第三十六話 地図は、鍵にもなる
帰り火の「暮らしの地図」は、完成する前から問題になった。
家の場所を守るための地図が、留守の時間や井戸の位置まで外へ教える鍵にもなる。詳しく描くほど安全になるとは限らなかった。
「これ、外に置いていいのか」
ベルンが、共同地図の前で言った。
前日までに増えた印。
家。
水場。
共同炊事場。
サラの仮作業場。
オーデンが木場へ通う道。
子どもたちが遊ぶ広場。
エナが昼間に座る壁際。
火事のときに集まる場所。
「みんなに見せるために作ったんだろ」
カイが答える。
「木場の火事を起こした奴も見られる」
その一言で、周囲が静かになった。
地下共同蔵から見つかった木場の見取り図。
そこには、見張りが動く時間と、門の鍵が置かれる場所まで書かれていた。
暮らしを詳しく描けば。
住人が何を失うのか、役場や道路を造る者へ伝えられる。
だが同時に。
いつ人がいなくなるか。
どこに子どもが集まるか。
誰が一人でいるか。
悪意を持つ者にも伝わってしまう。
「じゃあ、また家だけの地図に戻す?」
ミラが尋ねた。
「それでは、道の計画図と同じになります」
リゼが答える。
「建物の位置だけでは、暮らしへの影響を判断できません」
「全部描いたら危ない」
サラが腕を組む。
「描かなかったら、ないことにされる」
ベルンが言う。
「どっちなんだ」
誰も、すぐには答えなかった。
◇
「地図を二つに分ける」
俺は言った。
「二つ?」
「外へ見せる地図と、管理する人だけが見る地図」
「また隠すのか」
ベルンの声が低くなる。
「見せない地図があったから、西の道も勝手に決められた」
「同じ隠し方にはしない」
「何が違う」
「見せない内容と、見られる人を先に書く」
外へ見せる地図には、
家。
仕事場。
水場。
道。
避難場所。
子どもが多く通る範囲。
火や水の危険。
道路計画へ必要な情報を描く。
だが、正確な見張りの交代時間。
一人暮らしの者。
病人の寝る場所。
鍵の保管場所。
非常用の食料。
そうした情報は別にする。
「別の地図は、誰が持つ?」
サラが尋ねた。
「役場だけなら嫌だ」
ベルンがすぐに言う。
「商会だけでも嫌」
オーデンが続けた。
「帰り火の代表だけでも、なくしたら困る」
リゼが言った。
「三つ作る?」
カイが尋ねる。
「同じものを三つ?」
「いや」
同じ地図を三枚作れば。
一枚が書き換えられても、ほかと比べられる。
だが、危険な情報が三か所に増える。
「記録は三つ。詳しい地図は一つ」
「どういうこと?」
ミラが尋ねた。
「地図を開けた人の記録を、三か所へ残す」
管理地図は、共同集会所の鍵付き箱。
鍵は一人では開けられない。
役場。
帰り火。
もう一人。
「商会?」
ベルンが嫌そうに言う。
「道路と木場に関係する間は」
ヴァルクが答えた。
「ただし、ドーレン商会が土地から外れる場合、三つ目の管理者を変更します」
「鍵を三本使う?」
ルナが尋ねる。
「二本で開く箱にする」
ガルドが言った。
「三人のうち、二人がそろえば開ける」
「三人全員じゃないの?」
「一人が病気でも、火事は待たん」
「一人だけじゃ駄目?」
「勝手に見られないようにする」
完全に開けられなくしてはいけない。
だが、一人だけでも開けられない。
「開けた日と、見た人と、理由を書く」
リゼが言った。
「文字を読めない人は?」
「印も残す」
「箱に傷をつける?」
「外側に札を掛ける」
何回開いたか。
誰の立会いだったか。
後から確かめられる。
「秘密にするんじゃない」
エナが椅子から言った。
「秘密にしたことを、秘密にできなくするんだね」
◇
地図を分ける作業を始めたとき。
町役場から、使いが来た。
「オルセ・バランの事務所が確認できました」
空気が変わる。
「本人は?」
ハーレンが尋ねる。
「不在です。事務所の家主によれば、数日前に町を出たと」
