アルシェイドの憂鬱
「お前さ、怒るとか恨むとかさ、何か、ないの?」
たったこれだけの言葉の間に、アルシェイドはため息を三回もついた。よほどお疲れのようで、うつむいてしまう。
「オレ、今現在首都襲撃の首謀者だぞ?」
嫌そうな顔して、仕方なさそうに笑い、途方にくれた目を向けてくる。
黙っているとアルシェイドの顔がころころ変わって面白い。
「何か言えよ、ルキノ」
「恨みごとでも言われたいの? 僕、博愛精神持ちあわせてないから、僕にとって無害ならどうでもいいよ」
襲撃の時期がわかっていれば回復薬増産して、マルクの機嫌とりができたかもしれないとは思うけど。
「それに、本気で首都をどうこうするつもりのある襲撃じゃないだろ?」
人が多い所を中心に狙っているようで、国として重要な施設は狙われていない。襲撃の中心は国際交流会の試合会場周辺のようだ。
戦う術を持たない観客も多いが、戦い方を知る学生が多くおり、会場警備にも多くの人がいる。
魔人は魔物を放つだけで襲撃に参加していないし、学生でも何人かで連携をとれば対処できる範囲だ。軍が組織だって動く前に腕に覚えのある人がでしゃばってきている。
さすが、勇者。五人とも率先して動いているな。
あっ、サムイムも暴れてる。
討伐は時間の問題。アルシェイドの様子を見るに、追加もなさそう。
「ルキノ、何笑ってんだ?」
「いや、爆炎の騎士。若者に混じってがんばってんな、と思ってね」
来賓で呼ばれてたのかな。
あいかわらず、ムダに魔力を使っている。周囲に影響が大きくて、魔物よりよっぽど危険だ。
「もしかして、ここから襲撃にあっているところ全部感知しているのか?」
「そんなに広い範囲じゃないからな」
首都全体からみれば十分の一もない。限定された範囲だ。
さすがに人が多いから目立つ魔力以外は個別認識なんてしてないけど、ダンジョンの一階分を全部感知するよりはラクだ。
「竜に目をつけられるだけはあるな」
苦笑を引っこめ、真面目な顔をして真摯な目を向けてくる。いつもとは違う態度に僕も笑みを消した。
「ルキノ。期待していいか?」
何に対する期待か教えないまま、祈るような言葉を告げられた。
「僕に何かさせたいのか? とりあえず、アルのためならできることはがんばってみるよ」
できないことまでやれるとは言えないが、努力してもいいと思うくらいにはアルシェイドのそばは居心地がいい。
「なら、今は期待だけしとく。あと、襲撃のいいわけを聞いてほしい」
「話、長くなる? 長いならどっか食事できるところに行こう。お茶の途中で出てきたから、お腹すいてんだ」
僕はアルシェイドと一緒に幻術で封鎖されていた路地から出る。
襲撃の影響がなく営業していて、混んでいない店。感覚頼りに選んだら高級な店になったが、いいとしよう。
お安くないだけあって、店の雰囲気は落ち着いている。
三方が壁になった個室に近い席に案内してもらう。コース料理を頼むと再々人が来るので、お茶と単品料理とお菓子を頼んでまとめて持って来てもらうことにする。
「アル、学院を卒業したらどうする?」
「祖国復興をしたいから、就職の話は断っているよ。そっちは?」
「僕、店あるからね。学院から斡旋されるとこには就職しないよ。悩みどころとしては、何処を定住地にするか」
首都は高い物も売れるし、物流がいいから大抵のものは手に入る。けど、僕は素材は買うより採取したい。
「ダンジョン都市で薬草育てながら魔術具作ってもいいが、定住しないで気の向くまま素材を求めて放浪するのも悪くないよな」
何処でも回復薬は売れるから、生活するくらいの金には困らないだろう。
「ルキノ、それ、腕輪の主に言ったことある?」
左右どちらの腕輪の製作者にもそんな話はしてなし、黒い方の腕輪の製作者は連絡のとりようもない。
首を横に振ると、アルシェイドに相談した方がいいとすすめられた。
「あっちはあっちで予定立てているかも。というか、ルキノが期待どおりの者なら、拉致ってでも連れて行くぞ」
「ん? 僕、何されんの?」
アルシェイドが口を開く前に食事が運ばれてきた。テーブルの上にすべてのお皿が並ぶのを待つ。並べ終わり、店員が下がるとアルシェイドが遮音結果を張った。
「人間より魔人は切実に勇者が召喚されることを待っている。人間の国を落として、勇者召喚を促すくらいには余裕がなく、毎回本気だ」
目的が勇者で、余裕がない?
