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「レン、レン!」
サレイは、レンに人懐っこく懐いて、微笑を絶やさない。あたしには、まだなついてくれないし、あたしの名前を呼んでもくれない。
レンは、サレイに出迎えられ、日々をすごせるのが余程嬉しいのか、とても幸せそうだった。
無理に、サレイにドレスを着せるのは止めて、サレイが自分で選んだ、彼がよく好きな中性的な、少し肩とかそんなとこが露出したり、胸までスリットが入っている服だとか、そんなのを買い与えた。
いつもの、私服のサレイが戻ってきた。
女かと見紛う程に美しく、でも身体のラインは男性とも女性ともつかないもので、中性といったほうが余程しっくりくる。
レンも、そんな服装のサレイを気にいって、あたしを置いて二人でよく外食に出かけた。
あたしがつけた条件は1つ。
2週間だけ。
2週間だけ、サレイを自由に、大切に扱ってくれるなら、サレイを隣に連れて歩くことを許すと。
それは、あたしなりの譲歩だった。愚かかもしれないけれど。
このまま、永遠にサレイを取り上げられるのが、怖かったんだ。
失って、気づくんだね。
あたし、サレイのこと好きだった。そう、恋愛感情で。あたし、リンドウのことが好きだって思ってた。
ずっと、そう思ってた。
サレイのことも好きだったんだ。
リクのことも好きだけど、恋愛感情はもっていない。
あの阿呆に、恋愛感情を抱ける兵がいたらあってみてぇ!
「へっくしょい」
その頃、王宮では四方八方手をつくして、サレイとサクラ探索に乗り出していたリクが、くしゃみをしていた。
二人がいなくなって、もう半月だ。
いくらなんでも、もう見つからないのかと、絶望的な考えさえ浮かぶ。
もしも、他国に連れ去られたのなら――。
世界は広い。
魔法士に、サレイを水盤で探させているが、サレイの気が乱れていて見つからないとの報告ばかり。
サクラも同じだ。
気が乱れて見つからない程に、感情的になる立場におかれているのだ。
そんなリクのところに、朗報が届いた。
コンスウの町で開かれた奴隷バザールで、サレイとサクラらしき姿を見たという情報が飛び込んできたのだ。
早速、王命でバサールに立ち入り探索し、二人を買い上げた貴族レン・ファウ・ラザーという男をつきとめた。
コンスウの町からそう遠くない、同じサイカ王国のレアヤという町に、レンは住んでいるようだった。
リクは執務も切り上げて、騎士団を纏めて、リンドウと共に王都を出発した。
騎士団は総勢200名。
全員、近衛騎士。精鋭のさらに上をいく、厳選された騎士たち。
皆、腕はリクをこすし、リンドウに迫る勢いの猛者ばかり。
王都から、レアヤの町までは、急いで一週間はかかる。
その間にも、サレイとサクラがどんな目にあっているのかと思うと、リクもリンドウも食事を満足にとれない有様で。
兵の指揮も下がっている。
幸いにも、レンという貴族は、好色な男ではなく、人柄はよいと聞いたのが救いだ。
処女を、失っていなければいいが。
無理やり手篭めにされていなければいいが。暴力を振るわれていなければいいが。二人の脳裏を霞めるのは、同じようなことばかりだった。
「レン」
レンに抱きついて、その細い肢体を寄りかからせるサレイの姿を見るのにも、もう慣れた。
もうすぐ約束の2週間。
自由にしてくれるはずの、日まであと残り僅か。
そして、いよいよその日がやってきた。
あたしは、ガッツポーズをとった。幸運だったというしかない。もしも、好色なおっさんに引き取られていれば、サレイはもっと壊れていくし、あたしも危なかった。
「サレイ、帰りましょう」
「嫌。レンといるの。嫌。私は、王宮になんて、帰りたく、ないの」
舌ったらずな口調で、途切れ途切れに、拒否を口にするサレイ。
あたしは涙を零すしかない。
「そんなこと言わないで。帰ろう?リクもリンドウも、みんな待ってるよ?リリエルだって――」
「嫌!」
レンの後ろに隠れて、震えてサレイは泣き出した。
「どうして?」
「リクもリンドウも、知らないもの。私が知っているのは、悪魔のライナス陛下だけ。あなたも知らない。レンしか、いらない。私、レンがいい。傍にいたいの」
「そんなこと、言わないで――」




