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封戦機構《リミット・アリーナ》  作者: Y.M
第1シーズン

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3/25

「観測者」

その表示を見た瞬間、佐倉 恒一は呼吸を止めた。


《観測者アクセス許可》


 意味が分からない。


 だが、“分からないのに嫌な予感がする”という感覚だけがはっきりしていた。


(また来るのか? 次の戦闘?)


 そう思った瞬間だった。


 視界が、もう一度だけ揺れる。


 しかし今度は転送じゃない。


 “重ねられたようなノイズ”。


 教室の中に、薄い影が一つ増えた。


 人間の形をしているが、輪郭が安定していない。


「……誰だ」


 声を出しても、周囲の生徒は反応しない。


 見えていない。


 いや、違う。


(俺だけが見えてる?)


 影がゆっくりと近づいてくる。


 その動きは戦闘者のそれではない。

 もっと観察する側の動きだ。


「記録保持者、佐倉 恒一」


 初めて、はっきりと声が聞こえた。


「……お前、何だ」


「観測者。戦闘機構リミット・アリーナの外側から、記録を確認する存在」


 外側。


 その単語に、胸がざわつく。


「外側って何だよ……あの戦闘は現実じゃないのか?」


 観測者は少しだけ沈黙した。


「現実だ。ただし、“設計された現実”だ」


 意味が分からない。


 だが、妙に納得してしまう自分がいる。


 観測者は空中に何かを表示した。


 それは映像だった。


 先ほどの戦闘。


 仮面の男。


 リミットの追加。


 そして自分が倒れる瞬間。


「これが記録だ」


「お前の脳に保存されているものと同じ」


「ただし、通常の参加者は“戦闘後に一部を欠損する”」


 佐倉は息を呑んだ。


「……欠損?」


「恐怖、痛み、戦術理解の一部。必要な情報だけが削られる」


「戦闘を“日常に持ち帰らせないため”だ」


 背筋が冷たくなる。


(じゃあ俺だけが全部覚えてるのは……)


「異常値だ」


 観測者は即答した。


「記録保持者は、本来存在しない」


 沈黙。


 教室の音だけが、やけに遠く聞こえる。


 佐倉はようやく口を開いた。


「……なんで俺なんだ」


「選ばれたわけではない」


「“ズレた”だけだ」


「システムは完全ではない」


 その言葉は、救いではなかった。


 むしろ最悪だった。


 偶然。誤差。バグ。


(つまり、いつ消されてもおかしくないってことか)


 観測者は一歩下がる。


「忠告する」


「記録保持者は“観測対象”ではなく“修正対象”になる」


「既に戦闘機構は君を認識している」


「次の戦闘から、難易度はさらに変化する」


 佐倉は拳を握った。


「……じゃあどうすればいい」


 観測者は一瞬だけ沈黙した。


「生き残る方法は一つ」


「“戦闘のルールそのものを理解すること”だ」


「勝つことではない」


「設計を読むことだ」


 その言葉を最後に、影が薄れていく。


「待て!」


 声を出した瞬間、観測者はもういなかった。


 代わりに、最後の言葉だけが残る。


「次の戦闘は、“学習戦”になる」


《観測ログ終了》


 教室に戻った佐倉は、机に手を置いたまま動けなかった。


(勝つとか負けるとかじゃない)


(これは“理解できるかどうか”の戦いだ)


 そのとき、視界の端にまた表示が出る。


《次回戦闘準備:適応フェーズ開始》


 窓の外。


 一瞬だけ、誰かの視線を感じた。


 今度はもう、気のせいではない。

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