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森のヒウノと空のリト (全70話)  作者: このはりと
第2章 ふたりが見る世界
42/50

第42話 止まらずに

 好意を抱く者から向けられる敵意。これにはさすがにこたえる。「彼女の本意じゃない」少年は自身に言い聞かせた。

 いざ豹変した少女と向き合ってみると、底知れない恐怖が湧いてくる。少女の放った光が、命を奪うのを見てきたばかりだ。これから自分もそうなるかもしれない。彼女の瞳には、普段の優しさが欠片も残っていなかった。おそらく、相手が自分であっても、今の彼女はためらわないだろう。

 呼吸が浅い。息を整えようと少年が体内の空気を吐き出し始めたそのとき、眼前に光が閃いた。体が思うように動かない。足がすくんでいた。

 瞳を閉じる間もなく、目の前が暗くなる。不思議と痛みは感じなかった。


「止まってはならない。リリーシエのために戻ってきたのではないのか?」


 ユユエに抱えられ、少年はからくも命をつなぎとめた。


「動け。そなたの死を知れば、リリーシエはもう前を向けなくなる」


 ユユエの声のおかげで、少年は我に返った。

 そうだ。ここへ何をしに来たのか思い出せ。いつもの彼女と、日常へ戻るためだったはずだ。人の生き死にがかかった非日常でなく、土の上を歩き、風を感じながら海を渡り、月明かりの下で眠る、そんな穏やかな日々を取り戻すんだ。


「もう大丈夫です。走れます」


 ふたりは短く頷きあい、同時にすばらしい速さで駆け出した。少女が放つ光をすんでのところでかわし、近づきすぎないよう距離を保つ。破壊の光がすさまじい勢いで後を追ってくる。少しでも速度を落とせば、光に呑み込まれて白い砂と化すだろう。やや遅れて破壊による振動が伝わってくる。

 水の屋根にあいた穴からは、湖水が滝となって流れ落ちていた。飛行機械の支柱が傾げ、耳障りな音を立て始めている。

 水底の静謐が失われつつあった。

 リトの放つ光を避けながらユユエは少年に問うた。


「彼女の命を絶つよりほかに、私は術をもたない。レレンをそうしたように」

「繰り返すつもりは――」

「ない。レレンの願いを叶えるため、私はまだとどまっていられる」


 少年は、ユユエが口にした言葉を疑わなかった。けれど、他に方法がなければ、いずれ選ぶことになるのだ。はっきりとしている、リトを止める唯一の方法を。


(選んではいけないし、選ばせてもいけない。そうならないために、ここへ来たんだ)


 石の使いかたが少しわかってきた。今なら、中空を思いのままに移動し、リトが放つ光を防ぎ、彼女に近づくことができるだろう。しかし、それだけでは足りない気がした。

 どれほど大きな声で呼びかけても、今のリトには届かない。力の発現をおさえ、普段の彼女に戻すにはどうすればよいのだろうか。

 ユユエが柄《え》を振るう姿が目にうつる。おぼろげではっきりとは見えないが、刃を持っているようだった。それが破滅を呼ぶ光をあとかたもなく消し去ってゆく。

 そこで少年は思い出した。


(持っていた。僕も武器を――いや、彼女を守るためのものを)


「お守りみたいなものだから」そう言って彼女が手渡してくれた小刀。腰の後ろに差していたそれを抜き、正面からまっすぐに見た。真っ白な柄と鞘の境目にはわずかなずれもない。


(僕に力を貸してほしい――)


 少年は強く願った。

 ひとりでに石が右腕に溶け込んだ。腕が熱を持ち、強い光を放っている。その色は琥珀色より、やや赤みがかっていた。

 右手で小刀の柄を握った。すると、最初からそうであったかのように、鞘の姿はどこにもなかった。

 姿を見せた刃の色は灰色だった。



 第42話 終

本話をお読みくださり、ありがとうございました。

もしよろしければ、つづきをお楽しみくださいませ。

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