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封戦機構《リミット・アリーナ》  作者: Y.M
第1シーズン

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10/25

「正式登録」

《第3層観測対象:正式登録》


 その文字が消えない。


 視界の端に焼き付いたまま、佐倉 恒一の呼吸だけが浅くなる。


「……正式、登録?」


 誰に? どこに? 何のために?


 答えは出ないまま、教室の空気だけがいつも通りに戻っていく。


 戻っている“ふり”をしているだけのようにも見えた。


 放課後。


 何も起きない。


 戦闘も来ない。転送もない。


 だが、それが一番不気味だった。


(監視されてる)


(見られてるっていうレベルじゃない)


(“扱われてる”)


 佐倉は自分の手を見下ろす。


 普通の手だ。変わっていない。


 けれどもう、この手は“人間の手として扱われていない気がする”。


 その瞬間。


 机の上に、黒いカードが戻っていた。


 最初に見たあのカード。


《戦闘権限:再同期》


「……は?」


 次の瞬間、カードの表面にノイズが走る。


 今までと違う。


 文字が“揺れている”。


《対象変更》


《戦闘機構:第1層→第2層→第3層連結試験》


「試験……?」


 佐倉はカードを握りしめる。


 その瞬間、世界が“軽くなる”。


 嫌な感覚。


 重力が一瞬だけ消えたような。


《接続開始》


 もう抵抗する前提すらない。


 視界が割れる。


 転送ではなく、“接続”。


 現実がそのまま別の層に接続される。


 そこは、これまでと違っていた。


 第1層の白い空間でもない。

 第3層の情報空間でもない。


 その中間。


 歪んだ都市。


 建物はある。人もいる。

 だが全員の動きがどこか“ずれている”。


 同じ動作が繰り返される。

 視線が一定方向に固定されている。


(……これ、現実?)


 違う。


 現実“だったもの”だ。


《連結試験領域》


《対象:記録保持体》


《戦闘ではなく適応観測を実施》


 声が直接響く。


 周囲の人間たちが一斉にこちらを見る。


 だがその目は“人間の目”ではない。


 観測装置のような、空洞の視線。


 その中から、一人だけが動いた。


 普通の人間のように見える少年。


 しかし、その目だけが明らかに違う。


「……お前も、連れてこられた側か?」


 佐倉は警戒しながら答える。


「お前は誰だ」


 少年は少し笑った。


「第2適応体」


「簡単に言うと、お前の“前の試験体”だ」


「……前?」


 嫌な単語だった。


 少年は肩をすくめる。


「ここはな、実験の途中結果をまとめて観測する場所だ」


「第1層で戦わせて、第2層で壊して、第3層で“意味を付けて”」


「その途中で耐えたやつだけを、こうやって混ぜる」


 佐倉の頭が冷える。


(混ぜる?)


(実験動物みたいにか?)


 少年は続ける。


「俺は第2層で“残った側”だ」


「でも第3層には行けなかった」


「だからここにいる」


 その瞬間、空間が歪む。


《試験開始》


 全員の動きが一斉に“戦闘モード”に切り替わる。


 だがそれは戦闘というより——


 比較。


 誰が一番“適応しているか”。


 誰が一番“変化に強いか”。


 それを測るだけの空間。


 少年が走る。


 佐倉も動く。


 だがすぐに気づく。


(戦う必要がない)


(これは勝ち負けじゃない)


(“データ化”されてる)


 攻撃が当たる瞬間。


 世界が一瞬だけ停止する。


《記録更新》


《適応値:上昇》


 誰かが評価している。


 どこかの上で。


 佐倉は歯を食いしばる。


「ふざけるな……!」


 踏み込む。


 攻撃ではなく、視線の“起点”を壊す。


 観測されている場所をずらす。


 存在の焦点をずらす。


 少年が目を見開く。


「……お前、それやるのか」


「普通は気づいてもやらない」


「やったら“ズレる”からな」


 佐倉は答えない。


 もう迷っていない。


 次の瞬間。


 空間にノイズが走る。


《試験エラー》


《観測対象逸脱》


 世界が揺れる。


 気づけば、教室に戻っていた。


 だが今回は違う。


 佐倉の机の上に、もう一つカードが増えている。


《第3適応体:承認》


「……承認?」


 そしてその下に、小さく一行。


《次段階:設計体接触予定》


 窓の外。


 空が一瞬だけ“開く”。


 そこにはもう、層ではない。


 何かが“こちらを見ている場所”そのものだった。

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