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封戦機構《リミット・アリーナ》  作者: Y.M
第1シーズン

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2/25

「記録の代償」

戦闘が終わった瞬間、世界は何事もなかったように戻った。


 白い円形空間は消え、視界は元の教室へと切り替わる。


「……は?」


 佐倉 恒一は机に手をついたまま、荒い呼吸を繰り返していた。


 胸の痛みも、床に叩きつけられた感覚も、まだ残っている。

 だが周囲の生徒たちは誰一人として彼を見ていない。


 まるで、何も起きていないかのように。


(夢……じゃない)


 手のひらを見下ろす。そこに、黒いカードはもうない。


 代わりに、視界の端にだけ表示されていた。


《戦闘結果:敗北未確定》

《記録保存:完了》


「……記録?」


 その単語を口にした瞬間、頭の奥で何かが“開く”。


 殴られた角度。

 相手の重心移動。

 次に来る攻撃の“癖”。


 全部が、映像ではなく“理解”として残っている。


(思い出してるんじゃない)


(最初から知ってたみたいに“分かる”)


 気味が悪かった。


 放課後。


 教室を出た瞬間、再び視界が揺れた。


《戦闘権限:再付与》


「またかよ……!」


 抗議する間もなく、足元が消える。


 落下ではない。転送。


 再びあの白い空間。


 そして、同じように立っている仮面の人物。


「二回目戦闘。開始」


「ちょっと待てって言ってるだろ!」


 返事はない。


 相手は一切の無駄なく踏み込んでくる。


 ——速い。


 だが今度は違う。


(見える)


 攻撃の“起点”が分かる。


 一度体験した情報が、体を勝手に動かす。


 紙一重で避ける。


 仮面の男が小さく息を吐いた。


「記録保持者か」


「は……?」


 その言葉に反応するより早く、次の攻撃。


 しかし今度は当たらない。


 全部、知っている。


 だが——


(……これ、きついな)


 回避はできる。

 理解もできる。


 けれど身体が追いつかない。


 1回目の戦闘では“情報不足”だった。

 2回目では“肉体不足”が問題になる。


 そして気づく。


(この戦闘、勝つために設計されてるんじゃない)


(“負けるように設計されてる”)


 仮面の男が距離を取った。


「初回適応率……想定以上」


「何だよそれ……!」


 男は答えない。


 代わりに、空間に文字が浮かぶ。


《リミット更新》


《条件変更:視覚制限追加》


 その瞬間、世界が暗くなる。


「……見えない!」


 完全な暗闇ではない。

 だが“輪郭”だけが曖昧になる。


 情報が削られている。


(やばい……これ、記録があっても意味が——)


 その考えが終わる前に、衝撃。


 腹部に一撃。


 息が止まる。


 地面に膝をつく。


《戦闘データ更新》


(まただ……)


 倒れながら、理解する。


 この戦いは「覚えれば勝てる」構造じゃない。


 覚えた瞬間、それを上回る“制限”が追加される。


 まるで、機構そのものが学習しているように。


 仮面の男が静かに言った。


「記録保持者は危険因子だ」


「だから最初に壊す」


 次の瞬間、視界が完全に閉じた。


《戦闘終了》


 再び教室。


 椅子から転げ落ちるようにして目を覚ます。


 息が荒い。


 全身が重い。


 だが頭の中だけが、異様に冷静だった。


(これ……詰みじゃないか?)


 記録は残る。

 でも戦闘はその上を行く。


 勝てるように学習するたび、相手も“ルールごと変えてくる”。


 そのときだった。


 視界の端に、新しい表示。


《観測者アクセス許可》


「……観測者?」


 その言葉を見た瞬間、教室の窓の外が一瞬だけ歪んだ。


 誰かが、こちらを見ている。

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