ep3-2.太陽の魔女
リナリアの指示で、フィンがノラを抱きかかえ、2階の寝室に運んで行く。
ダイニングでは、球体人形が淹れたぬるい紅茶を飲みながら、リナリアとヴォルフが向かい合って座っていた。
「あの子の村を襲ったのは、“太陽の魔女”だ」
「太陽?」
リナリアが訝しげに問いかけると、ヴォルフが神妙な面持ちで頷いた。
「ああ。名付けられたのは、いつだったか……」
ヴォルフが顎に手を当てた。
「確か、最初に確認されたのは200年以上も前だ。これまでに数回、小さな村を焼き尽くしたと記録にあった」
「何故?」
「目的は不明だ。これまで西部を中心に活動していた魔女だから、俺もそこまで把握しているわけではない」
ヴォルフの言葉を、リナリアは静かに聞いていた。
「最後に確認されたのは1年前、ノラの生まれ故郷である農村が狙われた。西のはずれにある小さな村で、討伐隊が到着した頃には、もう手遅れだったそうだ」
リナリアは目を伏せ、考え込んでいた。
「何か気になるのか?」
「黄金の炎だったわ。あれから太陽を連想するなんて、随分あなたたちは想像力が豊かね」
「ああ、それか」
ヴォルフは、リナリアに伝わるよう言葉を選んで説明を続けた。
「魔女の名付けは、聖教会がするんだが」
首を傾げるリナリアの反応は想定内だった。ヴォルフが説明を続ける。
「聖教会というのは、王国が管理する魔女対策専門の部署だ。そこで魔女を分析して、名が付くんだ」
「それで、太陽の魔女?」
「ああ。名付けは大切だ。個体名があるということは、分析された魔女ということだ。資料を見れば、その魔女を殺すためにはどうするか考えることができる」
「そう」
リナリアがふいに立ち上がり、窓の外をじっと眺めていた。
「どうした?」
ヴォルフもリナリアの横に並び立ち、その視線を追う。
そこには、リナリアの育てた草花が、月明かりに照らされていた。
「私は、花が好きよ」
「そうだな」
「自然と接続するためにも欠かせない。草花を育てるために、土も大切だけど」
リナリアが、そっと窓に手を当てた。
「私はどうして、土の魔女なんて呼ばれたのかしら」
ヴォルフは死に戻る前のことを思い返した。
「俺が君の資料を確認したときは、君は土を自在に使ったからと書いてあったけど」
「……よく分からないわ」
リナリアが目を閉じる。そして、屋敷の中で眠る少女の、生命の炎に意識を寄せた。
「あの子は、何故あなたのところに?」
「ノラか」
ヴォルフは、腕を組みながら壁にもたれかかった。
「彼女は太陽の魔女に襲われた村の唯一の生き残りなんだ。初めは近くの村で引き取られたそうだが......」
ヴォルフの視線が落ちる。
「ノラを怖がる村民が出始めた。彼女が魔女なのではないかと噂して、だ。それがゼーンズフト公爵の耳に入ることとなり、俺が引き取ることになった」
ヴォルフが小さくため息をついた。
「彼女は聖力が使える。魔女ではないことは明白だった」
「そう」
リナリアが腕をさすりながら相槌を打った。ヴォルフもそれに気がつく。
「痛むのか」
「いいえ、大丈夫」
「なら、いいが」
ヴォルフは、死に戻る前の、未来での出来事を考えていた。
ノラを引き取ったのは、未来でも同じだった。しかし、自分が死ぬまでの間に、太陽の魔女が公爵領に出没した記憶はない。それに、ノラに魔女にまつわる異変があった話も聞いた覚えがなかった。
ヴォルフが考え込む横で、リナリアが口を開いた。
「私の領域でこんなことが起きるのは、よくないことだわ」
リナリアがヴォルフを見上げた。
「あなたに何もなくてよかった」
「それはこちらの言葉だよ。君に怪我をさせてしまうことになるとは」
ヴォルフの言葉にリナリアは薄く笑った。
「怪我なんてしてないわ」
強がりか、とヴォルフは口を開きかけて止めた。
リナリアの言葉に、偽りはないと知っているからだ。
「魔女は魔女を殺せない、傷つけられない。すぐに治る傷は、怪我とは言えないのよ」
ノラの身体から抜き出てきたリナリアの腕は、黒く染まっていた。
例えそれが刹那のものであったとしても。
ヴォルフは、胸に広がる感情を誤魔化すように、息をついたのだった。