「いつ?」
「木場の火災が起きる二日前です」
火事を見てから逃げたのではない。
最初から、町を離れる予定だった可能性がある。
「行き先は?」
「西部の測量と説明しています」
「西の道?」
ミラが呟く。
「本人の言葉では、採石場候補地です」
「役場から依頼したの?」
リゼが首を振る。
「現在、オルセへ正式な測量依頼は出ていません」
「じゃあ、誰の仕事?」
「分かりません」
「またか」
ベルンが吐き捨てる。
ハーレンは、町の役人二人とイルザを連れて、事務所へ向かうことにした。
「俺も行く」
俺は立ち上がった。
「暮らしの地図は?」
ミラが尋ねる。
「戻ってから」
「誰が今日中に分けるって言った?」
「でも、図面があるかもしれない」
「役場の人も、イルザさんもいる」
「見つかった図面を、読める人が」
「レオ、まだこの世界の字を全部読めないでしょ」
言葉が止まる。
「図面の線なら分かる」
「ドムさんも分かる」
確かに。
石工のドムは、測量図も読める。
「行きたいだけ?」
ミラが尋ねた。
「ああ」
否定できなかった。
オルセの事務所。
西の道。
地下通路。
偽の報告。
手がかりがあるかもしれない。
「私も行きたい」
「じゃあ」
「でも、地図を作る」
ミラは、外へ見せる印と、見せない印を分けていた。
「誰がどこにいるか分かる地図を、また誰かに使われたくないから」
今ここで必要なのは。
犯人を追うことだけではない。
「残る」
俺は座り直した。
「本当に?」
「ああ」
「あとで、行けばよかったって言わない?」
「言うかもしれない」
「言うんだ」
「それでも残る」
◇
オルセの事務所へ向かったのは。
ハーレン。
イルザ。
リゼ。
ドム。
町の記録官。
そして護衛二人。
ヴァルクは木場に残った。
「商会の元職員を調べるのに、行かなくていいのか」
ベルンが尋ねる。
「私が行けば、商会側だけで証拠を選んだと言われます」
「イルザは商会だろ」
「監査部です。私は、現在の木場管理者です」
「だから残る?」
「木場の移動作業も続いています」
オルセを追う者。
今の危険を管理する者。
どちらも必要だった。
◇
公開用の地図から。
最初に消したのは、エナが昼に座る正確な場所だった。
「消すの?」
ルナが残念そうに言う。
「壁際で休む人がいる、という範囲に変える」
俺は、個人の印ではなく、椅子の印を広い範囲へ置いた。
「エナって分からなくなる」
「道路を考える人には、誰かが休む場所だと分かればいい」
「でも、エナの場所なのに」
「エナの名前は、別の記録に残す」
暮らしを伝えるために必要なことと。
誰の生活かを特定することは、同じではない。
「サラさんの作業場は?」
「仕事場だから公開する」
「働く時間は?」
「書かない」
「子どもの広場は?」
「場所は書く。でも、誰が何時にいるかは書かない」
「火事の集合場所は?」
これは迷った。
道路計画へ必要。
災害時には、外から来た救助者にも分かった方がよい。
だが。
混乱を起こしたい者が、そこを知れば。
「公開する」
サラが言った。
「いいの?」
「火事のとき、助けに来た奴が知らない方が困る」
「でも」
「危ないから隠すものと、危なくても見せた方がいいものがある」
「誰が決める?」
「住人で決める」
◇
一つずつ、住人へ聞いた。
水場の位置。
公開。
予備の水桶の数。
非公開。
炊事場。
公開。
保存食を置く棚。
非公開。
木場の入口。
公開。
予備鍵の場所。
非公開。
見張り小屋。
公開。
交代時刻。
非公開。
「全部、簡単には分かれない」
カイが言った。
「だから一つずつ決める」
「あとで変わったら?」
「変えた記録を残す」
「前の地図は?」
「捨てない」
消した内容が。
最初からなかったことにならないようにする。
ただし、古い地図を誰でも見られる場所には置かない。
「隠すための箱が増える」
