
「さようなら。ありがとう」
あたしは、窓からこちらを見下ろしている、多分泣いているだろうレンに、お別れを言って、リンドウの前に、馬に跨ると王宮に帰還することになった。
誘拐されて1ヶ月が経っていた。
秋も深まってきた。
サレイが受けた傷は、サレイを苦しめ続けるだろう。
王宮に帰り、魔法士たちにかけあったが、記憶を完全に消去する魔法は存在しないとの回答。
落胆する全員。
「これから、築いていこう。サレイとの絆を。また、絶対に思い出してくれるから」
「そやな」
「ああ」