どういうことだ?
「魔人に勇者召喚するだけの余力があれば、襲撃なんて必要なかったんだが」
できなかったと、憂いた表情で告げる。
「勇者が五人そろったから、召喚をうながすための襲撃はもう必要ないが、勇者を召喚してよかったと思わせる功績がいるから、今回はオレが計画を立てた」
「討伐させるための襲撃か」
小さくアルシェイドがうなずく。
「勇者が魔人の敵だっていうなら、召喚された直後を狙うよな。勇者召喚は目立つし、知らないうちに召喚されてたなんてことにもならない」
「勇者なら死んでても価値はあるが、できれば生きていて強い方がありがたいからな。強化育成のためにも襲撃するよ」
長々と店にいて、アルシェイドは襲撃の理由をいくつも語ったが、勇者を必要とする理由は語らなかった。
陰鬱なアルシェイドを追求する気にはなれなくて、僕はレヴィエスを捕まえる。
監視がないと、訪ねるのもラクでいい。ただ、今は外国からの客が多く飛竜貸し屋は混雑していた。
念話で呼び出そうかとも思ったが、近くに魔人がいたので外から三階に忍びこむことにする。直に窓からレヴィエスの部屋に気配を消して進入したが、驚いてはくれなかった。
「あんまり広くないんですね」
簡素な部屋にベッドや小さな棚。一人掛けのイスに、それとセットになっている机くらいしかない。
「寝るためだけの部屋だからな」
「竜化したら部屋の中に収まらないくらいですが、狭く感じないんですか?」
「その基準なら人の町はどこも狭い。狭いのを気にするなら、人には関わらない」
平坦で何の乱れもないレヴィエスの魔力。国際交流会による人の流れの増加も、魔人よる襲撃騒動も、この竜には何ら影響を与えていない。
「魔人が勇者を必要とする理由って、何ですか? 魔人が勇者を必要としているのら、探索者は何のために勇者を魔人の元へ連れて行く?」
こちらがそれなりの覚悟を持ってした問いかけも、レヴィエスは平然と受け止める。
「ルキノが話を聞いた魔人は正しい情報を持っているようだ。彼らは目的の為に襲撃をおこなうが、事を成せば危険はない。だか、各地で必要以上に暴れる魔人は勇者を敵とみなし排除する。探索者は暴れる魔人の選別者であり、到達できなかった者だ」
「到達できなかった者?」
「ルキノはまだ、到達していない者だ。そして、これから到達する可能性を秘めている」
肝心な部分をぼかしたままの言いように、僕は顔をしかめる。
「僕に何をさせたい?」
「迷いの森へ行け。かの森で到達者となれば答えは得られる」
迷いの森は素材の宝庫だし、興味はある。ただ下手なダンジョンより危険な場所でもあるらしい。
「一人で行けと?」
「一緒に行こうか?」
戦力としては申し分ないというか、過剰すぎるくらいのヒト。安全を選ぶという意味では、これ以上はない相手だろう。
ただ、心の平安はないね。
「一人じゃなくていいならサムを誘うよ」
アルシェイドも声をかけるだけかけてみよう。
同行者は相手の返事を得てから考えるとして、長期で出かけるならマルクを説得しとかないとマズイ。これ以上怒らしたくないな。
「迷いの森、冬に行っても素材少ないですよね? 春まで待った方がいいかな」
春なら素材採取ってことでマルクの説得もしやすいだろう。
「冬にしか採取できない素材もあるが、他の季節より豊かな時期ではないな。だが、そうだな。冬場にあえて行くというなら、竜の魔力がつまった魔石をやろう」
新商品の開発を頑張れば、きっとマルクも許してくれるはず。
僕は早速サムイルの同意を取りに行くことにした。