ベルンが言った。
「箱の中で、また紙を抜かれたら?」
「開けた記録と、紙の枚数を残す」
「枚数が合っても、中身を変えられる」
「頁ごとに印をつける」
「印を盗まれたら?」
問いは終わらない。
「絶対に変えられない記録はない」
俺は答えた。
「じゃあ、どうする」
「変えるのを難しくする。変えられたら分かるようにする」
「それでも変えられたら?」
「ほかの記録と比べる」
完全に守れるものはない。
家も。
道も。
紙も。
だから、壊れないものを作るのではなく。
壊れたことが分かり、直せるようにする。
◇
昼を過ぎた頃。
オルセの事務所を調べていた者から、最初の報告が届いた。
「事務所は、町の東側?」
ミラが驚く。
「西の土地を扱ってるのに?」
使いが答える。
「土地仲介人の事務所は、市場に近い方が便利だそうです」
「オルセさんは、本当に町を出た?」
「家主が見ています」
「荷物は?」
「測量用の細長い箱と、衣服を二袋」
「測量の仕事っぽい」
「ただし」
使いが続ける。
「重い測量鎖、水平を見る台、野営道具は事務所に残っています」
「測量に行くのに?」
「最低限の道具だけ持っていった可能性もあります」
だが。
長い距離。
西の採石場。
地面の高低差を測るなら、鎖や台は必要になる。
「本当に測量へ行ったんじゃない」
ミラが言った。
「そう見える」
「逃げた?」
「別の場所に道具があるかもしれない」
「まだ決めないんだ」
「決めない」
◇
オルセは、事務所の家賃を二月先まで払っていた。
机。
椅子。
棚。
図面を挟む板。
測量器具。
多くの物を残している。
「急いで逃げた人には見えない?」
カイが尋ねる。
「戻るつもりだったようにも見える」
「火事の前に出て、戻るつもり?」
「火事が成功したあとに戻るつもりだったのかもしれない」
ベルンが言った。
「帰り火と木場がなくなったあとで」
「そうかもしれない」
「お前まで」
「俺が言っても、分からないものは分からん」
ベルンは不機嫌そうに地図へ向き直った。
◇
夕方前。
調査隊が戻ってきた。
ハーレンたちは、布で包んだ書類箱を運んでいた。
「何か見つかった?」
俺は立ち上がる。
「多くはありません」
リゼが答えた。
「棚は、ほとんど整理されていました」
「何もない?」
「普通の土地契約の控え。測量記録。請求書」
「西の道は?」
「机の引き出しから、比較図の写しが出ました」
公開前の図面。
オルセは測量者だから、持っていても不自然ではない。
「地下通路は?」
ドムが、丸められた古い図面を広げる。
西外仮宿。
三つの屋根。
共同蔵。
排水路。
石灰窯側の出口。
「全部、描いてある」
ミラが言った。
「五年前の木場測量時に、作成したらしい」
「役場には出してない?」
リゼが首を振る。
「木場の測量報告には、地下構造なしと記載されています」
「見つけたのに隠した」
「この図面が五年前に描かれた物なら」
「紙は?」
イルザが答える。
「五年ほど前の物に見えます。インクも新しくありません」
オルセは。
木場を造る前から地下道を知っていた。
境界標だけではない。
「どうして木場の下に残した?」
カイが尋ねる。
「使うつもりだったから?」
地下共同蔵。
見張りに知られず入れる通路。
火事の前に、誰かが隠れ場所として使った。
「五年前から、今回の火事を考えてた?」
ミラが言う。
「そこまでは分からない」
俺は答えた。
「将来、何かに使えると思って残しただけかもしれない」
「危ないものを隠しておくのも、同じくらい悪い」
ミラの声は冷たかった。
◇
「ほかにもあります」
イルザが、小さな紙束を出した。
一枚目。
不完全な円。
商会の緊急封印に似た形。
二枚目。
少し右へずれた同じ円。
三枚目。
線が潰れている。
「印の練習?」
ルナが尋ねた。
「蝋へ押す前に、紙と墨で形を確かめた可能性があります」
