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あたしは、リンドウとしばらくリクの顔にラクガキを続けていたけど、それも飽きたので、リクをパンツ一丁にして、頭にはげのカツラを被せて、玉座に二人掛かりで座らせた。
「うん、ばっちりや」
「あー、カメラあったら撮りたいわ」
「カメラ?なんやそれ?」
「んーとね、あたしの世界にある、写真っていう、絵じゃなくて鏡に映ったような姿を紙みたいのに留めてくれる機械のこと。
それがあったら、たくさんリクのあほな姿を写して、ばら撒けるのにな!」
「へー。そんなんあったらいいなぁ。残念ながら、こっちの世界はけっこう掃除機とかそんなんはあるけど、カメラってのはないわ」
「そういえば、テレビも電話もないねぇ」
「あー、聞いたこともない物体やな」
説明するのもめんどくさいので、とりあえず適当に相槌を打つ。
けっこうリンドウは、あたしの世界に興味あがあるようで、この前ゲームの話をしていたら、いっぱいどんなのか聞かれて、最後は言葉に詰まったくらい。
「サクラの世界に、一度行ってみたいなぁ」
「リンドウお持ち帰りだったらいいよ!」
二人して、白目を剥いて、顔を真っ黒にぬられた上に蛍光ペンでラクガキされ、裸に剥かれたリクのことを忘れて、それぞれの自室に戻るべく談笑して別れた。
「はー、やっぱり一日の終わりはこれよね」
薔薇風呂ではなく、今日は柚子風呂だった。柑橘系の香りが香ばしいというのかなんというのか。
柚子風呂は、リリエルも気に入ったらしくて、シャーライに身体と頭を洗ってもらってから、あたしの隣で湯に浸かった。
「お父様、あのまま放置したの?」
「ううん、裸に剥いて、玉座に座らせといた。ハゲのヅラつきで」
「あっはっは」
ばっしゃばっしゃと、湯を蹴るようにリリエルはきゃらきゃら笑う。
本当に、最初の頃に比べたら、大分打ち解けあった。実の姉妹っていわれても違和感がないくらいだ。
それくらい、リリエルをあたしは可愛がってるし、リリエルもあたしを慕って懐いてくれている。
髪を纏めていたタオルがとれて、あたしの黒髪が、湯の中を泳いでいる。
「ああ、ごめんね」
「かまわないわよ。私だって髪を纏めていないもの」
そういえば、いつもリリエルは長い銀髪を、風呂場で纏めることはない。
「綺麗ね」
「何が?」
「あなたの黒い色よ」
「そう?どこにでもありふれた色だよ?」
「あら、そうなの?あなたの世界、エデンではそうなのかもしれないわね。でも、このシャナの世界では黒は至高なる色とされているのよ?」
「へぇ、そうなんだ」
「黒髪黒目の民が、東の小さな島国にいるんですって。でも数が少ないからこの世界に黒髪や黒目の人間はあまりいないわ。昔は、よく誘拐されて奴隷市場に出されたほどよ」
ぞっとした。
「あ、あたし大丈夫よね?」
「王宮にいる限り大丈夫よ。町に出ても護衛がつくでしょうし。それに、今時は黒く髪を染めることもカラーコンタクトで黒く瞳を偽ることもできるわ」
「なら平気そう」
「でも、本物の黒かどうかすぐにばれるのよ。染料の黒は水で落ちてしまうものしか開発されてないし、カラーコンタクトは黒い部分が大きすぎて、不自然なの」
「へぇ」
柑橘系の匂いが、頭まで昇ってきそうだ。
いかん。
ハァハァハァしだしそうだ。
「きゃあああ、シャーライ!」
リリエルが悲鳴をあげる。湯に映ったリリエルを見ていて、あたしは鼻血を出していつものように湯に沈んで、シャーライに助け出されるのであった。
「サクラー!」
寝ようとパジャマに着替えて、消灯を落とそうとした時だった。
「きゃあ!?」
いきなり扉が開いて、サレイが現れた。
枕をもって、やたらかわいいひつじさんがプリントされたパジャマに、帽子まで被って。
「サレイ?」
「一緒に―――寝てくれるって、言った」
少し床を見てから、上目遣いのその視線に、あたしは鼻血を噴き出した。
ブバッ。
イカン、サレイのこの美貌のこの仕草はもう犯罪だ!
「サクラ!?」
鼻血をなんとかティッシュで拭き取って、あたしは、目を潤ませるサレイにおいでおいでとジェスチャーした。
「いいよ。一緒に寝よ」
「いいのか?でも、私は男で、お前は猛牛」
バキ☆
とりあえず、乙女を愚弄することはサレイでも許さない(笑顔)
華麗なアッパーで一度床に沈んだサレイは、すぐに復活して、よいしょよいしょと、子供のような仕草であたしのベッドにのぼってくる。
こうして直に接しないと分からないけど、サレイって行動が凄く可愛いんだ。
どこか媚態めいた仕草。乙女心だけでなく、きっと男の心さえくすぐるような。
なんかそれを思うと少し悲しくなった。
「羊が1302匹~」
「サレイ、あたしもうむり。寝るよ」
サレイは、本当は同じ部屋のソファーで寝ようと思ってたらしくて、こうして同じ寝台で横になれることを素直に喜んだ。
枕がかわると眠れない体質らしい。
眠れないと羊を数えだしたサレイ。
1匹の次はもう15匹になっていて、どんな足し算なんだとつっこんだが。
「うん。おやすみ……」
完全に枕元の消灯さえ消して、静寂が訪れる。あたしはすぐに眠ったしまった。
ベッドはクィーンサイズで、サレイと寝ても広さは十分にある。
サレイは寝返りを打っていたけど、それでも直に眠ってしまった。
あたしは、夜中にサレイの寝言で目が覚めた。
「嫌……だよ。助けて、リク、リンドウ。私、こんなの、嫌、なの……」
枕もとの照明を微かにつけるが、サレイが完全に眠っていた。子供みたいに丸くなって、何かに怯えるように縮こまって。
白い頬を伝う涙をふきとってあげて、あたしはサレイを起こすことはせずに、その手を無理やり繋げて、また眠った。
サレイは、ぼんやりと見知らぬ天井を見てから、繋がれたままの手に気づく。もう朝だというのに、サクラはよく眠っていた。
また夢をみた。内容はよく覚えていないが悪夢だった。
涙を流した痕跡があったけれど、夢の中でサクラが悪魔から助けてくれた気がした。
サクラを起こしにきた、サクラの侍女のカカオっていう女に、驚かれた。サクラの隣に、王宮でも名前の知れたサレイが寝ていたのだから。




