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「そなた」


「サクラでいいわ」


「そうか。サクラはエデンから来たのであろう。金の一族ではないのか?」


リクは、リリエルと同じ銀の髪を肩まで伸ばしていて、それがサラリと流れた。


「は?エデンってなんすか?金の一族?」


「エデンとは、あの星のことだ」


リクは立ち上がると、窓辺のカーテンをさっと開けた。月光がさしこんでくるが、シャンデリアの光に相殺されてしまう。


その月のすぐ隣に、蒼く輝くよくあたしが見知ってみる惑星が浮かんでいた。


「地球……異世界なんだ、ほんとに。太陽系の惑星なの、ここ?」


「ここも太陽系の惑星だが?太陽から8番目の惑星、シャナ」


「そんな惑星、私の住んでた地球の太陽系惑星の系列にはないわ!銀河が違うの?」


あたしは戸惑った。

確かにここは異世界。でも、地球が空に浮かんでいるなんてありえない!


「分からぬ。宇宙へ飛び立つほどの科学力も魔法力もない」


「魔法。私の世界では科学で宇宙を飛ぶことができた」


「知っている。伝承では、エデンよりきたる金の一族の子たちの星は科学力優れた世界であったと伝えられているし、このサイカ王国にも470年ほど前に金の一族が降臨した。結局羽化せず、死んでしまったが」


「意味が分からないわ。金の一族って、エデン、つまり私がいた世界から来た人たちの総称?」


「聡いな。その通りだ」


「じゃあ、羽化って何?」


虫のように、羽化するのだろうか?

人が?


「金の一族は、金の天使か金の堕天使に羽化する。そして、金の天使に羽化すれば人に幸福を、金の堕天使に羽化すれば人に災いをもたらす。世界と言い換えてもいい」


「そんなものに、人がなれるの?」


御伽噺のような世界だ。

いや、まさにファンタジーワールド。


「なれるんだ。エデンから召還された者だけが。過去に金の天使としていくつかの国を繁栄させた例や、人に恩恵をもたらしたり災害を消した例もある。それが金の天使。逆に金の堕天使は国を滅ぼす元凶となり、天災をもたらす」


リクは、元いた椅子に座りなおすと、手を組んだ。


「サクラも金の一族であることにはかわりないだろう。羽化するかどうかは知らないが。まぁ、金の一族で羽化する可能性があれば伝説の黒き獣か白き獣どちらかが現れるかもしれない。現れないところを見ると、そなたは羽化とは無関係のただの金の一族、エデンからの来訪者か」


「ごめん、あたし難しい話苦手」


頭はいいほうだけど。複雑な世界の関わり方なんて知りたくない。


エデン、つまりは地球から人がちょくちょく召還されているという事実を直視しても、自分とは関係ないのだからこれといった感慨も沸いてこないし。


「ようは、だ。そなたがそのまま、羽化しなければいいだけの話なのだ」


「羽化なんかできるか!セミじゃあるまいし!ミーンミーン!!!」


あたしはセミのポーズをとった。よくわからなかったので、シェーをしてみた。


「そうなのだ!ミーンミーン!第一、金の一族が召還されるのは遥かなる昔からの慣例。召還の儀式を行ってもほとんど失敗する。この5千年のシャナの歴史においても、召還された数は100以下だ。羽化した数などその一割にも満たない」


「へー。ツクツクホーシ」


「まぁそういうわけだサクラ。ツクツクホーシ。金の一族だからと、そなたを攫うような輩がいれば、私が」


同じシェーのポーズをする情けないリク。でも、じっと、見つめてくる青い瞳にドキドキと心臓が高鳴った。


「私が…」


私が守るって?

私は自分のことは自分で守りたいけど、流石に剣や魔法で迫られたら立ち向かえない。大勢に囲まれても。


高鳴る心臓。


「私が…サレイかリンドウを呼んで助けてやろう!」


ゴシャ。

リクの頭を、スープの中に、娘であるはずのリリエルが沈めた。


とても7歳とは思えない怪力。流石あのトドの王妃、マリリアージュの娘と、あたしは心の中で拍手喝采した。


なんて情けないんだリク!

あたしを王妃にしたいんじゃないの!?

だったら、自分の手で守ろうってくらい、嘘でもいえよな!


制裁はリリエルが十分してくれたので、もう何も言わないが。


「ごめんなさいね。お父様ったら、気が利かなくて」


ホホホと、小さく笑って、歩いてあたしの正面の席に戻るリリエル。

長い銀髪がほつれたらしくて、誰かの名前を呼んだ。


「シャーライ!髪留めが外れそうだわ。あと、こっちの髪がほつれてしまったの」


「リリエル様、少し待ってくださいね」


「シャーライはね、私の乳母なの」


やって来たのは、20代前半くらいのこれも上流階級出身らしい上品な美人さん。カカオと同じ顔をしている。


「カカオじゃないの?カカオ?」


「あら、カカオは私の双子の妹ですわ。サクラ様の面倒を見る大任を任され随分喜んでおりました」

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