↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森のヒウノと空のリト (全70話)  作者: このはりと
第3章 旅のおわり
53/54

第53話 リトのもとへ

「おじいさん、教えてください。リトはどこへ?」

「今から追ったところで、獣の足であっても間に合いはすまい」

「お願いです。もう一度、会って話したい」


 老人には躊躇《ためら》いがあった。孫娘が儀式をやり遂げるまで、いくばくか時間はある。しかし、もしあの子の決心が揺らぐようなことがあれば、失われるものの大きさは計り知れない。

 儀式を取りやめ、いっとき彼女をつなぎとめたとしても、すぐにやってくる未来が、同じ結末をもたらすだろう。

 目の前にいる少年は、嵐にのってやってきたと言う。孫娘のために。よくも、そんな些細な願いで嵐に嫌われなかったものだ。奇跡としか言いようがない。


「奇跡、か……」


 そう口にして、老人は改めて孫娘を想った。


「あの子を送り出すとき、じゅうぶんに気持ちを伝えられたじゃろうか……」

「おじいさん?」

「しきたり、失われる命の数、かりそめの礼。家族としてではなく、どこか他人のように接しておったのかもしれんのぅ。長たる者はこうあるべき、と……」


 そうつぶやいたのち、老人はまじまじと少年の顔を見た。なんと幼い。


「あの子も、そなたとたいしてかわらぬ年のころか。背負ってもらわねばならん。けれど、わがままのひとつも聞いてやればよかった……」

「おじいさん。あなたのしたかったことは――僕がやります」


 少年の力強い声に、老人の目から涙がこぼれた。


「ありがとうよ、お若いの。あの子はきっとやり遂げるじゃろう。だがその前に、どうかあたたかい気持ちにしてやっておくれ」

「はい、必ず」


 ヒウノが頷くと、老人はすがるように少年の手を強く握りしめた。



 *



「あそこに泉が見えるじゃろう」


 少年を連れ立って集落をあとにした老人が、眼下を指して言った。わずかに残った木々が青い円を囲んでいる。そこへ至る道のりには、切り立った崖の数々と滝のように流れ落ちる白い砂が見えた。人の往来によってできたのであろう細い道が、途切れ途切れに続いている。


「リトはあの泉に?」

「あぁ。数人の従者を伴って、儀式のためにな」

「願いを叶えるための儀式……。おじいさん、案内をありがとうございました。僕は行きます」

「気をつけてな。そなたは、生きなければいけないよ」

「――はい」


 生きるのなら彼女も一緒に。

 そう伝えたい気持ちをおさえて、ヒウノは地を蹴りすばらしいはやさで駆け出した。

 泉の姿はどこからでも見える。今のところ、なにかが始まった様子はない。けれどもまだまだ距離があり、少女の姿を捉えることはできなかった。

 踏みならされた道は泉へまっすぐに向かっておらず、比較的なだらかなほうへとのびている。思い切り走れるものの、遠回りをしているようで、少年にはもどかしい。


(こうしている今にも、儀式が始まってしまうかもしれない)


 そう思った矢先、泉に変化が起こった。

 少年は目を凝らした。泉の中ほどに、灰色をしたなにかが立っている。それを中心として水面に波紋が広がり、周囲の木々がさざめき始めた。

 きっと、少女が儀式を始めたのだ。ヒウノはそう直観した。

 このままでは間に合わない。

 少年は道のかたわらを見やった。ほんのわずかでも道を逸れればすぐに崖だ。飛び降りて無事に済む高さではない。

 けれど、巨大樹の森で育った少年にとって物の数ではなかった。


『ヒウノは、高いところは平気よね』


 中央大陸の森での出来事が蘇る。

 平気だよ。心の中でそう呟いたのち、少年は一切の躊躇いなく宙へと身を投げた。



 第53話 終

本話をお読みくださり、ありがとうございました。

もしよろしければ、つづきをお楽しみくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。