ep4-2.集う騎士たち
肌寒い風が吹き付ける山間に、ヴォルフ率いる騎士団の陣営が広がっていた。木々の開けたその場所で、轟々と燃え盛る篝火から噴き出る火の粉が、分厚い雲に覆われた空に向かって舞う。
「火を絶やすな!!」
「おい!罠の準備は?」
「そっち持て!いくぞ、せーの!!」
濃紺の制服を着た騎士たちが声を張り上げ、忙しなく動き回っていた。ある者は、荷馬車の中から重厚な鉄製の檻を運び出し、またある者は松明に火をくべる。全員の目に、鋭い闘志が宿っていた。
その山間は、本来生き物たちが行き交う場所だった。
しかし今は騎士たちの殺気立った気配のせいで、小動物はおろか、鳥の囀りさえも聞こえない。あるのは、炎が弾ける音と、騎士たちの喧騒だった。
陣営に張られた天幕の下、ヴォルフを中心に複数の騎士たちが作戦台を囲んでいた。
ヴォルフが作戦台の上の地図を指で叩く。
「いいか。ここから各小隊はそれぞれ“生きた狼“の住処を探せ。そこに獣の魔女がいる」
「――ハッ!!」
騎士たちの勇ましい返事が響く。
「見つけ次第狼煙を上げろ。ローエン小隊、フィン小隊は俺と来い。レオニール小隊は陣営で待機だ」
緊張と昂揚に満ちた騎士たちの目に力が入る。
「陣営が整い次第出発する。獣の魔女が使う魔獣は、再生する可能性が高い。遭遇した場合は、聖なる炎で焼き切るか、罠に嵌めて動きを封じろ」
「――ハッ!!」
ヴォルフが部下たちを一瞥した。
「獣の魔女を殺すまで、魔獣は何度でも復活するだろう。俺たちは必ず魔女を討つ。それまで戦意を絶やすな」
「――ハッ!!」
力強い返事のあと、騎士たちが天幕から散っていく。
そこにはヴォルフと3人の副官が残った。
張り詰めた空気の中、最初に口火を切ったのは、場にそぐわない間延びした声だった。
「いやー。まさかフツーの狼を探すことになるとは思わなかったっす」
フィンは、普段通りの力の抜けた顔をしていた。
直後、ローエンがフィンのこめかみに容赦なく拳をねじ込んだ。
「こら小僧!気合いを入れんか!気合いを!」
「いてっ。あー、うう、頑張るぞ、おー!」
血管の浮き出たローエンの力強い拳に負けたフィンが情けない声を出した。
騎士たちに不安はなかった。
緊張感の中には、歴戦の実績を持つ部隊特有の高揚感と、落ち着きが混じっていた。
レオニールが咳払いをしてヴォルフを見た。
「まさか、前回の“誤報“が功を奏することになるとは思いませんでした」
ヴォルフが頷く。
それは、ヴォルフがシルシをつけられた日のことだった。
なぜ村人が魔獣と狼を見間違えたのか。村人たちはその狼の死体を見て慄いていたのだ。
村人たちが次々と口にしていた言葉を思い返す。
『こんなでかいのが狼とはなぁ』
『だって色が違うしよ。狼と言えば茶色だろう』
つまり村人たちの知る狼と、その死体は明らかに姿が違ったのだ。
ただそれだけのこと。
そしてそれは、確かな兆しだった。
ヴォルフが再び地図に目を落とした。そこには赤い丸が所々に記されていた。
「灰色の狼が目撃された場所はここだけだ」
ヴォルフの目が鋭く光った。
——あの破滅は、絶対に起こさせない
ようやく掴んだ魔女の痕跡。ヴォルフの中の生命の炎が、熱く燃えたぎった。
「終わらせよう」
ヴォルフは、天幕を出て陣営を見渡す。士気は十分すぎるほど高まっていた。
忙しなく行き交う騎士たちの中、陣営の中央に、まるで時が止まったように佇む者がいた。
ヴォルフの視線が止まる。
くすんだ灰色の髪を無造作に流した、不気味な赤い目の女。
獣の魔女が、歪んだ笑みを浮かべてヴォルフを見据えていた。