「偽の報告に使った印?」
「正式な封印と比べます」
ヴァルクが紙へ近づく。
「この欠け方」
「知ってる?」
「古い緊急封印具です」
ドーレン商会では。
印が盗まれた場合に備えて、数年ごとに形を少し変える。
「この形は、六年前まで使われていました」
「オルセさんが商会にいた頃?」
「はい」
「古い印でも、本部は本物だと思う?」
「緊急時には、廃止された印でも照会するまで受け付ける場合があります」
「だから偽の報告が通った」
「可能性はあります」
「古い印の道具は?」
「退職時に返却する規則です」
「返してなかった?」
「返却記録を確認します」
◇
紙束の最後には。
青い布の購入記録があった。
ドーレン商会の古い包み布。
払い下げ十二枚。
購入者。
オルセ・バラン。
「火元と同じ布?」
「同じ種類を持っていたことは分かります」
イルザが答える。
「今、事務所には?」
「十一枚ありました」
「一枚足りない」
「使用しただけかもしれません」
「燃やした?」
「まだ比較が必要です」
ミラは、決めつけるなと言われる前に口を閉じた。
証拠は、オルセへ集まり始めている。
境界標を埋める指示。
西の道の測量。
地下通路の図面。
古い商会封印の形。
青い布。
町を出た時期。
だが。
「多すぎる」
俺は呟いた。
「何が?」
ミラが尋ねる。
「全部、事務所に残ってる」
逃げる者が。
自分を疑わせる物を、机の中へ残していくだろうか。
「急いでた?」
「二月分の家賃を払ってる」
「あとで戻って、片づけるつもりだった」
「それなら、火事のあと町へ戻る必要がある」
「成功したと思ってたら?」
「監査が入るかもしれない」
ヴァルクが契約書の頁へ気づいていた。
レムから、その情報を聞こうとした者もいる。
監査部が来る可能性は分かっていたはずだ。
「誰かが、オルセさんの事務所へ置いた?」
カイが言った。
「鍵は?」
ハーレンが答える。
「家主によれば、オルセと若い助手が一本ずつ持っています」
「助手?」
皆がハーレンを見る。
「オルセは一人じゃなかった?」
「事務所には、半年ほど前から若い男が出入りしていたそうです」
「名前は?」
「ニル・ファン」
「その人もいない?」
「オルセと同じ日に、町を出ています」
◇
「レムさんは、男の声を二人聞いた」
ミラが言った。
「低い声と、若い声」
「片方が、もう片方を先生と呼んだ」
カイが続ける。
「助手なら、オルセさんを先生って呼ぶ」
「家主も、ニルがオルセを先生と呼ぶのを聞いています」
リゼが言った。
「決まりじゃないか」
ベルンが言う。
「オルセとニルだ」
「声を確認してない」
「地下道を知ってる」
「図面は事務所にあった」
「青い布も」
「同じ種類」
「印も練習してる!」
「誰が描いたかは分からない」
「そこまでそろって、まだか」
「そこまでそろいすぎてる」
俺は答えた。
「だから何だ」
「オルセを犯人にしたい人が置いた可能性も考える」
「またゲイルみたいに?」
「消えた人は、犯人にしやすい」
オルセは町にいない。
ニルもいない。
二人とも、自分の事務所に何が残されていたか説明できない。
「でも、オルセは境界標を消した」
ベルンが言う。
「それは、ゲイルさんの証言と図面で確かめる」
「悪いことをした奴だ」
「だから、してないことまで背負わせていいわけじゃない」
◇
「助手のニルについて、何か残ってる?」
ミラが尋ねた。
「寝泊まりは別の宿です」
リゼが答える。
「宿の部屋も確認しました」
「何があった?」
「ほとんど空です」
「逃げた?」
「衣服も荷物も持ち出しています」
「オルセさんと違う」
事務所を残したオルセ。
部屋を空にしたニル。
「二人で一緒に出たの?」
「家主は見ていません。オルセは朝。ニルは宿を前夜に出ています」
「行き先は?」
「ニルは、南へ向かうと言ったそうです」
