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ちゃっぽん、と水音を立てて腕をお湯の中に引き入れ、頭を縁に凭れさせると「はぁ~~」と息を吐き出してしまうのは何故なんだろうね?これも溜息って言うのかな?
香りよーし、湯加減よーし、清潔感ばっちり、広さも申し分なし。居世界のお風呂は大変気持ち良いものでございました。まる。
これで薔薇の花びらとか浮いてたらどん引きだったけど、浮いてたのはまん丸い柑橘類だったよ。ゆず風呂みたいなもんだね。緑色だったけど。
貸してもらっといて何だけど、これってやっぱり一般家庭のお風呂じゃないよねえ。
何しろ広い。
どこぞの温泉ですか!?ってくらい広い。
湯船は5人くらいなら楽に入れそうだし、洗い場はもっと広い。お風呂場だけで12畳くらいはあるだろ、これ。
あれか?よく物語にある『お姫様が侍女数人がかりで丸洗いされる』為の広さか?そうなのか!?
実は内心そんなことを想像してびくびくしていたんだけど、どうやら杞憂だったようでこの無駄に広いお風呂は貸し切り温泉よろしく私一人きり。
あまりの気持ちよさと解放感に「はぁ~」ってなったってしょうがないよね!?だら~っと身体が弛緩しちゃっても無理ないよね!?
あ~、極楽極楽……。
てか、気持ち良過ぎて目を閉じたら、うっかり溺れかけました……。
アブナイ、アブナイ。
余所様のお風呂で寝るんじゃないよ、自分!
こんなリラックスできるお風呂は久しぶりだなあ、とか思いながら緑色の柑橘類をちゃぷちゃぷと玩んでいたらお風呂場の入口に何やら人の気配が……っていうか、思いっきりがさごそと物音が。
何事!?と思ってたら勢いよく飛びこんで来たのは――。
「僕も入るぞ!」
「げっ」
――外見天使サマなおぼっちゃまでした!
何だとぉ!?
この世界では『男女七歳にして席を同じゅうせず』っつう、ことわざは無いのか!?
五歳程度ならまだ許せるが、それ以上となるとさすがに色々拙いだろう!?何より私が嫌だ!
思わず身を引き、顔にも「勘弁して!」と思いっきり書いてある筈なのに、空気を読まないお子ちゃまは構わずざぶんと湯船に呼び込んで来た。
っていうかね!?
湯船に入る前にざっとでいいから身体の汚れを流せよ!エチケットだろ!?
私?
もちろん、お湯に浸かる前に身体も洗ったしシャンプーも済ませてますよ!余所様のお風呂だしね!
坊ちゃんの飛び込みの余波で頭からお湯をかぶって雫を滴らせながら、私は闖入者を睨む。もちろん、頭の上に載せていたタオルで前面を隠すのも忘れない。私に露出趣味は無い!
「……坊ちゃん。私が上がるまで待てなかったんですか?」
「何故待たねばならん」
おお……。王様発言。本当に坊ちゃんだな、こやつ。
「あのね……この国ではどうか知りませんけど、私の国では基本的に男女はお風呂は別々です。女風呂に男が入り込んだら痴漢です。変態です。犯罪です」
「む?何故だ。この風呂は僕の家の物だぞ?」
不満そうに眉を顰める坊ちゃん。そんな顔でも天使様のイメージが崩れないんだから美形はすごいな。
だがしかし。
例え天使様でも性別が男なら意見は曲げませんよ!
「ええ、そうですねー。それを私が貸してもらったんですよねー。だからと言って、一緒に入らなければならない理由にはなりませんよ!マリエルならいざ知らず」
「なぜ姉上ならいいのだ?」
不可解だと言わんばかりに首を傾げられてもな!理由は言ったのに理解していないとか、坊ちゃん実は頭悪いのか……?
「女の子同士だからに決まっているでしょう!?私は女!君は男!例え毛が生えて無かろうが付くもん付いてたらお風呂は別なのよ!」
「むぅ」
「つか、まさかアンタ、いつもこんな風に女の子の入浴に乱入しているんじゃないでしょうね!?」
「してないぞ?」
「じゃあなんで!?」
「この風呂を使うのは普段姉上と僕だけだからな。姉上が入る時は侍女達がいるから壁が厚くてな……」
入ろうとはしたってことかい!?
つまり何か?マリエルの時は侍女さん達が止めるけど、私の時にはいなかったからこれ幸いと飛び込んだと。
確信犯か!!
「何考えてやがる、このお子様がぁ……」
低く、呻くようにぼそりと呟いた私の声が確りと届いたらしく、坊ちゃんはあっけらかんと笑ってこう言った。
「男とか女とか、違うと言われればどこが違うのか気になるではないか」
「~~~~ッ!!そんなもん、風呂に入らなくたって判るだろぉが!!胸とか!身体つきで!」
「うむ。姉上も侍女達も判りやすいのだが。お前は判りにくかったんで、本当に女かと思ってな」
「……?」
うんうん、と頷くお子ちゃまの視線が、私のタオルで隠した部分に向けられる。
「隠す程も無いのに何故隠すのだ?」
「ッ!!……こ~の~、マセガキがああっ!人の胸を批判するなんざ十年早いわーーーっ!!」
うむ。
人とは、図星を指されると激昂するイキモノである。まる。
坊ちゃんにはデリカシーは無いようだ。




