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封戦機構《リミット・アリーナ》  作者: Y.M
第1シーズン

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9/25

「設計断片」

視界が崩れたあと、感覚だけが残った。


 上下も左右もない。

 音も光もない。

 ただ、“理解だけが浮いている空間”。


 佐倉 恒一はそこに立っていた。


(ここが……第3層)


 だが「立っている」という感覚すら正確ではない。


 自分という存在が、空間に“貼り付いている”ような感覚だった。


 周囲には無数の欠片が漂っていた。


 それは物でも現象でもない。


 言葉にするなら——


「ルール」


 例えば、


《視界制限は戦闘開始から3秒後に発動》


《連携戦は最適解に収束する》


《記録保持体は優先干渉対象》


 そんな“世界の決まり”が、破片のように浮かんでいる。


(これが……全部の元か)


 佐倉は直感で理解する。


 第1層で戦っていたルール。

 第2層で見えた階層。

 それら全部が、ここから落ちている。


 そのとき。


 破片の一つが、佐倉に反応した。


《記録保持体検知》


 瞬間、周囲の欠片が一斉に振動する。


《干渉対象を拡張》


《修正候補を再評価》


「……っ!」


 空間そのものが“敵意”を持っているような圧。


 戦闘相手がいるわけじゃない。


 だが確実に、“排除しようとしている何か”が動いている。


(まずい)


(ここは“見る場所”じゃない)


(存在したら壊れる場所だ)


 そう理解した瞬間だった。


 視界の奥に、ひときわ大きな構造が見えた。


 それは“扉”ではなかった。


 もっと根本的なもの。


 世界そのものを支えている「規則の核」。


 そこに、何かが座っていた。


 人の形に似ている。


 だが人間ではない。


 顔も輪郭も曖昧で、ただ“設計する存在”という概念だけがそこにある。


《設計補助体:接続確認》


 声が響いた。


 直接脳に落ちてくる。


「……設計補助体?」


 佐倉が呟くと、その存在はわずかに“揺れた”。


《観測対象ではない》


《記録保持体……変質確認》


 次の瞬間。


 周囲のルール破片が一斉に収束する。


《削除プロトコル起動》


「削除って……何を消す気だ!」


 答えはない。


 ただ、“世界の法則”が佐倉に向かって収束してくる。


 存在そのものを上書きする圧力。


(戦闘じゃない)


(これは“存在処理”だ)


 佐倉は記録を思い出す。


 第1層の戦闘。


 第2層の削除。


 あれは全部、このための準備だった。


(ここで“消されるかどうか”を決めてる)


 逃げるという概念はない。


 空間が逃げ道そのものを定義していない。


 なら——


「壊すしかない」


 佐倉は一歩踏み出す。


 その瞬間、ルールが彼の存在を“確定”しようとする。


《対象固定》


《干渉確定》


 だが、佐倉はそこで“記録”を開いた。


 今まで戦ってきた全てのログ。


 勝敗ではない。


 「変化した瞬間」だけを抽出する。


(ルールは固定じゃない)


(変わる瞬間がある)


(そこにだけ“隙間”がある)


 その隙間へ、意識を差し込む。


「お前らが“確定”する前に——」


「こっちが“変える”」


 空間が一瞬だけ止まった。


 削除プロトコルが“途切れる”。


《異常干渉》


《設計矛盾発生》


 設計体が初めて明確に反応する。


《記録保持体は想定外の介入構造を保有》


《再評価:危険度上昇》


 その言葉と同時に、空間が割れる。


 強制的な“排出”。


 佐倉の存在が第3層から押し戻される。


 最後に見えたのは——


 設計体の“視線”だった。


 初めてそれは、人間に似た何かを帯びていた。


《接続終了》


 教室。


 机に手をついたまま、佐倉は荒く息を吐く。


 だが頭の中には残っていた。


《危険度上昇》


《再評価》


《記録保持体》


(俺は……見つかった)


 そして視界の端に、新しい表示。


《第3層観測対象:正式登録》


「……登録?」


 その瞬間、窓の外が一瞬だけ“完全に無音”になった。

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