「オルセは西」
「別々?」
「説明だけが別かもしれません」
実際にどちらへ向かったかは分からない。
◇
調査隊が見つけた物の中には。
一枚だけ、ほかと違う地図があった。
町の西。
採石場候補地。
古い街道。
さらに遠く。
「この丸は?」
俺が尋ねる。
町から荷馬車で十日ほど西。
街道が二つへ分かれる地点。
「境見宿」
リゼが読んだ。
「国境?」
「領地の境です。旅人と荷車の検査をする小さな宿場があります」
丸の横に、小さな書き込み。
「何て?」
「第二鐘の便。灰川隊商」
「いつ?」
「日付は、火事の翌々日です」
今日より前。
「オルセさんは、その隊商に乗った?」
「名前は書かれていません」
「間に合う?」
オルセが町を出たのは、火事の二日前。
境見宿まで、通常なら十日。
急いでも七日か八日。
「まだ着いてない?」
「馬を替えれば、早く着く可能性があります」
ハーレンが地図を見る。
「町の門記録と、宿場へ照会を出します」
「追うの?」
カイが尋ねる。
「役人を送ります」
「俺たちも?」
「行かない」
俺は先に答えた。
「レオは行きたくないの?」
ルナが尋ねる。
「行きたい」
「じゃあ何で?」
「今、俺が追っても役に立たない」
馬に乗れない。
道も知らない。
役人の捜索を遅らせる。
「ここで、地図を作る」
帰り火が。
また誰もいない土地として扱われないために。
◇
夜。
二枚の暮らしの地図が、ようやく分けられた。
一枚は。
役場。
道路計画者。
町議会。
必要とする者へ公開する地図。
家。
仕事場。
人が通る道。
危険。
避難場所。
そこに暮らしがあると示す地図。
もう一枚は。
鍵付きの箱へ入れる地図。
見張りの交代。
病人。
一人暮らし。
予備の水や食料。
緊急時に助けが必要な人。
「隠してるみたい」
ミラが二枚を見る。
「隠してる」
「いいの?」
「守るために」
「でも、西の道も隠されてた」
「違いを残す」
何を隠したか。
誰が決めたか。
誰が見られるか。
いつ見たか。
いつ公開するか。
それを、公開用の地図へ書く。
――安全管理用の別記録あり。
――閲覧には、三管理者のうち二者の立会いが必要。
――閲覧記録は公開する。
「秘密があるって、みんなに言うんだ」
ルナが言った。
「ああ」
「変なの」
「秘密がないふりをしない」
◇
公開用の地図の隣に。
オルセの事務所から見つかった図面の写しを置いた。
西外仮宿。
地下共同蔵。
排水路。
石灰窯。
五年前から。
オルセは、そこに道があることを知っていた。
だが、役場へ出した測量図には描かなかった。
知られなければ。
道は、ないことになる。
人も。
家も。
権利も。
地図から消せば、地面からも消えたように扱える。
けれど。
見せれば安全とは限らない。
木場の見張りを描いた図は、火をつける者の鍵になった。
地図は。
人を守る。
人を追い出す。
道を作る。
道を隠す。
助けに行く者を導く。
襲う者にも入口を教える。
何を描くかだけではない。
誰に。
いつ。
何のために見せるか。
そこまで決めなければ。
地図は、開いた扉と同じだった。
オルセ・バランは。
町を出ている。
助手のニルもいない。
二人が向かった先は、まだ分からない。
ただ。
事務所に残されていた地図には。
町の西。
十日先の境見宿へ、小さな丸がつけられていた。
その宿場から先は。
今の帰り火の地図には描かれていなかった。
お読みいただきありがとうございます。
オルセの事務所からは、西外仮宿の地下通路を記した図面、古い商会封印の試し押し、火元と同種の青い布の購入記録が発見されました。
しかし、疑わしい物があまりにも多く残されており、誰かが不在のオルセへ罪を集めようとした可能性も否定できません。
次回は、町を出たオルセと助手ニルの足取りを追う一方、道路計画に対して帰り火側が初めて正式な意見を提出します。




