秋祭り
あたしが、サレイと眠るようになってすでに一ヶ月がすぎた。このシャナの世界にきて、もう早いことで、3ヶ月が過ぎようとしていた。
大分シャナの世界にも馴染んだけど、毎日することもなくごろごろしている日が多い。
大抵図書館に行って、適当な本を借りて読むのだけど。
はじめはリクもリンドウも、サレイとあたしが眠るということに勘違いしてむくれていたけど、事実を知って、サレイを頼むと頭を下げてきた。
本当に、サレイは夜中によく悪夢にうなされているのか、何かを叫んだりすることがあり、そのたびに目が覚めるけど、抱きしめてあげてあたしがいるよって囁いたら、涙を流していたのも止めて、寝息も立てず、夢もみないくらい深く眠るらしい。
まるで、雛鳥に懐かれた親鳥の気分。
サレイは、魔法士の仕事が終わるとちょこちょこあたしの後をついてくる。
あたしはそれが嫌ではない。
サレイと並んで王宮でよく歩く姿に、リクの寵姫はサレイと姦通しているという噂さえ立ったけれど、リクがそれはないと断言してあたしたちを庇ってくれた。
「サクラ、サクラ」
いつものように、魔法士の仕事が終わったサレイがあたしの後ろをついてくる。
「何処行く、サレイ?」
「リンドウのところへ」
なんでも、リンドウのところへ届ける書簡を、魔法士の長から託されたらしい。
あたしは、サレイが歌うアヴェ・マリアの綺麗な歌声に耳を傾けながら、いつもながらに訓練に精の出る、騎士団の団地にやってきた。
王宮には、近衛騎士と精鋭騎士だけ、合計700名が住むことを許されている。
残りの4千名ほどは、城下町に住んでいる。700名が住むという、大きな大きな騎士団の館。幾つか棟が別れている。
そりゃ700名も収容するのだから、まるであたしの世界のマンションみたいな有様だ。
「リンドウ、これを長がお前にと」
上半身裸で、真剣をもって、部下の訓練をしていたリンドウが、こちらに寄ってくる。
そして、内容に目を通して、その場でぐしゃぐしゃにして捨てた。
「ちょ、いいの!?」
「サレイ、お前も嫌なら断れ!」
恫喝されて、サレイが竦み上がる。
「そんな言い方ないでしょ!」
リンドウは少し最近苛苛しているようで。
「サレイは読んでないんか、中身を」
「読んだ」
「だったら尚更断れ!」
「何があったの?」
あたしは丸められた書類を見て、顔を顰めて、それを破って捨てた。
中身はこう。
サレイを愛妾にしたいので、サレイの養父である大臣の許可をとるのに協力してくれと。
「サレイ、リンドウの言ってることは最もだよ。嫌なら、きっぱり断ってそれでもしつこいようならリクに相談しなさい」
「うん」
俯くサレイは、悲しそうだった。
「サレイな。あの長の前の長に拾われたんや。実の親から虐待を受けていたんを、長が見かねて引き取って、育てたんや。親代わりやってん。その息子が次の魔法士の長になってもうた。魔法士の長は、騎士団の団長と違って、王族のように血で受け継いでいくからなぁ」
天を仰ぐリンドウ。
「あの助平ったらしいシャムシールの顔見てると、いつも腹たつん」
「でも、恩人の人の息子だから」
「そんなんどうでもええやん。恩人は恩人、息子は息子やろ!」
サレイの頭をぐしゃりと撫でるリンドウ。本当に、二人は仲がいい。よく喧嘩するらしいけれど。
シャムシール。あたしは、一度その長とやらにきつくお灸でもすえようかと、青い空をみながら呼吸した。
夏も、もう終わりだ。
秋がくる。




