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封戦機構《リミット・アリーナ》  作者: Y.M
第1シーズン

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8/25

「第3層接続」

 黒板に残った一行。


《第3層接続許可》


 それを見た瞬間、佐倉 恒一は背中が冷えるのを感じた。


(許可って……誰のだよ)


 教室は普通だ。机も椅子も、さっきまでと何も変わっていない。

 さっきの“削除”も、“非人間領域”も、全部夢だったようにすら見える。


 だが、体だけは覚えている。


 世界そのものが“書き換えられかけた”感覚。


 放課後。


 戦闘は来なかった。


 いや、“来ていないこと自体が異常”だった。


 これまでなら、一定間隔で強制的に引きずり込まれていたはずだ。


(間を空けてる?)


(それとも……準備してる?)


 嫌な想像だけが増えていく。


 帰り道。


 人混みはいつも通りだった。


 だが、佐倉には違って見えた。


 通行人の“動き”がわずかに不自然だ。


 同じタイミングで振り向く人間。

 同じ速度で歩幅を合わせる影。


(……いや、気のせいじゃない)


 視線。


 どこからか、見られている。


《接続準備》


 その文字は、頭の中に直接出た。


「……またかよ」


 次の瞬間、世界が“裏返る”。


 落下でも転送でもない。


 現実の表面がめくれるように剥がれ、別の空間が露出する。


 そこは、第2層よりさらに“静か”だった。


 音がないのではない。


 “意味がない”。


 存在しているのに、理解できない空間。


 そして、その中心に——


 扉があった。


 巨大な、何も書かれていない扉。


「来たか」


 背後から声。


 観測者だった。


 だが今までと違う。


 少しだけ“距離が近い”。


「ここが第3層だ」


 佐倉は振り向かずに言う。


「説明しろ」


「もういい加減、“説明不足で命懸け”は疲れる」


 観測者は少しだけ間を置いた。


「第1層は戦闘」


「第2層は観測」


「第3層は——設計」


 佐倉はようやく振り向く。


「設計?」


「そうだ」


「戦闘ルールそのものを作っている層」


 その言葉で、すべてが少しだけ繋がる。


(リミットも)


(相手の行動も)


(全部“作られてる”)


 観測者は扉を見上げる。


「我々は観測者ではあるが、設計者ではない」


「第3層にいる存在が、戦闘のルールを定義している」


 佐倉は一歩近づく。


「じゃあそこに行けば終わるのか?」


 観測者は即答しない。


 代わりに、静かに言った。


「終わるかどうかは、“君が何者かによる”」


 扉が、わずかに開く。


 中から出てくるのは光でも闇でもない。


 “情報そのもの”。


 視界に入れた瞬間、頭が割れそうになる圧。


(これ……理解しようとしたら壊れる)


《第3層アクセス試行》


《対象:記録保持体》


《適合判定:未確定》


 佐倉は歯を食いしばる。


「適合って何だよ……俺はただの人間だぞ」


 観測者は少しだけ視線を落とす。


「それが問題だ」


「第3層は“人間を前提としていない”」


 扉の奥から、“声”がする。


 音ではない。


 概念の振動。


《変化率確認》


《記録保持体:干渉値上昇》


 その瞬間、佐倉の記憶が勝手に引きずり出される。


 これまでの戦闘。


 削除された空間。


 第2層の歪み。


 すべてが一枚の図のように重なる。


(やっぱり全部……繋がってる)


 観測者が言う。


「君はもう戻れない」


「第3層を認識した時点で、君は“構造の中”に入った」


 佐倉は拳を握る。


「戻る気はない」


 即答だった。


 観測者は少しだけ沈黙する。


「なら選べ」


「進むか」


「ここで“観測対象として固定されるか”」


 扉が完全に開く。


 中には何もない。


 ただ一つだけ。


 “無数のルールの断片”が漂っている。


 世界の設計図の欠片。


(これが……第3層)


(ルールの“元”)


 佐倉は一歩踏み出す。


 その瞬間——


 視界が完全に崩れた。


《第3層接続完了》


 最後に見えたのは、観測者の表情だった。


 初めて、わずかに“揺れていた”。

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