寵姫たる者
結局、そのままサレイとリンドウの二人は王宮に帰らず、城下町の宿をとった。質素なつくりで、二人相部屋で、サレイはとことん悪態をついていたが。
部屋が他に空いていなかったので仕方ない。
「あー。よく寝た」
リクが起きると、そこは会議室。
顔にはアホとかうんことかいっぱいラクガキがされてあった。
多分でもなく、サレイとリンドウがしたのだろう。
「風呂いってくっかなー」
昨日は、結局会議のまま眠ってしまい、昼からは昨日の会議についての書類を処理する仕事に負われそうだ。
「うっは、すっげーらくがき」
鏡を見て、すれ違う侍女がやたらクスクス笑う理由がそれで分かった。
額には肉って書かれてあるし。
これ書くのは、リンドウの癖だ。
「あの二人、帰ってきたら仕事押し付けてやる」
会議が終わった後は、二人はよく飲みに出かける。たまにそこにリクもお忍びで、入ることもあるが。
性格が折り合わない二人だが、何故か仲はいい。そして飲み潰れて城下町で宿をとって、二日酔いになって昼から出勤するのだ。
性格が折り合わないと、二人が言い張っているだけで、実はけっこう馬が合うんじゃないかとリクは思っている。
「えーと、あなたサレイだっけ?」
「そうとも。美しき魔法士サレイ!この美しさは罪だ!」
あたしが、お風呂に入ろうとしたら、サレイがやってきた。何をしにきたのかと問いたかったが、なんとなく分かった。
背中に花かごをしょって、いろんな色の薔薇を入れている。
この花を、あたしに届けにきたんじゃなくて、見せびらかしにきたんだろう。
そう、自分の美貌といかに合っているかを。
サレイはあたしが見てきた中で一番美人だ。男だというのが信じられないくらい。胸がない絶世の美女に見える。
「ふ。朝一で摘んできた露を含んだ薔薇とそしてこの私!美しいと思わないかね!」
「はぁ。美しいですね」
とりあえず、適当に相槌打っとこう。
バカを相手にはしていられない。
「君は、私を恨んではいないのか?」
「どうして?」
「この世界に、君を連れてきたのはこの私だから」
「うーん。恨んでもなんにもなりそうにないし」
サレイの美貌が、少し柔らかくなった。
「そんな君に、この薔薇を…あげない!」
「くれないんかい!」
爽快に去っていくサレイを見届けてから、あたしは風呂に入る準備をした。
「あー、生き返るわ~。極楽」
あたしは、カカオに勧められて、この世界にきて初めて風呂に入った。
昔は風呂は市井の者には無縁だったそうだが、精霊魔法文化の発展によって、このシャナの世界は著しく、地球の科学文明に似たような発展を遂げている。
電化製品が溢れた王宮。掃除は掃除機でするし、洗濯は洗濯機。ガスコンロもあるし上下水道も整っている。
無論、このお風呂だって湯沸かし器を使っているらしい。電気は雷の精霊が、水は水の精霊が、ガスは土の精霊がおこすらしい。
それぞれの家庭に名もなきほどの下級の精霊が住み着いて働いているそうだ。
王宮ほどの大きさになると、精霊は魔法士が召還した名のある精霊が働くようになる。その精霊に命令を送るのが、魔法士の主な役割だったりする。
あとは、街灯を点すのも魔法士がするそうだ。各町や村にいる魔法士が街灯を点す。
だからかな。昨日見た、晩餐会上の窓から見えた城下町は、とても綺麗だった。
あたしは、適度のお湯に浸かってから、ゴシゴシと石鹸とタオルで身体を洗い、シャンプーで髪を洗った。




