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「あ?」


リンドウが、眉を寄せた。


サレイの美しい顔が歪んでいる。いや、いつでも何か問題を抱えると眉を寄せたりしているが、美しいを心がけるサレイには珍しいことだと思った。


「何人だ」


「3?いや4か。分からないな」


「使えへんなぁ、お前」


「うるさあああい!!」


小声で怒鳴る。サレイの美貌は女を超越したものだ。不届きな輩も結構出てくる。

そんな場合、決まって同じような台詞を吐く。


「お嬢さん、俺らといいことしようぜー」


城下町以外にも、この国にも花街のような場所や普通に娼館があり、娼婦や男娼が春を売っている。

奴隷市場も普通にある。

この国にも奴隷はいる。リクが奴隷解放を会議の議題にしたが、奴隷がいるのは昔からのこと。そうそう、型破りをできるわけでもない。


戦役などでも、兵士として戦ってくれる。貴族などや上流階級の館では、普通に奴隷が召使として存在している。


非人道的に扱われることが多い他国の奴隷から見れば、サイカ王国は天国のような国だろう。奴隷でも給料をもらえるし、奴隷だからと店の入店を拒否されることもない。


サイカ王国はそんな国だ。


「表にでろやぁ」


リンドウが紫の瞳で凄んだ。


サレイはというと、涼しい顔で、その絶世の美貌のまま注文したビールを飲み干した。


それから、リンドウと一緒に立ち上がる。


「揉め事は困りますよ、お客さん!」


店の主人の最もな声に頷く二人は、外に出ると路地に入った。


「ひゃっは、ばかじゃね?一人で俺らにかてるってか?」


ちゃらついた一人の男が笑った。

そいつの仲間から見れば、女にしか見えない私服姿のサレイを精一杯匿っている、威勢のいい兄ちゃん、程度にリンドウは見えるのだろう。


「7人。多くないか?」


「しるかいやそないなこと!」


リンドウは、腰に下げた騎士の証である剣を抜き放つ。いつもはもう一本下げた普通の剣を使うのだが。


「金の一族の聖女はどこだ!」


7人は、皆、首に同じ刺青がされてあった。


サイカ王国に金の一族の聖女が降臨した。近隣諸国はそんな話で、賑わっている。誘拐か、何かの陰謀か?


「宮殿やがな」


「宮殿の何処だ!」


「教えるわけあらへんやろ、ボケ!」


ザッと、真紅が視界を覆う。サレイの視界に広がった真紅は、すぐに地面に血の海を作った。


切り捨てられた仲間の死骸を踏んで、次々と敵が抜刀する。


すでに喉笛をかき切られた一人は、断末魔の悲鳴もあげられず、痙攣を起こして動きを止めた。


「こいつら、やるぞ!」


「そりゃ当たり前やろ。俺を誰やと思ってるんや」


「そうだ、私を誰だと思っている!」


「宮殿仕えの貴族の官吏とその情婦!」


揃った言葉に、リンドウとサレイの顔が青白くなった。


「おええええ。お前と情婦!」


「誰がこんなモサイ埴輪はにわのような男の情婦になるかあああ!!」


サレイは切れた。


「光集まれ光散れ!ライト・ブラウニア・ボルケーノ(光粒子爆発)」


ドオオンと、いい音をたてて、建物が崩れる。それに巻き込まれて、何人かの男が瓦礫に飲み込まれる前に、光に飲まれて四肢を爆発されたようにして倒れた。


「えぐ!やっぱ魔法士の魔法ってえぐいわ!」


「私は手加減なぞしない。お前の情婦呼ばわりされたのだ、これ以上の屈辱があろうか!」


わなわなと、怒りにまだ身を震わせている。


それは、密偵であった。間者ともいうべきか。


海を面した隣国であトゥージャ王国の、密偵だ。

トゥージャでは、密偵の首に刺青をしている。それは奴隷の証でもあった。


普通にナンパを装って、襲撃して情報を得ようとしていたのだろう。だが、声をかけた相手が悪かった。


何せ、このサイカ王国が誇る騎士団の団長たるリンドウと、魔法士団の長の次に偉いサレイが相手では。サレイの腕は魔法士団一である。長は知識が豊富なのと、宮殿遣えが長いことで長のままいるだけで、実際長になっても問題ないのはサレイである。


残っていた二人は、息を呑んだ。

女神のような美女が、妖艶に微笑むのを。リンドウが切り捨てた相手の血を頬に受けて、それを舐めとったサレイ。


「魔女だ!」


「私は美しいが人間だー!」


サレイは、逃げようとした一人に蹴りをいれた。

でも威力が弱くて、相手は躓きもしない。


「相変わらず体力ないやん!」


剣の鞘を、逃げるその背中に投げつけると、敵はもんどりを打って転げた。


「魔法士に体力などいるか!」


むしろなくて結構ですと、もう諦めているサレイ。


「さて、どうしますかね?」


「どないする?」


「リクにはあんまり、問題背負って欲しくないんよ。トゥージャと諍いなんていややしな」


「だがすでに殺してしまったぞ」


「だからやん。嫌やから、最初から殺したんやんか。俺はリンドウ、騎士団団長、こっちはサレイで魔法士や」


今更に自己紹介をする。ニィと、死神のようなリンドウの紫の瞳は残酷だった。


「死体、元が分からんくらい粉々にしてな」


「任せろ」


リンドウは跳躍した。逃げ出す一人の背中を騎士の剣で切り裂く。床に転がったままのもう一人の喉を剣でかき切る。


騎士であるはずの男が、背を向けた敵に刃を向けるのか。背中を切り裂かれた男は、目でそう語っていた。


「だから、な。堅苦しい騎士とか想像するのやめてぇな。騎士魂なんてあらへんわ。敵を倒すためならどんな卑怯な手段にでも出るで、俺は。それで団長までのし上がったんやから」


「ふん」


サレイは面白くなさそうだった。


「火よ玉となり燃え尽きよ。ファイアボール(火球)」


ぼっと、サレイが生み出した火の玉は、次々と死体を燃やしていく。黒焦げになってしまえば、もう身元も分かるまい。念のために、所持していた剣などは没収した。貴金属の類も。全部纏めて、城下町から離れた野原に適当に穴をあけて埋めてしまった。


貴金属に目が眩むような二人ではない。どんなに高価なものでも、敵が身に着けていたものを自分のものにして金に換えようなどとは思わない。


そんな小さなことから、諍いが炙り出されて国と国の問題に発展しかけないからだ。


そもそも、サイカ王国騎士団は略奪を行わないことで有名だ。魔法兵団もだ。


それは、それだけ自国が潤っている証でもあった。

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